[寄稿]知識生態系の復元なしで世の中は変わらない
2018/12/12 ハンギョレ新聞
キム・ドンチュン聖公会大NGO大学院長
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20181212-00032333-hankyoreh-kr
国内外からの途方もない挑戦に対抗しなければならない韓国の知識生態系は、ほぼ崩れた。ところが、文在寅政府の100大課題に「学問」という単語は一度も登場しなかった。きわめて重要な政策決定を控えて、米国の“世界的”専門家だけ呼んでくれば良いと考えているのだろうか?
文在寅(ムン・ジェイン)政府は、ゴールドマンサックス出身の経済学者、クォン・グフンを北方経済協力委員会の委員長に任命した。彼は朴槿恵(パク・クネ)前大統領が言った「統一大当たり」報告書を出した人物として知られている。政府は彼の人選に対する批判が出ると、南北交流の状況を念頭に置いたと説明したが、彼の履歴から察してみれば文在寅政府は北朝鮮を投資先、すなわち無主空山の市場の観点だけで接近しているのではないかという疑問を持たざるをえない。
私は経済専門家として彼の能力を疑うわけではない。ようやく上昇している南北和解と平和の気勢を、文在寅政府がどのようにリードしていく計画なのかを問いたい。南北の和解と平和は、南北双方の巨大な質的転換と北東アジアの政治・経済秩序全体の再構築を要求する過去70年間で初の大事件なのに、果たして韓国がそれにまともに対処できるのかを尋ねたい。
1990年代以後、最近まで韓国には二つの幽霊が飛び交っていた。「北朝鮮崩壊論」と「市場万能論」がそれだ。1994年7月、金日成(キム・イルソン)主席が死亡した時、韓国の大多数の政治学者、主流マスコミ、国策研究機関は、北朝鮮の崩壊が差し迫ったと叫んだ。当時、チョン・ジョンウク大統領安保補佐官が、米ホワイトハウス安保担当補佐官との電話で「北朝鮮は6カ月ないし2年以内には崩壊するだろう」と話したというが、金泳三(キム・ヨンサム)大統領は「いつ突然、統一が目前に迫ってくるやもしれない」として、北朝鮮崩壊の可能性まで暗示した。ところが、そんなことはなかった。
1997年の外国為替危機で、国が国家不渡り状態に追い込まれ、国際通貨基金(IMF)管理体制という屈辱を味わった時、大多数の経済学者、主流マスコミ、国策研究機関は、市場経済、外国資本の流入、公企業の民営化、労働市場の柔軟化が韓国経済の体質を改善すると異口同音に叫んだ。それで韓国は、IMF管理体制を早期卒業したが、最も急進的な方式で新自由主義体質に変わった。その結果、財閥体制は強化され、経済協力開発機構(OECD)加盟国内で最高水準の賃金不平等、資産不平等国家になった。産業政策がなくなり内需市場が生き返れずにいるのもこれと関係がなくはないだろう。
今、全世界は低成長基調が維持されていて、気候環境の危機は人類の生存を脅かしていて、一カ月にわたり続いているフランスのデモが見せるようにグローバルな不平等は極に達している。事実、韓国の青年たちの挫折は、フランスの青年たちに勝るとも劣らないが、彼らは声を上げる方法を知らないのでだまって文在寅政府に対する支持を撤回しているだけだ。
金大中(キム・デジュン)・盧武鉉(ノ・ムヒョン)政府は、そうした「北朝鮮崩壊論」を無視して、対北朝鮮和解政策を展開したが、政府、学界から友軍の支援を受けられず、福祉拡大や社会的合意を推進する意志はあったが経済学者や経済官僚、主流マスコミの市場主義と親財閥談論のじゅうたん爆撃を受け、ほとんど一方的に押されて彼らの主張を概して受け入れた。今日、文在寅政府の平和・対北朝鮮和解戦略は褒められてしかるべき大成課だが、クォン・グフンの任命が象徴するように方向と対北朝鮮経済交流の哲学が開発独裁成長主義方式の朴槿恵政府と何が違うかも明らかでない。
外国為替危機当時、IMFが韓国に要求した無理な構造調整と経済開放の処方が、韓国経済を生かす道だったと今も考えている人はいないだろう。脱産業化時代の世界経済秩序、過去の東西ドイツ統一の経験、北朝鮮現代史と変化する北東アジアの国際政治に対する識見に基づいた長短期の国家戦略、特に南北の普通の人の生存と自尊心を画期的に改善するための戦略が必要だが、そうした青写真をゴールドマンサックスや世界銀行が提供してくれるだろうか?
朝鮮末期の科挙試験で最優等出身官僚らが、西勢東漸の時代変化を読んだか?外国為替危機当時、司法試験・行政試験出身の最優等判事や官僚が、国家不渡りを警告したか?大学にいるハーバードやシカゴ経済学の博士全員を集結させ頭を絞れば答が出て来るのか?政党や国策研究機関には、北朝鮮、中国、ドイツ、米国の専門家がどれほどいるか?
国内外からのこの途方もない挑戦に対抗しなければならない韓国の知識生態系は、ほぼ崩れた。ところが、文在寅政府の100大課題に「学問」という単語は一度も登場しなかった。きわめて重要な政策決定を控えて、米国の“世界的”専門家だけ呼んでくれば良いと考えているのだろうか?知識と学問は、国家のインフラのうち最重要なインフラだ。学問は、学者の生計のためにあるのではなく、国家大改造のための理念、政策、教育、言論、出版、全てのものに関連している。政権が変わっても世の中が変わらないと考えるならば、変化を導く知識集団があるのかも尋ねなければならない。
キム・ドンチュン聖公会大NGO大学院長 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )