
マイセン展
2013/02/12
ぽかぽか春庭@アート散歩>2012-2013冬のアート散歩(10)お金持ちのコレクション6 石洞美術館マイセン展、松岡美術館
お金持ちは、成功してお金が貯まってくると、勲章が欲しくなる人、愛人をたくさん囲いたい人、いろいろあるらしいですけれど、美術品集めをしたくなるってのも道楽のいきつくひとつの共通点みたいです。
石洞美術館は、千住金属工業株式会社の経営者だった佐藤千壽(さとうせんじゅ1918-2008)が設立。主な所蔵品は、世界各地のやきもの、茶の湯釜、ガンダーラの仏像、漆器、青銅器、玉器などのほか、駒井哲郎の銅版画も収集。館名の石洞とは、佐藤千壽の号だそうです。
松岡美術館は、松岡清次郎(1894-1989)が、不動産業ホテル業などをしながら収集した美術品を展示しています。中国陶磁器、中国アジアの仏像、古代オリエント遺跡出土品などのほか、近代フランス絵画、近代日本画も集めています。
松岡美術館は、2000年に清次郎が亡くなったあと、新橋の松岡地所本社内から白金台の清次郎私邸の跡地に引っ越しました。ちょうど2000年に南北線が開通して白金台の交通がよくなり、これまでたびたび見にいっていましたが、2006年にオープンした石洞美術館には、2月10日、初めて行ってみました。千住大橋という駅に初めて降り立ちました。
石洞美術館の展示は、土屋コレクションのマイセン陶磁器を展示していました。
私は、これまでマイセンにあまり魅力を感じたことはありません。「お金持ちがテーブルに並べたがるやたらに高い陶磁器」という印象しかなくて、「陶磁器は中国や日本が本場。西欧の金持ちが東洋の陶磁器にあこがれてマネをしたところで、東洋陶磁器を超えられない、と思っていました。
マイセン陶磁器は、アウグスト強健王(ポーランド王・ザクセン選帝侯)が東洋陶磁器にあこがれるあまり、錬金術師ヨハン・フリードリッヒ・ベトガーにその製法を研究させ、ついに白磁制作に成功させた、というヨーロッパの焼き物です。
ベドガーは、金を作ることができるという錬金術師の大ボラを「白磁が作れる」という言に変えて研究を重ね、東洋陶磁器のような白い壺や皿の製法をさぐりました。中国の景徳鎮で作られる磁器の粘土は高嶺(ガオリン)で産出されます。 これと同成分の粘土kaolinが、ザクセン・フォークラント地方のアウエ鉱山に産出することに気づき、西欧の焼き物より高い温度で焼成すると白い磁器が得られることを発見しました。秘密を漏らさぬため、ベドガーは幽閉され、37歳で死にました。
マイセンは100年間この秘密の製法を独占し、アウグスト強健王がとっかえひっかえの愛人達に350人以上もの子を作らせる財政を支えたのです。
当初、中国や日本の陶磁器の絵付けの模倣をしていたマイセン。たとえば、中国では子孫繁栄富貴の象徴であったザクロの実。ヨーロッパにはザクロがなかったために、この図柄は「青い玉葱」と解釈され、ブルーオニオンという名の主要な絵付け柄になりました。
ブルーオニオンの大皿

19世紀以降、しだいにヨーロッパ的な図柄を描くようになり、西洋貴族の狩猟図や戦争図、ギリシア神話なども描かれるようになりました。王侯貴族にとって、マイセンで食卓を飾ることが何よりのステイタスになったのです。

ローレライ伝説の絵付け皿(ハインツ・ヴェルナー 20世紀)

また、東洋にはなかった磁器置物として、「猿のオーケストラ」というものがあります。マイセン陶磁器制作者ヨハン・ケンドラーとペーター・ライニッケが原型を作って1765年ごろから作られた磁器人形シリーズ(マイセン・フィギュリオン)のひとつです。
私は、石洞美術館の土屋コレクションで、はじめて「猿の楽団」を見ました。指揮者のほか、バイオリンやドラム、フルートなど、さまざまな楽器を演奏している猿たち。土屋コレクションは21体のオーケストラで構成されていました。
マイセン販売サイトで調べると、ケンドラーの原型による新制作の「猿の楽団」は、1体が50万円。22体セット(指揮者と演奏者が21体、指揮者の楽譜台がひとつで22体セット1)で1000万円でした。うひゃっ!18世紀19世紀のものになると値段はつけられない、といったところなのでしょう。
すぐにもほしい、という方がいらしたら、こちらのサイトからお取り寄せ下さい。(春庭へのコミッションはいりません。太っ腹ですから。あは、腹回り、脂肪の塊です)
http://www.euroclassics-ginza.com/meissen_figure_monkey.html
マイセンの絵付け師たちが東洋の陶磁器の絵柄を模写し、ゴッホたちは浮世絵を模写して近代西欧の新しい芸術を産みだした。それが日本に逆輸入されて入ってくる。芸術はこうして東と西を往復して新たなものを作り出していく。
お金持ちはそれを買ってコレクションし、私は招待券もらってそれを見に行く。
美の世界はこうして世界を経巡っていく。まあ、私のテーブルにマイセンがのることはないけれど。
東洋陶磁器へのあこがれから出発したのであったとしても、西欧は西欧で、独自の技術と絵柄を芸術にしていったのだなあと納得できるマイセン展でした。
それでも一番上にあるような、花をごてごてと飾り付けるのは好きになれないけれどね。
松岡美術館は、1階は常設展のアジア仏像やエジプト出土品。2階の「花と鳥 しあわせの予感」という草花と鳥の吉祥文様をほどこした中国陶磁器の展示室と、花鳥図の日本画展示室を見て回りました。
石洞のマイセンを見たところなので、ロッカーコーナーの前のマイセンにも目が行きました。う~ん、趣味はそれぞれであるけれど、私はやっぱり、こういうふうに壺をこてこてに飾り立てたくはない。ただし、マイセンの花やら天使や飾り付けた壺、もう飽きたから春庭にあげるという方がいらしたら、喜んでいただくので、ご遠慮無くお申し付け下さい。引き取りにおうかがいいたします。

松岡清次郎が美術品集めに本腰を入れて収集を始めたころ「この作品を手に入れたからには美術館を建てて広く人々にコレクションを見てもらわねばならない」と決意したのが、ガンダーラの半跏思惟像だそうです。この像は、3世紀頃のガンダーラ仏で、広隆寺の半跏思惟像の原型にあたるということです。

お金持ちは、ギャンブルなんぞに入れあげたり、愛人囲ったりするくらいなら、せっせと美術品集めてください。そして、死ぬ前に美術館を建てて、人々に見せてあげること。財団法人にしておけば、相続税対策にもなるし。
わが家の相続?わが息子、博士後期課程に進学が決まったので、さらに借金が増える模様。奨学金、借りた分、20年くらいかけて少しずつ返していかなければなりません。あと3、4年して無事博士号とれたとしても就職できるとは思えない息子。まだまだ貧乏ぐらしは続きます。せめてもの楽しみ。ぐるっとパス2000円での美術館博物館巡りは、まだつづく。
<つづく>