「髪の毛が後退しているのではない。私が前進しているのである。」
今月8日に投稿されたこのツイート。ハゲネタで話題をさらったのはまたしても彼である。「ハゲは、病気ではなく、男の主張である。」などと、以前から自身の髪の毛に対して前向きな姿勢を見せることが多かったが、このようなユニークさや、気取らないざっくばらんなところが、彼がカリスマ経営者として高い人気を博している理由のひとつなのかもしれない。ソフトバンクの孫正義社長である。
さて話は変わって、昨年12月25日にトヨタは14代目となる新型クラウンを発表した。どこでもドア仕様というピンクのクラウンに驚かされた方も多いだろう。フロントグリルがバンパー部分まで大きく開口したデザインの採用もそうであるが、これらは、トヨタやレクサスを、世界的な革新の中でも埋没しないブランドへと引き上げ、加熱していく競争の中で継続的に勝ち抜いていく為の術のひとつとして、トヨタがデザインを選択重視し、その改革に本腰を入れた成果であるといえる。よく「トヨタ車は万人受けするが個性を欠く」と言われる。そのトヨタ車をここまで変えてみせたのが豊田章男社長(以下、章男氏)である。「デザインを格好良く変えて欲しい」。関東自動車工業(現、トヨタ自動車東日本)へ転身していた福市常務を本社の常務役員に戻し、章男氏はそう言った。
「いいクルマを作る。楽しいクルマを作る。」
社内外に“原点回帰”の方針を示し続けたことで、販売台数や収益ばかりに固執していた社内の雰囲気を一変させた。2009年から2010年にかけての大規模リコール問題の際、章男氏は「会社の成長が早すぎて人材育成のスピードを上回っていた」と述べ、“顧客目線に立つ”ことを、“原点に戻ってクルマ作りを見直す”ことを決心したという。社長自身が変わった瞬間である。この時の教訓を生かし、章男氏は数値目標を掲げることはしなくなった。社員へ投げかける言葉はいつも「もっといいクルマを作ろう」、それだけである。
その言葉の意味を全社員が考え抜いた成果が今あらわれようとしている。社長の想いが言葉に乗って全社員の心に浸透した瞬間である。まさにRe BORN。トヨタが生まれ変わったのである。根っからのクルマ好きレース好きで知られる章男氏のクルマ熱と、トヨタという完成された組織が完全に融合した際に、トヨタがどうなるのか関心を寄せる者は多い。
トヨタ自動車株式会社で見ると、連結での従業員数は約30万人となる。もう一度言うが30万人である。これだけの人を言葉で変えたのだ。もちろん一人一人と関わったわけではない。組織立ったトヨタである。示されたから従っただけだという者もいるだろう。しかしそれでも30万人の組織を変革したことに違いはない。あなたの会社は、医院は、何人だろう。5人?10人?50人?100人?1000人?30万人に比べれば…などと言えるだろうか。1人でさえ、言葉で人を動かすのはなかなか難しいものである。組織全体を変えていくともなればその道筋すら見えなくなるだろう。この分野には専門のコンサルタントがいるが、いずれもある程度の期間を見積もってくるはずだ。組織を変えるには時間がかかる。「今日覚えたコンサル先生から習ったトーク術で明日からは社員もスタッフも大変化!」なんてことは絶対にない。あればそれは“賢い従業員”による裸の王様が完成した瞬間である。
人を変えることが難しいということはわかった。では、組織を変えるには一体どうすればよいのかとあなたは問われる。ひとつ私がお勧めしたいのは、「まず自分が変わる」ということである。これなら簡単だ。従業員の誰かを変えるわけではない。変わるのはあなたの方なのだから。「そんなこと言っても変わらないよ。第一、自分の変え方なんてわからないしね。」と、次にあなたは仰るかもしれない。
では、どのようにして自分を変えるのか。それは、種類を問わず多くの講演やスピーチを目にして耳にすることである。演劇や映画等も良いだろう。この「見て、聞く」ということが自分を変えるためには重要になってくる。私も今年は、年初から冬ごもりばかりもしてはいられないと、とある全国的に有名な方の講演を見て、聞いてきた。ここで大切なのは、見て、聞いたらその時に必ず“感じる”ということである。絶対に考えてはいけない。「ふーん」「ほー」「へー」と、ニュートラルな気持ちでありのままを感じなければならない。自分を変えるということは、「多くのことを知り、多くのことを感じる」ということである。時間はかかるが私はこの方法が一番だと思っている。
「ちょっと待て。話はわかったが、組織を変えたいのにそもそもなんで自分が変わらなきゃならんのだ。」と思われたかもしれない。しかしそれは間違った考え方である。なぜなら、組織はあなたのコピーだからだ。組織とは“鏡に映ったあなた”である。あなたが作ったあなたの組織なのだ。あなたが変わらずに鏡に映ったあなただけが変わるだろうか。変わらないといけないのはまずはあなた自身なのである。あなたが変わればあなたの言葉が変わり、あなたの言葉が変わればあなたの組織が変わる。あなたの組織が変わればお客様が変わるのである。
変革を遂げたトヨタはまず社長が変わった。そして社長は、想いを言葉に乗せ、その言葉を社内外に駆け巡らせたのである。「もっといいクルマをつくろう」。運ばれたその言葉は従業員の心を動かし、ひとりひとりを変えていった。ひとりひとりが変わることで組織が変わっていった。社長が変わることで組織は変革を遂げたのである。
変革を遂げたあなたの組織はより強靭になり、どんなに競争が激しくなっても勝ち抜いていけるようになるだろう。ここに業界一位のA社と業界二位のB社があるとしよう。市場で優位にあるA社の組織図をB社がいくら完璧に真似ても、A社の全システムをB社が完全に導入しても、B社がA社と同等のパフォーマンスを発揮することは決してない。A社の競争優位の源泉は組織図にあるのではなく、システムにあるのではなく、そこで働く人によって成り立っている組織そのもの、即ち、目に見えない触れない部分にあるからである。このように、競合他社、競合医院から模倣されにくい組織、それが“変革を遂げた組織”である。組織が変革を遂げ、組織それ自体が競争優位の源泉となれば、価格設定や設備投資など簡単に真似ることができる競争環境から離脱することができるのである。ここに組織を変革する意義がある。
随分と偉そうなことを言ってきたが、それでも人や組織というものはなかなか思い通りには動いてくれないものである。しかしだからこそ、動いた時の衝撃と感動は大きいのかもしれない。そして、この衝撃を起こせるのは経営者であるあなただけなのであり、その感動は経営者であるあなただけが味わえる醍醐味なのである。
今年ももう3週間も過ぎてしまった。過ぎ去った日々に後悔をしても仕方ないが、年始の誓いに立ち戻るにはいい時期だ。リーダーシップとは組織をマネジメントすることではない。リーダーシップとは、変革をもたらし組織を良くすることである。今一度立ち止まって目の前を見つめなおし、大寒の張りつめた空気の中、経営者として、組織として、新しい年に新しい一歩を踏み出してみてはいかがだろうか。
弊所では年に複数本にわたるセミナーを実施しており、代表である福田の各種セミナーはわかりやすくとても楽しいと定評を得ております。どうせ見て、聞くのだったらまずは福田さんのところのでもと、思っていただければ幸いでございます。セミナー案内は弊所サイト上で適時に更新するようにしておりますので興味を持たれた際には是非ともご参加くださいますようお願い申し上げます。
皆様にとりまして、今年一年、よりよい年となりますようお祈り致しております。
■参考リンク
孫正義Twitter
トヨタ
CROWN Re BORNスペシャルサイト
監査部一課 原浩恭