20191110
ぽかぽか春庭にっぽにあニッポン語教師日誌>再録・日本語教師日誌(26)日本語能力試験1級合格メール
春庭の日本語教室だよりを再録しています。
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2007/02/16 金
ニッポニアニッポン語教師日誌>留学生による文化発表Show & Tell(2)グアダルーペのマリア
毎期の最後に、それまでに習った日本語の仕上げとして、スピーチ発表をしてきた春庭の初級日本語のクラス。みな一生懸命、自国の文化を発表してきました。
ベトナムのタウさん、メキシコのアニーさんは、ノートパソコンを駆使して自国の風景や名物を紹介しました。
タウの紹介したメコン川で暮らす水上民族の話はよくわかりました。川のボートで一生をすごし、食事もトイレもすべての生活が水上という人々の暮らし。
「ボートで荷物を運ぶ仕事をしたり、ボートに果物や野菜を積んで売ります」タウの日本語説明にうなずく留学生たち。
「子供たちの学校は?」というクラスメートから出た質問に、タウは「学校の近くまでボートで送っていって、子供はボートを下りて学校へいきます」と、答えていました。
アニーは、クラスで一番日本語が弱い。楽しそうにクラスになじんで漢字学習もいやがらずに取り組んでいるのだけれど、なかなか日本語が身につきません。
アニーは発表のことばをメモしてきて、いっしょうけんめい説明しました。しかし、アニーがメキシコのマリア信仰について話すことば、私にもよくわからない部分がありました。
ひととおり日本語で話した後、学生たち、アニーの日本語説明を理解しようとするのをあきらめて、英語でもう一度教えて欲しいと頼みました。
教室共通語の英語に切り替えて説明。
キリスト教カソリックには、ローマカソリック本山バチカンの法王から「真のマリア出現」と認定をうけている存在があり、「世界三大聖母マリア」として、熱心な信仰を集めています。
ひとつは、1917年5月13日にポルトガルのファティマに出現したマリア、もうひとつは、1858年2月22日にフランスのルルドに出現した聖母マリア。ルルドのマリアは、私も聞いたことがあります。
三大聖母のなかで、新大陸に出現した聖母がいちばん古く、1531年12月9日、メキシコに聖母マリアが姿を現しました。
マリアはインディオ男性の前に姿を見せ、「私をグアダルーペのマリアとよび、教会を建てなさい」と告げました。
ローマ法王はこのマリア出現を奇蹟と正式に認め、12月12日をグアダルーペのマリア祝日としました。
メキシコ人は、今もなおこのグアダルーペのマリアを民族の象徴として深く敬愛し、メキシコ人統一の精神的シンボルにしています。
毎年12月12日のマリア祝日には、大勢の人が集まって、信仰のあかしをたてます。
「ああ、そういうことだったのか!」
皆、パソコンに表示された宗教画やマリア像の意味がわかって、納得。
アニーのつかう日本語がなぜわかりにくかったのか。それは。
<つづく>
2007/02/17 土
ニッポニアニッポン語教師日誌>留学生による文化発表Show & Tell(3)サクラメントは秘蹟
(文化発表のつづき)
なぜ、アニーの日本語はわからなかったのか。
彼は母語のスペイン語で説明を考え、ひとつひとつの単語を辞書でひいて日本語に翻訳しました。
初級の日本語学習者には難しい単語を並べたので、日本語らしきことばで説明しているようなのに、クラスメートにはその単語の意味が正確に伝わりません。
辞書をひいて調べたはずの本人も、その単語の正確な発音はできず、私にも意味がわからなかったのです。
たとえば「メキシコはひーせき、じゅようです」と、アニー流の発音で説明されても、私にも何が言いたいのかわかりませんでした。
「え?ヒーセキ、ジュヨウ?宝石の需要があるのですか?メキシコ人は宝石が好きなの?」なんて、話がとんちんかんになってしまった。
「秘蹟sacrament」というまだ習ったことのない単語を出して「メキシコ人にとって秘蹟は重要です」と、言いたかったのです。
初級の日本語表現にとって、無理矢理単語を翻訳するよりは、今知っているやさしい日本語の単語と文型を組み合わせて、どれだけ自分の考え思いを表現できるか、そのアレンジ力が重要となります。
初級クラスで今までに習った文型だけで「メキシコ人はキリスト教を信じています。特に、マリア様が大切です。毎年12月12日はマリア様の祝日です」と表現すれば、十分に他のクラスメートにも理解できる日本語になるのに、やたら難しい宗教説明になってしまったのでした。
母語や英語では研究の専門的なことも、高度な宗教談義も表現できるのに、日本語となると「小学生のような表現」になってしまうことが、彼らにはもどかしいのです。それでつい、難しい単語を使ってしまう。
難しい単語や専門用語は、あと1年するとたっぷり使うチャンスがあります。
クラスの半数の「教員研修生」は、1年後に教育研究の成果を日本語で論文にまとめて発表することになっているのです。
う~ん、アニーさん、母語のスペイン語はもちろんのこと英語も上手ですけれど、もっと日本語学習がんばりましょうね。
<つづく>
ぽかぽか春庭にっぽにあニッポン語教師日誌>再録・日本語教師日誌(26)日本語能力試験1級合格メール
春庭の日本語教室だよりを再録しています。
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2007/02/16 金
ニッポニアニッポン語教師日誌>留学生による文化発表Show & Tell(2)グアダルーペのマリア
毎期の最後に、それまでに習った日本語の仕上げとして、スピーチ発表をしてきた春庭の初級日本語のクラス。みな一生懸命、自国の文化を発表してきました。
ベトナムのタウさん、メキシコのアニーさんは、ノートパソコンを駆使して自国の風景や名物を紹介しました。
タウの紹介したメコン川で暮らす水上民族の話はよくわかりました。川のボートで一生をすごし、食事もトイレもすべての生活が水上という人々の暮らし。
「ボートで荷物を運ぶ仕事をしたり、ボートに果物や野菜を積んで売ります」タウの日本語説明にうなずく留学生たち。
「子供たちの学校は?」というクラスメートから出た質問に、タウは「学校の近くまでボートで送っていって、子供はボートを下りて学校へいきます」と、答えていました。
アニーは、クラスで一番日本語が弱い。楽しそうにクラスになじんで漢字学習もいやがらずに取り組んでいるのだけれど、なかなか日本語が身につきません。
アニーは発表のことばをメモしてきて、いっしょうけんめい説明しました。しかし、アニーがメキシコのマリア信仰について話すことば、私にもよくわからない部分がありました。
ひととおり日本語で話した後、学生たち、アニーの日本語説明を理解しようとするのをあきらめて、英語でもう一度教えて欲しいと頼みました。
教室共通語の英語に切り替えて説明。
キリスト教カソリックには、ローマカソリック本山バチカンの法王から「真のマリア出現」と認定をうけている存在があり、「世界三大聖母マリア」として、熱心な信仰を集めています。
ひとつは、1917年5月13日にポルトガルのファティマに出現したマリア、もうひとつは、1858年2月22日にフランスのルルドに出現した聖母マリア。ルルドのマリアは、私も聞いたことがあります。
三大聖母のなかで、新大陸に出現した聖母がいちばん古く、1531年12月9日、メキシコに聖母マリアが姿を現しました。
マリアはインディオ男性の前に姿を見せ、「私をグアダルーペのマリアとよび、教会を建てなさい」と告げました。
ローマ法王はこのマリア出現を奇蹟と正式に認め、12月12日をグアダルーペのマリア祝日としました。
メキシコ人は、今もなおこのグアダルーペのマリアを民族の象徴として深く敬愛し、メキシコ人統一の精神的シンボルにしています。
毎年12月12日のマリア祝日には、大勢の人が集まって、信仰のあかしをたてます。
「ああ、そういうことだったのか!」
皆、パソコンに表示された宗教画やマリア像の意味がわかって、納得。
アニーのつかう日本語がなぜわかりにくかったのか。それは。
<つづく>
2007/02/17 土
ニッポニアニッポン語教師日誌>留学生による文化発表Show & Tell(3)サクラメントは秘蹟
(文化発表のつづき)
なぜ、アニーの日本語はわからなかったのか。
彼は母語のスペイン語で説明を考え、ひとつひとつの単語を辞書でひいて日本語に翻訳しました。
初級の日本語学習者には難しい単語を並べたので、日本語らしきことばで説明しているようなのに、クラスメートにはその単語の意味が正確に伝わりません。
辞書をひいて調べたはずの本人も、その単語の正確な発音はできず、私にも意味がわからなかったのです。
たとえば「メキシコはひーせき、じゅようです」と、アニー流の発音で説明されても、私にも何が言いたいのかわかりませんでした。
「え?ヒーセキ、ジュヨウ?宝石の需要があるのですか?メキシコ人は宝石が好きなの?」なんて、話がとんちんかんになってしまった。
「秘蹟sacrament」というまだ習ったことのない単語を出して「メキシコ人にとって秘蹟は重要です」と、言いたかったのです。
初級の日本語表現にとって、無理矢理単語を翻訳するよりは、今知っているやさしい日本語の単語と文型を組み合わせて、どれだけ自分の考え思いを表現できるか、そのアレンジ力が重要となります。
初級クラスで今までに習った文型だけで「メキシコ人はキリスト教を信じています。特に、マリア様が大切です。毎年12月12日はマリア様の祝日です」と表現すれば、十分に他のクラスメートにも理解できる日本語になるのに、やたら難しい宗教説明になってしまったのでした。
母語や英語では研究の専門的なことも、高度な宗教談義も表現できるのに、日本語となると「小学生のような表現」になってしまうことが、彼らにはもどかしいのです。それでつい、難しい単語を使ってしまう。
難しい単語や専門用語は、あと1年するとたっぷり使うチャンスがあります。
クラスの半数の「教員研修生」は、1年後に教育研究の成果を日本語で論文にまとめて発表することになっているのです。
う~ん、アニーさん、母語のスペイン語はもちろんのこと英語も上手ですけれど、もっと日本語学習がんばりましょうね。
<つづく>