主夫もどきを始めて1週間が過ぎた。私は食事だけを
担当ながら、いやはや、その忙しさにあきれている。
ちょっとでも、外に行く用事があればたちまち1日が吹っ飛んで
なかなか、お絵描きが出来ないでいる。しかもどういうわけだか
先週一週間毎日のように用事があって、バタバタとした日々に
なっていた。
そんな折、最近見つけてよく行っている食品スーパーに
魚を買いに行った。例によって掘り出し物を見つけるためだ。
海の幸は気まぐれで、いつでも新鮮でおいしい魚が手に入る
とは限らないのだ。その日その日で魚の種類も違うし、大きさ・
値段も変わるのである。
この日はクロダイのなかなかいい型(手尺で45センチ)で
1、350円、という掘り出し物だ。4~5尾置いてある内の
一番デカそうなのを、ビニール袋をひっくり返して掴むと、
さっそく魚売り場のオッチャンに「捌いてもらえますか?」と言うと
「10時にならないとだめなんだよねえ」とあっさり断られて
しまったではないか。
「え~っ」と時計を見ると、9時45分。確かにここの店は
10時開店である、いち早く潜り込んだわたしが悪うござんした。
あと15分待ってればいいんだろうが、ままよ、以前捌いたことは
あるんだし、久々にやっちゃうか…とそのまま帰宅した。
そして、デバを片手に捌き始めたのだが、このクロダイ
思ったよりも大きく、ウロコもデカイ。しかも、タイの骨は
犬殺しの異名を取るほどの硬さなのだ。
まずウロコを剥がすべく、デバの背側でやるが、こいつが
荒く、太く、エラク丈夫で一苦労だ。ウロコが終わると
三枚に下ろし、粗の頭を半分に切ろうとするが、なかなか
切りきれない。四苦八苦しているところへ身内の一人が
帰ってきて、その様を見るなり、「わあ、血だらけ!まるで
サスペンス劇場みたい」とその凄まじい様に驚いて思わず
そう口走ったのだった。
結局、悪戦苦闘の末に1時間後になんとか捌き終えたものの、
台所の周りは、ビニールをかぶせてやったにもかかわらず、
鱗が飛び散り、台所の中は血の海と化していたのだった。
当然わたしは返り血を浴びていて、顔や手に鮮血を付け、
疲れと、安堵で茫然とつっ立っているその手には血だらけのデバ…。
なるほど、サスペンス劇場の一幕である。
こんな姿を人に見られたら…と思った矢先に、「ピ-ンポーン」
と、玄関チャイムが鳴ったではないか。身内は自室に引っ込んで
出てきそうにない。
「ピンポーン」さらに玄関チャイムは鳴り響く…。わたしは茫然と
突っ立ってる、「ピンポーン」「ピンポーン」…。
「ガチャッ」と、どアを開けたのは覚えているのだが…。