
アラビア文字で右から左へ「は、る、に、わ」(先生のお手本)
20140813
ぽかぽか春庭アート散歩>オリエント逍遙(3)オリエント音楽&アラビア文字お習字in東洋文庫
8月10日、東洋文庫3度目の来館。今回は、展示見学が目的ではなく、7月26日にトルコ展を見たときに予約申し込みをしておいた、アラビア文字書道教室に参加するためです。
毎度告白している通り、私は生来の悪筆で、子供の頃、姉と妹が書道教室にお習字に出かけるときも、「私は正座して習うのはいやだ」という理由をつけてお習字を回避。
書道をやったのは、学校のお習字の時間だけ。悪筆は持って生まれた運命と思っています。
中国&日本の書道は筆で文字を書きますが、西洋のアルファベットにもペンで美しい書体を書く書道(カリグラフィ)というものがあるのだと知ったのは、いつごろだったでしょうか。さらに、アラビア文字にも、伝統的なカリフラフィがあることをしりました。
アラビア文字カリグラフィ、一度体験してみたいと思っていました。7月26日にトルコ展を見たおり、8月10日、トルコ展最終日にアラビア文字書道の講習会があるというので、申し込みました。
午後2時から、アラビア書道を習いました。講師は、日本アラビア書道協会・事務局長の山岡幸一先生。
最初の20分間は、アラビア文字の歴史、書体の説明などの解説。アラビア文字は、英語などで用いられているアルファベットと同じく、フェニキア文字から発達した28の文字によって右から左へ書いていきます。
竹のペンとテキスト

アラビア語は、本来はコーランを書くための文字なので、現代トルコ語を書き表すためには、英語と同じabcのアルファベットが採用されています。
アラビア文字は、イスラム教圏では広く用いられている文字ですが、子音のみで、aiueoなどの母音文字を本来は書き表しません。コーランも読み方を習った者だけが読み書きするのみで、一般の人は文字が読めないまま、コーランの朗唱を聞くことが信仰の中心でした。
現在では初学者のためには、母音の助字シャクルがアラビア文字に補助としてつけられており、冒頭の「はるにわ」にも、シャクルが入っています。ただし、アラビア語の母音はア、イ、ウの3つだけなので、「ハルニワ」はアラビア文字で書けるけれど、たとえば、「春子」だったら、「ハルク」と記述するしかなく、春江だったら「ハルイ」と記述するしかありません。
そのため、トルコ語など5母音の言語は、イスラム圏であっても、アラビア文字で表記するには不自由です。トルコ語がアルファベット表記に転換したのは、そのためもあるのです。
私が35年前にアラビア語を習ったときも、先生はフスハ-という正則アラビア語のコーランの読み方を教えるのみで、私にはわけもわからず、あえなく挫折。私は、アラビア文字がフェニキア文字をもとにしたabcアルファベットと同種の文字であるということすら、今回ようやく知ったのです。くねくねとのたうつように見えるアラビア文字、abcアルファベットとほぼ対応しています。
ت = t ل = l د = d、うんうん、わかってきたぞ。でも、دはdでرはrだって、どうやって区別するんだ。ほとんど同じに見える。でも、留学生が「ン」と「ソ」が同じにしか見えない、という気持ちがよくわかります。まったく最近は、日本人大学生の書くカタカナも「ン=ん」と「ソ=そ」って、同じに見えますから。
アラビア文字の筆記体は、アルファベット筆記体と同じく続け文字で書かれるので、単独の文字と、語頭、語中、語尾の形がそれぞれ異なり、28の文字を知るには、28×4の文字を覚える必要があります。今回は体験なので、読めなくてもいいので、まずは自分の名前を先生のお手本通りに臨書することを練習します。
紙と篠竹を削って作られているアラビア書道のペンを、はじめて持ちました。親指人差し指中指の3本でつまんで書きます。
漢字書道で「永」を書いて、点や払いなどを練習するように、まずは、点の書き方、右から左へ横に線を引く練習、右から左へ波のように曲線を書く練習、縦に線を引く練習。
体験講習ですから、うまく線がかけないうちに、お手本のアラビア語を書いたカードが配られました。ひとりひとり違うことばで、私の隣の人の言葉は、Amal سماء(希望)で、私のお手本は、رح. ファラフ(喜び)。すてきなことばですが、なかなかきれいな形になりません。山岡先生のお弟子さんたちがアシスタントとして手をとって教えてくださいます。練習のことばがかけたら、自分の名前を臨書。練習用の紙の裏表にびっしり練習しましたが、私は最後まで自分の名前をきれいな形に仕上げられませんでした。
上手にかけている人に、先生が「日本書道をやっていますか」と、たずねていました。筆文字が書ける人は、力の入れ方抜き方が会得できているので、竹ペンでのアラビア書道もこつを知るのが早いとのこと。筆文字を苦手にしてきた私、アラビア文字書道のコツも飲み込みが遅いのでした。
最後に、自分の名前を清書をします。私は何度練習しても、先生が書いてくださったお手本「は、る、に、わ」が上手にかけないので、喜びرح. を清書しました。こちらの方が文字が二つのみなので。隣の席の人は、名前と「سماء(希望)」の両方をすらすらと清書していました。あ~あ、ここでも落ちこぼれだわん。
日本語教師志望の学生には、語学教師は、2年に1度くらいは、新しい言語や文字に挑戦した方がいい、と話しています。新しい言葉を習得することがどれほどたいへんなことか、ということを、常に身に染みていたほうがいいのです。「ああ、難しい、あらら、わからない」ということを我が身に言い聞かせていないと、「語学がすらすらとは修得できない学習者」の気持ちがわからなくなってしまう、と学生に言っています。
語学教師になる人は、私のような外国語が大の苦手という人は少ないのです。それで、毎期私は「日本語落ちこぼれ」の学生に「先生の授業が一番よかった」と、言われます。語学落ちこぼれの気持ちがわかるからだろうと思います。
サクサクと英語も覚え、他の言語も楽々と身に付けてしまった、というような優秀な人は、語学で苦労する学習者に対して「ああ、こんな簡単なことがなぜできないんだ」と、思ってしまうのです。最初から学ぶ気もない物見遊山留学は論外ですが、努力してもなかなか新しい言語が体に入っていかない人の気持ち、私はよくわかります。
今回のアラビア文字書道も、ひらがなカタカナを最初に覚えるときの日本語学習者の気持ちになって、「は」と「ほ」を取り違えたり「ろ」と「る」、「れ」と「わ」と「ね」がごちゃまぜになったりという学習者の初歩の苦労を味わえて、よかったです。
アラビア文字はきれいにかけませんでしたが、私にとっては、よい体験でした。山岡先生、アシスタントティーチャーのみなさん、ありがとうございました。
新しいことに挑戦するのは、「رح. ファラフ(喜び)」でした。
春庭のアラビア文字書道 ファラフ(喜び)

たぶん、運筆がよろしくないのですが、まあ、できたことにしておきます。喜びです。
<つづく>