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ぽかぽか春庭「留学生からのメール・欠席連絡」

2019-10-20 00:00:01 | エッセイ、コラム
20191020
ぽかぽか春庭にっぽにあニッポン語教師日誌>再録日本語教師日誌(3)留学生からのメール・欠席連絡

 春庭の日本語教師日誌を再録しています。
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2005/12/09 金
ニッポニアニッポン語教師日誌>学生からのメール(3)欠席連絡

 欠席連絡の留学生からのメール。たいへんまじめで優秀な留学生である。
 『 先生、ヒョンです。今週の出席のことでメールしました。
 実は、わが国の大使館から依頼があり、27、28日に通訳として厚生労働省に行くことになりました。午後2時から4時までなので授業に参加することができません。
 先々週の課題は友達に渡しておきます。そして京都の旅行記も一応書いて渡しました。
 それでは頑張ってきます。よろしくお願いします。 』

教師から返信
 『 ヒョンさんの日本語は、たいへん高いレベルに達しているので、立派に通訳がつとまると思います。自信をもって、しっかり仕事に取り組んでください。
 次回は文化祭で休講です。再来週に会いましょう。 』

留学生ヒョンから第二信
 『先生、先週はどうもありがとうございました。先生のお言葉で、自信がついて、うまく仕事ができました。これからも今まで以上に頑張っていきたいと思います。
 そして先生のように情熱いっぱいの先生になりたいと思います。それではまた来週です!^0^ 』

教師から返信
 『ヒョンさん、仕事うまくできてよかったですね。
 先週の課題は、清書だけですから、文化の日を楽しんでください。日本の文化を楽しまなくちゃね。 』

 日本人学生が学んでいる「日本語教育研究」というクラスで、留学生ルーがいっしょに勉強している。「日本語力が十分ではない」と悩みながらも、「日本語教師になりたい」と、努力している。

 通常の私費留学の場合、自国の高校や大学で日本語を専攻する→日本の大学へ、という人もいるが、多くの学生は、来日後、日本語学校に入学→日本の大学または専門学校へ、というコースをとる。

 日本語学校で系統的に文法と文型を積み上げながら学ぶ方法なので、個人差はあるが、きちんと卒業すれば、ひととおりの日本語文型は身に付く。

 が、ルーは日本の普通高校へ留学→日本の大学へ、というコースだったので、日本人高校生と会話しながら日本語を修得してきた。従って、文法や語彙の習得に片寄りがある。

 留学生ルーからのメール
 『 初めてメールを差し上げます。パソコンをいつに直るかよく分からなくて、待ちきれずに友達の借りて、先生にメールを送らせて頂きます。

 相談したいということより先生に感謝するという気持ちを込めて、心から申し上げたいと思います。
 実は、一年生から表現文化科に入り、大学生活を慣れてから間も無く、この学科の中の五つの分野について悩みが出てきました。(文章添削例はのちほど)

<つづく>

2005/12/11 日
ニッポニアニッポン語教師日誌>学生からのメール(5)日本語添削

教師から返信
 『 メールの文章、とてもしっかり書けています。学んだことがしっかり身に付いていると思います。
 日本語教師をめざすという決意、がんばって目標に近づいていきましょうね。日本語1級試験がんばりましょう。
 そして、日本語教育能力試験、合格目指して、一歩一歩、着実に勉強していきましょう。

 結婚前は中学校国語教師だった私、子どもが2歳のとき、大学日本語科に入学しました。3年次に日本語教育能力試験に合格したとき、38歳でした。卒業後は、大学院修士課程へ進学しました。
 日本語教師の試験、昔と現在は少し内容が変わりましたが、私にわかる範囲のことであるなら、メールでも、授業の休み時間でもいいから、質問してみてください。

(中略:日本語能力試験対策などについて)
 いっしょうけんめいがんばる留学生を応援することは、日本語教師の楽しみのひとつです。では、また。
 以下、メール文章の添削です。

「メールの文章添削」
誤)パソコンをいつに直るか→(正)パソコンがいつ直るか
誤)友だちの借りて→(正)友だちのを借りて
誤)大学生活を慣れてから→(正)大学生活に慣れてから
誤)毎日かけて→(正)毎日
誤)受け取る上に→(正)受け取った上で
誤)二つの言語の勉強を→二つの言語の勉強で、
 (または)→二つの言語の勉強をすることは、
誤)いずれに上手く→いずれも上手く
誤)道の進む先を全く見えてこない→進んでいきたい道の先が全く見えてこない
誤)一年をわたって→一年にわたって
誤)出会った前の→出会う前の
誤)この一つの目標に向けって→向かって
誤) 授業にやってくるのが楽しみにしていました。→楽しみになりました。
誤)決心を付けました→決心しました。
誤)解放されたのも→解放してくださったのも
誤)先生に感謝の気持ちを一杯一杯です→先生への感謝の気持ちでいっぱいです
誤)悩みを隠れなく→悩みを包み隠さず

間違い部分はいくつかあったけれど、大変上手に書けていると思います。日本語の勉強、がんばりましょう。
 』
<つづく>

2005/12/13 火
ニッポニアニッポン語教師日誌>学生からのメール(6)日本語能力試験対策

留学生ルーより第二信
 『 こんにちは、お忙しい中ご返事ありがとうございます。そして、文章の添削もありがとうございました。こちらの返事遅くなり、申し訳ございませんでした。

 はい、先生がおっしゃった通りに、一歩一歩、着実に頑張っていきます。現在、一番近いのは日本語検定試験ですから、ずっと前から語彙、文法、読解などの問題集をやっていますが、なかなか難しいと感じています。

 私は一般の留学生と違って、高一の時日本にやってきて、日本に来る前に、日本語を何一つも勉強したことがありませんでした。それで、日本語学校に入らずに、普通の高校に入学しました。ですから、私は正式の日本語を学んだことがありません。

 今、日本語に対して、一番弱いのは文法と読解です。今から一からやり直す時間もないのに、どうしたら(正:どうしても)少しでも把握したいです。もちろん、文法対策と読解対策の問題やリまくりです。
 うん~でも、そんなに効果がないと思いますね。先生、どうしたらいいですか。お願いします。 敬具 

教師から返信
 『 読解対策=とりあえず、一語でも多くの語彙を獲得すること。1級語彙問題に取り組む。

文法対策=過去問をして、間違っていたところについて、正解解説を読む。読んで意味が分らない部分、授業の休み時間4:15~4:25の間に、私に質問する。

 4:25~4:40を、「日本語能力試験に出る文法問題講座」として、解説します。ルーさんのためだけでなく、他の日本語教師をめざす学生の役にもたつことなので、質問どんどん持ってきて。どうぞ、ご遠慮無く。』
======================

 ルーさんの次のメールは、日本語能力試験1級問題に出題された「身体部位を含む慣用句の意味内容」を問う設問。正解を見れば、理解はできるが、なぜ、その答えになるのかわかっていないので、解説してほしいという。

 次の日本語教育研究の授業で、さっそく「語彙論。語の意味の拡大の例として、身体部位語を用いた慣用句」として、講義した。

 「口(くち)」は、身体部位の語として基本語です。口には、ふたつの基本的な機能がありますね。ひとつは私が今やっていること。私、何していますか。
 日本人学生にあてると「講義している」「話している」などの回答。はい、正解。「もうひとつの機能は何ですか」学生のこたえ、「食べること」はい、正解。
 
 「くち」は食事をする口、話すための口、という二つの機能を比喩的に表わす語として、意味が拡大していきます。
 「口ほどにもない」という慣用句の「口」は「話す機能」から、「以前に自慢したりできると言っていた内容」の意味になる。「口ほどでもない」は、「自分ができると言っていたより、実際はおとっていること」という慣用句として用いられる。

<つづく>

2005/12/14 水
ニッポニアニッポン語教師日誌>学生からのメール(5)語の意味の拡大

 「口がおごっている」の「口」は、「食べる機能」から、「味覚を味わう能力」となり、美味しいものを食べ続けた結果、マズイものを受け付けなくなっていることを意味します。

 このように、「口」は、たくさんの意味を含んで使われます。では、手、足、頭など、他の身体部位のことばを調べてみましょう。

 ルーさんが質問してきた1級日本語能力試験問題を検討した。
 日本人学生に解説させようと思っていたのだが、学生は、「むずかしい、わからないのがある」という。そこで、回答だけさせて、解説は教師がすることに。

 ( )の中に、適切な語句を選択する問題。
・旅行でお金を使いすぎて(1)が出てしまった。 ①手 ②足 ③目 ④顎
 日本人学生なら、簡単に答えるだろうと思ったのだが、「おあし=お金」の意味を知らない学生もいて、「足がでる=お金が不足する」という慣用句がわからない。

・あの方なら、(2)が広いから、きっと適任者を知っているでしょう。 ①手 ②顔 ③額 ④頭
ここはひとつ私の(3)を立てて許してやってください。①顔 ②腹 ③腕 ④気

 2と3は、どちらも「顔」が入るが、それはなぜか、これから、「顔」には、どんな意味が含まれていると考えられるか。
 2「顔が広い」は「ある人物が広く知られていること、いろんな方面に関係をもっていること」を表わす。
 3「顔を立てる」の「顔」は、「ある人物の面子、体面、プライド」を表わす。
 このふたつの慣用句から取り出せる「顔」が含む比喩的な意味とは?はい、答えて。

 このように「語彙論」「日本語文法」「日本語音声学」などを復習しながら、「日本語教授法」の講義もし、模擬授業を実演し、という具合で、ふたコマ続き、180分の授業もあっという間に終わる。

 ルーのメール。「先生の授業に出て、はじめて、大学でこんな面白い授業をやっている先生がいるんだと、いつの間にか授業にやってくるのが楽しみになりました。先生は他の先生と違い、いつも元気で、明るくて、先生と学生の間が、まるで友達のように感じました」
 と、感じてくれる学生ばかりだといいのだけれど、なかには「単位さえとれればいい」という学生もいるし、毎回、講義を聴いたり日本語教授法ビデオをみたりするより、友だちにメールをしていたい、という学生もいる。

 いろんな学生がいるけれど、今日も、春庭、薄給の身ながら、1コマの授業に乾坤一擲でございます。
<つづく>
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