皆様こんにちは、GWは楽しい思い出ができましたでしょうか、ほんと過ぎてしまえばあっという間ですよね。私もまだまだダラダラしたい気持ちを必死に抑えつつ、迫りくる3月決算法人の申告に、今一度気を引き締める所存でございます。
さて、本日のテーマは馬券の利益(所得区分)についてです。
テーマの概要をご説明する前に、皆様に質問です。馬券を購入し利益が1億4,000万円出たとして、それに対し所得税を5億7,000万円納付してください、と言われたらどうしますか?
もちろん、「えっ!?」ってなりますよね?本日はその「えっ!?」という事案について平成27年3月10日最高裁にて判決が出ましたのでご紹介させていただきます。
あっ、話はそれますが先日の天皇賞春ゴールドシップの走りかっこよかったですねー。あれだけゲートを嫌がって暴れていたのに、最後方からの一着なんて、感動しました!さすが怪物です。
それでは事案の概要をご説明します。
平成19年からの3年間でインターネットを通じて28億7,000万円の馬券を購入し、払戻金30億1,000万円を得た男性が確定申告をしていなかった。そこで検察は国税当局の見解に基づき「払戻金は一時所得に当たり、経費といえるのは当たり馬券代だけだ」と主張していた。
要約すると以下の通りとなります。
(この男性の場合)
平成19年~21年の3年間に 約30億1,000万円の払戻金
約28億7,000万円分が馬券の購入費用
∴利益は約1億4,000万円
(男性の主張)
平成19年~21年の3年間に 約30億1,000万円の払戻金・・・「収入」
約28億7,000万円分が馬券の購入費用・・・「必要経費」
∴利益は約1億4,000万円・・・「課税対象」→納付税額:約5,000万円
(大阪国税局の主張)
平成19年~21年の3年間に 約30億1,000万円の払戻金・・・「収入」
当たり馬券の購入額(約1億1,000万円)・・・「必要経費」
∴収入-必要経費=約29億円・・・「課税対象」→納付税額:約5億7,000万円
裁判所の判断を申しますと、大阪地裁、大阪高裁、最高裁いずれも男性の主張を支持しました。
それでは何故このような判断になったのか見ていきましょう。
個人の所得は10種類に区分がされ、所得計算上それぞれ違った取り扱いがされます。
今回、問題となった当たり馬券の払戻金は、通常は一時所得(所得税基本通達34-1)とされており、一時所得の「収入を得るために支出した金額」(必要経費)は収入金額を得るために直接必要となったものに限定されることから当たり馬券の場合、その当たり馬券を購入するために要した馬券代だけであり、ハズレ馬券の購入代金は含まれないとし、大阪国税局は上記の主張をしております。
また、一時所得とは「営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の所得で、労務や役務の対価としての性質や資産の譲渡による対価としての性質を有しない一時の所得」とされています。
今回の裁判所の判断は、「個々のレースに着目せず網羅的に馬券を大量購入し、利益を上げ続けており、一連の行為は経済活動といえる」と指摘。この事案での払戻金は経費をより多く算入できる「雑所得」に当たると判断し結局、検察が主張した約5億7,000万円の脱税は5,000万円余りとしか認めず、男性には懲役2月、執行猶予2年(求刑懲役1年)の刑が確定しました。
要するに、それだけたくさん網羅的に買った事で何度も当たったのであれば、もはや馬券が当たることはその人にとって単発で偶発的なものではないということです。
この雑所得は他の9種類にどれもなじまない所得であり、その所得金額は
総収入金額-必要経費とされます。
この場合の必要経費は
(1) 総収入金額に対応する売上原価その他その総収入金額を得るために直接要した費用の額
(2) その年に生じた販売費、一般管理費その他業務上の費用の額
とされるのですが、今回はハズレ馬券が上記に該当するものとして必要経費と認められたわけです。
皆様、いかがでしたでしょうか。過去の通達等ではなく裁判所の法の解釈にほっとされた方もいらっしゃるのではないでしょうか。しかし、今回の事案ではどれくらいの馬券を購入し、どのような購入方法をすれば雑所得と認めるなど、明確な基準は示されていない事には注意が必要です。
個人的には、インターネットでの取引は全て雑所得とするべきだと思います。それはハズレ馬券を拾うなどしての経費の水増しは不可能であることや、収支が明白だからです。
もっと言えば、インターネットでの取引に関しては、株取引のように3年間損失を繰り越せるようになるといいな、と感じました。
最後に、この男性のように雑所得と認定されるようなケースで損失がでるような方は、他の雑所得との損益通算が可能となります。例えば、年金受給者が馬券を購入し損をした場合、公的年金の所得と競馬の損失が相殺されることから、その所得を確定申告することで年金の源泉所得税が還付されることになります。
監査部 一課
梅北 聖人