20210320
ぽかぽか春庭ニッポニアにっぽんご教師日誌>日本語教師養成講座(10)語彙力養成
2020夏に予定されていた中国語母語話者のための日本語教師養成講座の一部です。
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・ワークショップ 第3回 語彙力を高めよう!
言葉を学ぶには、
第1に 語彙を増やすこと、文法力を身につけること。
第2に 聞きやすい発音を身につけること。
第3に 社会言語の力(場面にふさわしいニュアンスの語を選ぶ、敬語を使いこなす)
今回は、語彙力を考えてみましょう。
私が日本語教師になりたてのころ、講師室で学習者の誤用について面白い例を紹介し合う仲間がいたことを、お話ししました。学習者の誤用は、その矯正(きょうせい)方法(ほうほう)を考えるのが日本語教授法にとって大切だからです。
私が講師仲間に披露(ひろう)した「おもしろい誤用」の例。
学習者の作文「わたしのしごとは、手爾於波をしらべることです。毎日じっけんします」というものです。
クイズ3-1 「手爾於波」ってなんでしょうか。
「手爾於波」って「てにをは」のことと思うけれど、江戸時代以前の日本語を研究している博士課程進学者でもないと使わないことばです。「てにをは」とは助詞のこと。
日本語学習者は、初級の最初に「を」「に」「で」「が」「は」などの助詞を習います。
古い文献なら「弖爾乎波・手爾於葉・天爾遠波」などの表記が当てられています。言語学研究のために留学した学生が、江戸時代の助詞を研究するならわかるけれど、この作文を書いた留学生は、理系です。
教師「これは、どういう意味ですか。読み方はわかりますか。」
学習者の答え「読みかたはわかりません。意味はparticleです。辞書でparticleを調べました。」
この理系学習者の専門は、実験室で微細な微粒子を顕微鏡の中で調べること、ということのようでした。30年も前のことなので、この学習者が持っていた古い辞書のparticleの訳語として出ていた「手爾於波」を選んだのでした。辞書の古い訳語が問題だとわかり、皆で笑いながら語のうち、一番漢字が難しそうで、一番立派そうに見えたので、学習者はこの「辞書を調べても、辞書に書かれている日本語訳語のうち、どれを選べばよいかわからない、というのが日本語学習者の陥りやすい間違いのひとつなのだと実感できました。
知らない語は辞書で調べればそれでOK、というわけにはいかないのです。文脈の中で、また会話の場面に合わせてひとつのことばを使い分ける、ということも必要になります。
これまで日本語を学習してきた皆さんの中には、日本語力に自信を持っている方も多いかと思います。なにしろ、日本語を教えてみたいという希望を持っているのですから。まだまだ日本語力に不安もあるけれど、大好きな日本語を仕事にしてみたいという望みを持ち、この研修に参加なさった方もいらっしゃるでしょう。日本語力が不足のまま人に教える、それは不安なものです。でも、大切なことは、現在十分な日本語力を持っていることではなく、この先、より豊かな日本語の世界を知りたいと、努力を続ける「持続する力」です。
これまでの日本語学習で、どのくらいの日本語を覚えたでしょうか。約1万語の日本語を覚え、読み方と意味を把握していないと日本語能力試験1級試験に合格できません。1万語の記憶、すごいです。皆さんに敬意を表します。
では、日本語母語話者は、どのくらい日本語の単語を頭の中に入れているか知っていますか。