法人でも個人でも事業を営んでいると、多くの場合は年に1回の決算があると思います。
決算では当期の財産状態や経営成績を明らかにして決算書を作成し、税務署等に申告することになります。
申告の期限は法人の場合は決算日から二か月、個人の場合は翌年の3月15日が申告期限です。
振替納税の手続きをとっている場合や、税目によっては若干の違いはありますが、
申告期限=納める税金の納期限であることが殆んどです。
無事に決算を終えて申告まで済まそうとしたとき、見受けられることがあります。
急な業績の悪化や予定していた入金がまだない場合、税金を払うだけのキャッシュがない、ということです。
そのようなことはあってはならないことですが、長く事業を営んでいるとこんな状況に陥る可能性もゼロとは言えない
かもしれません。転ばぬ先の杖、と言う訳ではありませんが、そんなとき、どんな対応をすべきか知っておくのと、
知らないのでは気持ちのありようが違うと思いますので、今回はそんな話しを国税に限定して進めてみたいと思います。
申告書が完成した段階で、納税するだけのキャッシュが今すぐ準備できないという場合、
もしそのまま、放置していておくと税務署から督促状が届きます。
督促状が送付されてもなお納付されないときには、財産の差し押さえなどの滞納処分を受ける場合があります。
納税者である私たちが、この「納めるべき税金の未納」という状況を放置しておくと
税金を徴収する側としても“財産の差し押さえなどの滞納処分”という段階に進まざるをえない、ということです。
そのようになる前に何かできることはないのか、ということに注意を向けたとき、
『国税を一時に納付できない場合の猶予制度』があります。
【国税の猶予制度の概要】
国税を一時に納付することにより事業の継続又は生活の維持を困難にするおそれがあり、
かつ、納税に対する誠実な意思を有すると認められるときは、猶予を受けようとする国税の納期限から
6か月以内に所轄の税務署に申請することにより、1年以内の期間に限り、財産の換価(売却)や
差押えなどの猶予が認められる場合があります。
『換価の猶予』とは
国税を一時に納付することにより事業の継続又は生活の維持を困難にするおそれがあると認められる場合に、
申請に基づいて差押財産の換価(売却)が猶予される制度です。
『納税の猶予』とは
災害、病気、事業の休廃業などによって国税を一時に納付することができないと認められる場合や、
本来の期限から1年以上経って納付すべき税額が確定した国税を一時に納付することができない理由があると
認められる場合に、申請に基づいて納税が猶予される制度です。
◆猶予の効果
“換価の猶予”が認められると・・・
① 既に差押えを受けている財産の換価(売却)が猶予されます。
② 差押えにより事業の継続又は生活の維持を困難にするおそれがある財産については、差押えが猶予(又は差押えが解除)される場合があります。
③ 換価の猶予が認められた期間中の延滞税の一部が免除されます。
“納税の猶予”が認められると・・・
① 新たな差押えや換価(売却)などの滞納処分の執行を受けません。
② 既に差押えを受けている財産がある場合には、税務署に申請することにより、その差押えが解除される場合があります。
③ 納税の猶予が認められた期間中の延滞税の全部又は一部が免除されます。
猶予制度を受けるためには所轄の税務署に「換価の猶予申請書」を納期限から6カ月以内に提出しなければなりません。
しかし、この申請書を提出したら100%猶予されると言う訳ではありません。
たとえば、国税の滞納がないことが猶予を受ける条件として挙げられています。
本来、納税時にキャッシュが無い、ということはあってならないことだと思います。
しかし、猶予制度があるということを知っているだけで随分、対応のしかたが異なってくると思います。
一番良いのは、このような制度を利用しなくてもいいように、納税資金をあらかじめ定期積金等で準備しておかれると
よいと思います。もし決算直後の資金繰りに不安がある方は、定期積金を今日から始めましょう。
そして猶予制度があることも頭のスミにおかれておくと良いと思います。
監査部 2課
波多江正暁