2008/01/16
ぽかぽか春庭>ことばのYa!ちまた>写文・「寝耳に水」
ある言葉、四字熟語、詩、など読んだとき、「あ、いいな」と思ってもたいてい読みっぱなしなので、忘れてしまうことが多い。
あとになって、あ、あの言葉、どの本の中にでていたんだっけ、と思い出したくても、もうどの本にあったのか、なんて、すっかり忘れている。
これからは、ますます記憶力が減退する一方でしょうから、できる限り文を写しておくことにします。ネットに人様の文章を丸写しにすると、著作権だの何だのって、いろいろむずかしい問題もあるのでしょうけれど、あくまでの自分の防備録。
著作権にひっかかるなら、削除しますので、写させてください。
『ちくま』2005年3月 表紙ウラ。吉田篤弘「という、はなし」15回「寝耳に水」のコピペ
==============
少年期というものが、いつ終わったのか知らない。だからといって「永遠の少年」がどうのこうのと口走るのはいかがなものか。
いつであったかはともかくとして、それは間違いなく終わってしまったはずで、無造作に押し入れへ仕舞い込んだのを「ああ、そんなものもあったっけ」と、新たに浮上した記憶も又思いこみかもしれない。
とにかく、<少年>は挨拶もなしに去ってしまった。残されたのは体重ばかりが増えてゆく脂肪の固まりだ。それでも開き直って「少年は去ってしまったからこそ永遠なのだ」と自分なりのセリフも準備したりしてみる。
そこへ、、、、
「お前はさぁ」
唯一無二の親友と言っていい男に、あるとき忠告されたのだ。
「なんだか、足が地に着いてない感じがするよ」
これぞ、寝耳に水。
<少年>が去ってからというもの、三年寝たろうのように惰眠をむさぼり、みるみる重くなっていく体は、重力のきびしさばかりを味わってきた。
重い重い。
<少年>のころは誰よりも早く走り、身の軽さを過信したあまり、空中一回転に挑戦したこともあった。残念ながら見事に失敗して方を脱臼しただけに終わったのであるが。思えばあのとき、、、、あの空中でバランスを崩した瞬間、、、、、<少年>だけが「するり」と一回転して、我が身から抜け出たのかもしれない。
となれば、「足が地に着いてない」のは抜け出ていった方だと言い張りたくもなるが、もとより、<少年>はうわついた浮気心で動く生き物だから、「足が着いてない」ことを揶揄されるのは、やはり残されたこちらの負担なのだろう。
寝てばかりいた耳に歳入れられた水は、親友の言葉であるだけに詰めタック手痛かった物の、彼は思いがけぬ夭折で、言葉だけ残してさっさとあの世にいってしまった。
「足が地に着いてないのはおまえの方じゃないか」と、ときどきいとりごとのように彼に言い返してみる。
耳の中には、体温であたためられた水がまだゴロゴロと音をたてている。」
<おわり>
ぽかぽか春庭>ことばのYa!ちまた>写文・「寝耳に水」
ある言葉、四字熟語、詩、など読んだとき、「あ、いいな」と思ってもたいてい読みっぱなしなので、忘れてしまうことが多い。
あとになって、あ、あの言葉、どの本の中にでていたんだっけ、と思い出したくても、もうどの本にあったのか、なんて、すっかり忘れている。
これからは、ますます記憶力が減退する一方でしょうから、できる限り文を写しておくことにします。ネットに人様の文章を丸写しにすると、著作権だの何だのって、いろいろむずかしい問題もあるのでしょうけれど、あくまでの自分の防備録。
著作権にひっかかるなら、削除しますので、写させてください。
『ちくま』2005年3月 表紙ウラ。吉田篤弘「という、はなし」15回「寝耳に水」のコピペ
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少年期というものが、いつ終わったのか知らない。だからといって「永遠の少年」がどうのこうのと口走るのはいかがなものか。
いつであったかはともかくとして、それは間違いなく終わってしまったはずで、無造作に押し入れへ仕舞い込んだのを「ああ、そんなものもあったっけ」と、新たに浮上した記憶も又思いこみかもしれない。
とにかく、<少年>は挨拶もなしに去ってしまった。残されたのは体重ばかりが増えてゆく脂肪の固まりだ。それでも開き直って「少年は去ってしまったからこそ永遠なのだ」と自分なりのセリフも準備したりしてみる。
そこへ、、、、
「お前はさぁ」
唯一無二の親友と言っていい男に、あるとき忠告されたのだ。
「なんだか、足が地に着いてない感じがするよ」
これぞ、寝耳に水。
<少年>が去ってからというもの、三年寝たろうのように惰眠をむさぼり、みるみる重くなっていく体は、重力のきびしさばかりを味わってきた。
重い重い。
<少年>のころは誰よりも早く走り、身の軽さを過信したあまり、空中一回転に挑戦したこともあった。残念ながら見事に失敗して方を脱臼しただけに終わったのであるが。思えばあのとき、、、、あの空中でバランスを崩した瞬間、、、、、<少年>だけが「するり」と一回転して、我が身から抜け出たのかもしれない。
となれば、「足が地に着いてない」のは抜け出ていった方だと言い張りたくもなるが、もとより、<少年>はうわついた浮気心で動く生き物だから、「足が着いてない」ことを揶揄されるのは、やはり残されたこちらの負担なのだろう。
寝てばかりいた耳に歳入れられた水は、親友の言葉であるだけに詰めタック手痛かった物の、彼は思いがけぬ夭折で、言葉だけ残してさっさとあの世にいってしまった。
「足が地に着いてないのはおまえの方じゃないか」と、ときどきいとりごとのように彼に言い返してみる。
耳の中には、体温であたためられた水がまだゴロゴロと音をたてている。」
<おわり>