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ぽかぽか春庭「漢字仮名交じり文」

2014-05-18 00:00:40 | エッセイ、コラム
2014/05/18
ぽかぽか春庭にっぽにあにっぽん語教師日誌>日本語ふしぎ発見2014前期(4)漢字仮名交じり文

 留学生の間違い、誤用から教師はさまざまなことを学べると同じように、日本人学生の質問や感想を受け止めることによって、自分の言語文化観の確認もできます。以下は、先週の日本語言語文化解説に寄せられた質問にこたえたものです。
 現代日本語が漢字仮名まじり文という表記方法を採用したこと、この漢字ひらがなカタカナさらにはアルファベットまで混ぜて正式な表記法としてほぼ全国民が読み書き能力を保持していること、これは世界の中でも珍しいこと。

 日本語表記の解説するのは、毎年のことですが、いつもは「文字を混ぜて書くのはあたりまえだと思っていたけれど、そういえば英語はアルファベットだけ、中国語は漢字だけとわかっても、日本語が混ぜ書きをするのは特殊な表記法だとは思っていなかった」という感想がほとんどです。

<学生質問>中国から漢字とその読みが入ってきたのに、それまでの自分たちの古来の語を捨てずに、これと漢字をうまく織り交ぜることをした古代の日本人はすごいと思います。何故こんなこ とができたのでしょう?
<回答>
 同じように中国から漢字を取り入れた古代朝鮮の国では、文章を書くために自国語で表記するよりも、正式な漢文のみで文章表現を行いました。そのため、14世紀以前の古代朝鮮語は文献としては残されていないのです。しかし、古代朝鮮の官吏は、漢字に自国語の読み方をほどこし、自国語を表記する方法も考案していました。漢字にふたつの読みをつけることを発明したのは古代朝鮮の官吏であり、これを「吏読(りとう)」といいます。
漢字の「音」を自国語の発音にあてる方法も、古代朝鮮で発明された方法を取り入れました。

 日本は、漢字を取り入れたとき、この吏読を応用し、古代中国語の「山サン」は日本語の「やま」に当たることを知り「山」に「サン、やま」の二通りの発音を用いました。また漢字の音を音標文字として用いて自国語の表記に使うことにした本が『古事記』です。『古事記』の編集者太安万侶は苦心して自国語を漢字のみで表記しました。(太安万侶は編纂の代表者であって、古事記の漢字表記考案すべてが太安万侶の功績ではありません。代々の大勢の人々がいかに日本語表記を漢字で行うかについて、苦労を重ねてきました)

 これは、大和朝廷にとって、神の名や歌謡の「発音」が重要であったからだと思います。
「こもよ、みこもち ふくしもよ みふくちもち この丘に 菜摘ます娘」という歌謡を「有小的筐子的年軽的女児~」と中国語にしてしまったら、この求婚のうたの音のひぎきが失われ、祈り、希求の言葉ではなくなってしまうからでしょう。古代歌謡は、音の響きが大切なのですから。『万葉集』も詩のひびきが重要だったので、中国語に翻訳したのでは、意味をなさなかったので、漢字を表音文字として書き表す方法をあみだしました。

 万葉集の最初の歌、雄略天皇のうたとされていますが、古代の歌垣で歌われた古代歌謡だったろうと思います。
 漢字のみを用いて「 籠毛與美籠母乳 布久思毛與 美夫君志持 此岳爾 菜摘須児 」と書かれていても、日本語の表記です。おかげで、われわれは、8世紀(古代歌謡や東歌などはさらに古い時代の日本語と思います)の日本語を知ることができます。
 『古事記』や『万葉集』が残されこと、すばらしい言語文化だと思います。

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 『古事記』は私の最初の卒論だったので、万葉集や古事記が話題に出るとどうしてもしゃべりすぎるのですが、8~10世紀の日本語を現在私たちが読むことができる、ということはすごいことなのです。しかも、それを「春過ぎて夏きにけらし白妙の衣ほしたり天の香久山」や「田子の浦ゆ(に)うち出てみれば真白なる(白妙の)ふじのたかねに雪はふりつつ」などとそらんじて意味がわかるって、すごい。

 古代英語の文献に8世紀の叙事詩を記録したといわれる「ベオウルフ」がありますが、その一部をそらんじているイギリス人、どれほどいましょうか。
 百人一首を暗記してカルタ取りに興じることができた、というのは、言語文化伝承のうえで、すばらしいことでした。

<つづく>
コメント (2)
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