202103006
ぽかぽか春庭ことばの知恵の輪>新しい情報ことばを知るのは楽しい(3)サッカー台
を 言葉がメシのタネである春庭、言葉には人一倍敏感でありたいと願っているのですが、日本人学生に教える日本語教育学の授業を退任して2年立ちますから、「若者ことば」に疎くなっているのは、しかた無し。テレビ放映で知ることが新語の仕入れ先。2020年は、コロナ関係かアニメやゲームの語ばかりでした。三密、クラスター、ソーシャルディスタンス。コロナ衰えない世にすっかり定着しました。
新しい語が町に流布したら収集しておきたいですが、古稀をすぎると、このような新語流行語のほかに「あれまあ、今まで知らずに生きてきたなあ」と気づく語は専門用語のほかにはそうそうなくなるもんです。専門用語は100万語もあるので、身近でない専門のことばにはあまり出会いません。テレビドラマで警察用語や医学用語を知り、料理番組で新しい野菜やお菓子の材料名を知る。すぐ忘れるけど。
先日、いつものドジのおかげで、「スーパー業界のことば」について語源を考える機会がありました。
いつもの「ドジ」とは。毎度おなじみの「買ったものを店に置いてきてしまう」という忘れ物。買ったものを冷蔵庫に入れるとき、「あれ?○○買ったはずなのに、ないなあ」と気づくことはまれで、たいていは何を買ったかなんて思い出さないまま冷凍庫冷蔵庫に納めておわり。
水曜日に買った「半額」のシールが貼られていた小鍋セット「ごま豆乳鍋」と「キムチ鍋」。娘とひとつずつ、買った当日に食べようとしたら、「あれ?買ったはずなのに無い!」と気づきました。スーパーに電話をしたのですが、電話受けつけ終了時間」
娘がレシートをチェックしたら「買ってある」というので、徒歩5分のスーパーまで確かめに行きました。サービスカウンターに問い合わせをすると「はい、お忘れ物として保管してあります」
受け取った半額鍋に張られていたメモ紙には「サッカー台の上に置き忘れ」と書いてありました。うん?サーカー台?
買い物する人一般に知られていたことばなのかどうか知らないのですが、私は初めて知った「サッカー台」
レジで精算したあと、買ったものをマイバッグや1枚5円するビニール袋に詰める台を「サッカー台」と言う。スーパーで働く人には常識の語でしょうが、買い物客みんな知っていたことなのか。
たちまち気になる「どうしてサッカー台というのか」
球技のサッカーではないとは思います。
買ったものを入れる袋が、サック(袋、筒)だからではないかと推測する。
関連する語で思い出すのは、「サックドレス」。若い人には通じないファッション用語です。筒のようなストンとしたワンピース=サックドレスというのが、私が子ども時代に流行った。今から60年も前のことです。(調べてみるとサックドレス初登場は1958年)
サックドレス(画像借り物)
サックとは、書類をめくるときなどに事務員が指にはめる「指サック」や、ベッドで大事なところに嵌めて使うのも「サック」という呼び方がありました。今は「混同無理するな」の前半だけの製品のこと。
はて、サッカー台とは?語源チェックしてみると。(画像借り物)
定義:小売店において決済コーナーを通過した先にある、購入者用の作業台。
語源:イギリス英語で「袋詰め作業をする店員」を「sack+er」→sackerと呼んだ、という説があるものの、確定していません。ほかにも語源説があるようです。
日本では、スーパーなどの業態はアメリカ経由のほうが多いので、イギリス英語由来というのは、どこから来たのか不明ですが、日本語のおとくい、漢字を当て字すると。作荷台。
これが、スーパーの客の「袋詰め作業台」にぴったりの当て字だったので、以来「サッカー台=作荷台」がスーパー業界小売り業界の定番となった、というわけです。
古稀すぎても、新しいことばを知るのは嬉しい。脳細胞が活性化できました。覚えてうれしがって、すぐ忘れるのですが、うれしいと思ったときに脳細胞にエネルギー注入したからいいんです。
それにしても、これまでスーパーにどれほど「買ったのに忘れてくる品物」を残してきたことだろう。重い物から袋に入れ直そうとするため、一度サッカー台に軽めのものを出しておき、牛乳1リットルなどから袋詰めにする。そのとき、パンなどを潰れないようにサッカー台において、忘れてしまうらしい。まあ買ったことを忘れてしまうので、それほど損をした気になっていないことが救いか。ん?救われているのか?
<おわり>