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ぽかぽか春庭「オリエントの切り子ガラス腕」

2014-08-09 00:00:01 | エッセイ、コラム

新沢126号古墳出土のペルシャ製ガラス椀(口径約8cm)

20140809
ぽかぽか春庭アート散歩>オリエント逍遙(1)オリエントの切り子ガラス腕

 オリエント世界とは、古代に栄えた東方文明の地を指します。古代エジプト、メソポタミア(現在のイラクとその周辺)、古代ペルシア(現在のイラン、アフタニスタンとその周辺)。
 
 古代オリエント文明が栄えたのは、紀元前4千年前ごろから、アレキサンター大王(アレキサンダー3世)が東方遠征を行ってオリエント世界を統一した紀元前4世紀頃まで。

 西欧から東に向かう急行列車が「オリエント急行」と名付けられたように、西欧の人々にとっては、オリエントということばは、東へ向かう異世界へのロマンをかき立てる名でもありました。

 しかし、「東方」のいちばんはずれに住む民にしてみると、オリエントとは「はるか西方にある異文化の世界」であり、シルクロードを西へ西へと進んでいくと現れる世界でもあります。
 私も、オリエントということばを聞くと、古代文明への遙かなあこがれをかき立てられます。

 先日、古代史の一端を解明する実験が行われました。
 奈良県橿原市の新沢千塚古墳群の126号墳(5世紀後半)から出土した円形の切り子ガラス碗(重要文化財)。1963年に青いガラス皿とともに出土し、現在は東京国立博物館に収蔵されています。

 新沢千塚のガラス碗はそっくり同じデザインのものが、ササン朝ペルシャのガラス製品にあるので、従来からペルシャ由来と言われてきましたが、ガラスを破壊して成分分析することなどできませんでした。今回、蛍光X線分析という方法で、科学的な分析が行われ、このガラス椀がペルシャ製であることが立証されました。

 この古墳からみつかったガラスの器は、ササン朝ペルシャ(226~651年)の遺物と同じ成分を持つことが、分析化学の成果によって明らかになりました。
 古代ペルシャで5~7世紀に流通した高級ガラス製品のかけらが、イランなどから出土しています。日本の古墳から発掘されたガラス器は、これらのイラン出土のガラスとほぼ同じ化学組成だということが、蛍光エックス線分析で解明されたのです。

 実験を行った東京理科大の阿部善也助教(分析化学)によると、ガラスの化学組成は原料や採取地を反映しており、不純物として含まれる微量元素を比べると産地がわかるそうです。

 正倉院にもペルシャ伝来と伝わるガラス器が残されていますが、正倉院が建てられたのは、8世紀。しかし、橿原新沢千塚古墳126号墳は5世紀後半の築造なので、ササン朝ペルシャで製造されてすぐに出荷され、はるばるシルクロードを越えて伝わってきたことがわかります。

 この、同じ色同じ形のガラス腕で、ペルシャの姫君が葡萄酒を入れて飲み干したのかもしれず、大和の豪族の妃が、氷室から運んだ氷を器に入れて甘蔓の汁をかけて口にはこんだのかもしれません。
 5世紀後半という、今から1500年も昔の東西を行き交った人々は、ラクダの背にこの椀を積み、雪降る高原や岩と砂の砂漠を越え、怒濤の波をかいくぐって船を東に走らせて、日本の海岸にたどりついたのでしょう。

 1500年、2000年の歳月を旅してきたオリエントのガラスのうつわ。
 悠久の月日を思ってしばしオリエントロマンに浸りました。

<つづく>
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