20220322
ぽかぽか春庭アート散歩>アート散歩建物拾遺2021(2)中銀カプセルビル
娘との都内巡り。
浜離宮庭園に紅葉見物に出かけて、パナソニック汐留美術館へ回る通り道に、前から見たいと思っていた中銀カプセルビルの姿を見かけました。
黒川紀章設計によるメタボリズム(新陳代謝)建築思想が結実した黒川の代表的な建築物です。

メタボリズムは、新陳代謝を繰り返し、時代を経ても前のままの姿で、しかも常に新しさを保っている、という建築上の考え方です。
1972年に、黒川はメタボリズムの表現として新しいビルを建設しました。ひとつひとつの部屋がカプセルになっていて、それを積み重ねた集合住宅。もし、どこかのカプセルが古くなったら、カプセルごと取り替えて、建物全体は新しさを保つ、と黒川は考えました。
しかし、建設以来カプセルは一度も新しく取り換えられることもなく、ビル全体が老朽化しました。内部の設備も古くなり、配管設備の老朽化によって水漏れも起きるし、屋根部分の老化によって雨漏りも起き、どんどん古くなってきました。
何度も取り壊して新築ビルを建て替える話が出たのですが、住人の中にこの建物の建築的価値を残すべきだと考える人もおり、取り壊し建て替えに反対運動が起きました。
ビル所有者のいざこざもあったようで、結局、老朽化したままの姿になっていました。
エントランス前のプレートも、古びてカプセルタワービルが「カフセルタワーヒル」になっています。たぶん、このまま取り壊すことを考慮してネームプレートの修理もしないのでしょう。

いずれ取り壊されてしまうのかもしれませんが、その前に現在建っている姿で見ておきたいと思っていたのですが、パナソニック汐留美術館に何度も訪れても、このあたりの土地勘がないため、すぐそばにカプセルビルがあることに気づかなかったのです。最後になるかもしれない建物の姿を目にできてよかった。
黒川の中銀カプセルタワービルの解体も、まもなく始まるということです。
ひとつひとつのカプセルの内部は、埼玉県立近代美術館わきに展示されていました。この美術館を設計したのが黒川紀章だからです。
2013年に埼玉近美を訪れた時、中銀カプセルタワーの中部を見ることもでき、ブログにUPしました。以下、2013年の春庭コラム再掲載です。
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中銀カプセルタワーのひとつとその内部


中銀カプセルタワービルの写真がカプセルの横に展示されていました。

中銀カプセルタワービルは、全体を取り壊して建て替える計画が出たものの、保存派の意見も根強い。黒川自身は「全体を取り壊さなくても、使用に耐えない一部だけを取り替えれば済むためにカプセルの設計にしてあるのだから」と、自身の作品が壊されることには、反対の立場だったそうです。
一時は建て替え賛成派が半数以上になったものの、いつのまにか建て替え案は立ち消えに。
話題になって賃貸希望者が増えた結果、ありきたりのオフィスビルになるようりも、「黒川紀章設計カプセルタワー」という付加価値で高めの賃貸にしたほうがいいと考えるオーナーが増えたのか、現在のところ建て替え案は再浮上に至っていないようです。
現在の中銀カプセルひとつの賃貸は、10平米で1ヶ月6万円~6万5千円。中銀カプセルと同じ1972年に建てられた銀座のビルと比較すると。1972年築中央区銀座1-28-16杉浦ビルのレンタルオフィスは、90平米で1ヶ月27万円の賃貸料金です。10平米あたりなら約3万円ですから、カプセルタワーのほうが倍以上の割高であることがわかります。中銀カプセルという名に、付加価値がついているのだろうと思います。
建物を見るにつけ、絵や陶磁器を見るにつけ、ついつい値段の話になるのが私の鑑賞法なので、賃貸料金比較をしてしまいました。
新陳代謝(メタボリズム)なのに、代謝を拒否するのは、芸術的価値うんぬんよりも経済的要素があるのではないかと思ったので計算してみたまで。
建築の思想うんぬんやら空間処理うんぬんなどの理論で建物を論評するのは専門家がさんざんやっているだろうから、私は私の「値段で論ずるアート」をやってみました。
日展などの公募展を見るたび、入賞作とそうでない作に差はないなあと感じ、「審査の先生が、弟子筋の中から高額の指導料を師匠に収めた順に入賞させる」という毎年だされる噂がほんとうなのやら、と疑いながら見ていたのですが、今回の日展審査不正騒動の報道により、噂は本当だったことが明らかになりました。
アートの評価なんてそんなものです。今後は、日展入賞作品の脇に「審査員への指導料100万円収めた作品」とか、「毎月10万円の講師料を払って指導を受けている人の作品」という具合に値段表をつけて展示したらいいんでないかい?
建物にもさまざまな毀誉褒貶が付与されますが、ま、私は私の感覚で好きな絵や建物を見ていけばいいのだ、とつくづく思います。
さて、摂取した熱量=カロリーの新陳代謝がうまく運ばずに、脂肪となって溜め込まれてしまうというのがメタボリックシンドローム。私の熱量の新陳代謝もさっぱりとすすまず、溜め込まれています。摂取熱量が消費熱量を上回る故に脂肪となるのだとはわかっているものの、今日も仕事帰りの電車の中で、鯖のバッテラ4貫とピーナツひと袋を食べてしまいました。
明日をもしれぬ浮草稼業、来年の契約はどうなるのか。
安定した幸福な人生をおくっている方には、非常勤やパート、派遣の不安な日々をおくる身の上を思いやる時間もないことでしょうが、せめて、駅のベンチでカップ酒飲んでいるおっさんやら、電車の中でピーナツをぼりぼり食べている太めのおばはんを見かけたおりは、「あらま、かわいそうに、新陳代謝がうまくいかず、ストレス溜め込んでいるんでしょうね」と、同情してください。
建築メタボリズムの総帥、黒川紀章でさえ、自分の作品が新陳代謝されてしまうのを嫌がったのですから、わたくしごときがストレスを脂肪に変えて溜め込むのも、むべなるかな、私のメタボリックシンドローム代謝不全をお咎めなきよう。
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20220322
メタボリズム建築の代表作「中銀カプセルタワー」は、ついに解体が決定したもようです。2022年内には取り壊してしまう。見たい人はお早めに。
メタボリズムの建物。都内で見ることができるのは、菊竹清訓設計の江戸東京博物館。博物館はこれからも残るでしょうが、菊竹設計のホテル、上野不忍池のほとりに建っていたソフィテルホテルはすでに解体。跡地には、見た目ごく普通のビルが建っています。ソフィテルホテルは、地上面積や容積率に対して客室数が少ししか確保できなかったそうなので、資本主義の論理には合わない建物でした。建築的な価値うんぬんよりも、資本の原理が優先するのが私たちの住む資本主義世界。
古いビルを保存するためには、耐震工事の厳重化などもあり、新しいビルを建てるよりも大金がかかるのだそうです。経済面だけ考えれば、新しいビルのほうが効率的運営には役立つ。
菊竹設計の、今はなきソフィテルホテル。

今、私が心配しているのは、電通が手放したという駒沢の八星苑です。
「電通グループは、東京・世田谷に保有する農園と鎌倉の研修所などを4月に売却する。売却するのは世田谷区駒沢一丁目に所在する「電通八星苑」(敷地面積2万7544㎡、建物面積4棟4515㎡)を、住友不動産に売却」というニュースがでたのは2021年春。電通は、この広い緑地を畑として障碍者雇用枠の人々を農業従事者とすることで「わが社はちゃんと障碍者雇用を行っています」というイクスキューズにしていたのだとか。
住友不動産がこの先管理していくのでしょうか。
売却先がフランク・ロイド設計の個人住宅「旧林愛作氏邸宅」に、建築史上の価値を認めて保存してくれるなら問題ないですが、東京の広い土地を欲しがっている、成金は世界に多い。とくに、土地が国有の国の富裕層は、土地を自国で買うことができないため、つぎつぎに日本の土地を買い集めているというニュースも伝わってきます。京都の有名老舗旅館の広い日本庭園と旅館建物も、外国資本の手に渡ったなどと聞くと、東京の広い土地がほしいけれど、その土地を畑や個人住宅のままにしておくなんて、とんでもない、と考える富裕層が買ってしまったら、たちまち住宅は壊され、緑地はビルだかマンションだかになるでしょう。
電通は旧林愛作邸を一般公開をしてこなかったので、私は一度も見ることがかないませんでした。林愛作は、ロイドが設計した旧帝国ホテルの支配人でした。渋沢栄一によって、帝国ホテル支配人に抜擢された林は、自宅の設計をロイドに依頼したのです。
池袋に残る自由学園は見学可能なので、何度か見に行きましたが、旧林愛作邸を見ないままなのは、残念無念です。
<おわり>