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ぽかぽか春庭「動詞ナイ形」

2021-03-18 00:00:01 | エッセイ、コラム

20210318

ぽかぽか春庭ニッポニアにっぽん語教師日誌>日本語教師養成講座(8)動詞ナイ形

 中国語を母語とする日本語教師志望者に「日本語の教え方」を伝授するシリーズ。今回日は「ナイ形」を学習者に教える方法です。

 日本語動詞の形が変わることは、「テ形」の学習でわかったものの、「いちりっての歌」も覚えきれていないうちに次は「ナイ形」の導入です。

 私が教室で使用しているパワーポイントスライド(以下PPT)の一部を紹介しましょう。45分授業4コマのうち、導入(文型インストール)に使えるのは1コマ程度。パターンプラクティス(形の練習)とQ&A(質問と答え)練習に1コマ。漢字練習もするし、読解聴解のドリルもあるので、ゆっくり練習できないのが残念なところ。

ナイ形導入PPTの一部

 「写真を撮らない」などの、ナイ形(未然形否定)を使う場面を設定する。

 教室内でのケータイスマホは使用禁止なので、ケータイスマホは、教師わきのハガキさし壁掛けに番号順に風ノウしてあります。わざと学生のまえにスマホ収納壁掛けを差し出して、「○○さんのスマホはどれですか」学生が指さそうとすると、教師は「さわらないでください」と言い「~ないでください」という。お菓子をだして、「今授業です。食べないでください」
 日本語がどのような状況で使う言葉なのかをわからせる。直接法では絵カードやジェスチャー、教師による小芝居などで文型(文法事項を含む表現)をわからせるようにします。
 私の小芝居では。
 髪をボサボサにして、ノーメイクで学生の前にたち、学生のひとりに仕込んでおいたカメラで、写真をとるようにジェスチャーで指示。「ちょっと待ってください」これは前に「~てください」を習っているので使用OK。習っていない文型を言ってはいけないのは、日本語教師基本中の基本。
 鏡を見て、「きれいじゃありません。写真を撮らないでください」「写真を撮らないでください」と言い、それでもカメラを向ける学生に「写真を撮らないでください」を何度かいう。それから鏡を見ておもむろに髪をとかし、口紅をぬる。鏡を見て納得のジェスチャー。学生に「先生はきれいですか」と聞き、自分で「きれいです」とうなずく。(笑いをとるところ)。学生に「写真を撮ってください」とシャッターを押させて、小芝居終了。
 これで「撮ってください」と「撮らないでください」の違いが、日本語だけで理解させることができます。

 文型の説明に翻訳が必要かどうか。日本国内の日本学校で、多数の母語話者が多数クラスにいる場合。教師が学生の母語を全部理解しているわけではありません。私はこれまでに「英語ドイツ語スワヒリ語中国語韓国語アラビア語タイ語ビルマ語」などの初歩を習ったったことがありますが、ロイア語もモンゴル語もネパール語もまったくわかりません。
 学生の母語にとって何が難しいのかを知ることは「対照言語学」として教師が把握しておくべきですが、学生の母語全部を話せると言う必要はありません。あくまで日本語だけで日本語を教えるのが直接法指導の中心です。

 英語中国語韓国語など媒介語として利用できる言語を教師は把握しておいたほうがいいですが、「みんなの日本語」には11カ国対応の「語彙の訳語と文法解説」の別冊があります。これまでネパール語はなかったので、私はインターネット翻訳サービスを利用しました。教室内に学生の母語が複数あるとき、ひとつの言語だけを媒介語といて用いることはできません。
 中国人多数の教室にベトナム人が数人、というクラスで、中国語バイリンガルの教師が中国語で文法解説をしたら、ベトナム人から学校側に苦情が寄せられた、ということもありました。どれほど英語堪能な教師でも、クラスにひとりでも英語がわからない学生がいたなら、英語での解説は禁止。ただし。英語とネパール語が両方わかる学生がいるとき、理解しにくいことを英語がわかる学生に説明してネパール語で伝えてもらうこともあります。この手段は最小限にとどめるべき。

 ほんとうは日本語だけで文型の意味をわからせることが必要ですが、ときに翻訳を補助として使うこともあります。
 翻訳で確認。「さわらないでください」

 「~ない」の意味が学生に理解できたら、「ナイ形」の形の作り方を確認
 1グループ動詞のナイ形のナイの前の音の変化を確認。マス形の前の音がすべて「ア段」になる。2グループはマスをとってナイをつける。3グループは特別変化なので、「こない、しない」をそのまま覚える。
ナイ形のパターン練習。1グループ動詞2グループ動詞3グループ動詞、全部ない形が言えるようにする。
 絵カードで「~ない」を学生に言わせる。動詞マス形のフラッシュカード(文字カード)を利用してもよい。

 ナイ形を使う文を提示「みんなの日本語」のA練習。
 「動詞ナイ形」の変形練習ができたら、文の作成練習。「みんなの日本語」のB練習。教科書に出ている文の作成練習だけでなく、教師が応用の文をQ&Aによって定着できるように練習。
 次に会話練習。短い会話スキット「みんなの日本語」のC練習。教師の判読につづけてリピート練習、ペア練習、ペアで応用会話を完成する練習。
 つづけて長い会話練習。場面を設定し、「ドラマ」を演じるようにペアで会話練習をする。できるだけ暗記して発表。
 最後にリスニングを含む練習問題。「みんなの日本語」の課末の問題を実施。リスニング以外は宿題にすることも多い。

 日本国内の日本語学校で「みんなの日本語」のシェアが多いのは、絵カード、CD、DVD、ドリル問題集、読解、聴解、作文など、教材が整備されていることもありますが、何よりも、11カ国語に翻訳されている文法説明と語彙翻訳が記述された文法解説書が出版されていることです。文法の内容を伝えるために、直接法で教える教師はジェスチャーや絵カードで示しながら工夫して教えますが、文法解説があるなら、予習としてまたは復習として活用することができるからです。

 私の師匠の話。直接法がかたくなに教えられていた頃「弁護士」という語を日本語だけで、まだ日本語がわからない学生にどう伝えようか困っていたとき、先に理解した学生がひとこと「lowyer」と言い、全員が「あ~あ、そうか」とわかった、というエピソードを話してくれたことが印象に残っています。直接法で教えることは基本ですが、翻訳して理解させられることは、翻訳してもよい。しかし、教師は教室に集まる学生のすべての母語を熟知することは不可能です。

 現在、私が担当している学校には中国、ベトナム、ネパール語話者が在籍しています。「みんなの日本語」中国語とベトナム語の文法解説書は出版されていますが、ネパール語は、未出版ですが、小冊子版が版元から発売されています。私は、直接法授業で翻訳版を使うことに賛成しています。

 教室で翻訳版を開くことはさせません。新しい課に入る前に、語彙意味を予習として覚えてくることを宿題として、新しい課に入る前に語彙テストを行う。直接法で授業を行った後、復習確認として文法解説各国語版を読んでくるように指示して、文型が定着したかどうかの小テストを行う。
 予習復習用に語彙翻訳と文型解説を利用することは効果が高いと思います。

 どのように翻訳版を利用するかは、教師の采配ですが、一般的な方法として。予習として語彙翻訳のページを見て、語彙暗記を宿題とする。新しい課に入る前に語彙テストを実施する。直接法によって授業を行い、文型が定着するまで練習を繰り返したあと、宿題として復習として文法文型解説を読み、文型理解を深める。このような利用法なら、一概に「翻訳を使うことはよくない」と言わなくてもいいのではないでしょうか。
 かって、日本で行われてきたような英語の「文法訳読法」の授業ですと会話力や応用力がまったくつかない、という弊害がありました。教師が日本語で文法説明を行い、学習者は教科書の文章を日本語に翻訳して理解する、という教授法がほとんどでした。(現在は多様な教授法が取り入れられています)
 現在の直接法主体の日本語教育の場なら、翻訳を補助として使うことは悪くないと思っています。

 動詞のナイ形の次の課では、動詞基本形(辞書形・国文法の終止形)を教えます。 

<つづく>
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