20220320
ぽかぽか春庭にっぽにあニッポン語教師日誌>2022日本語学校春(2)花嫁とは何か・学生に教わる日中語彙の意味違い
オンライン授業。教科書の文章・文型だけではなく、日本文化・言語文化の学習も私が続けている授業のひとつ。
3月のある日は、日本語と中国語の漢字語彙の意味の違いを復習しました。
手紙=中国語ではトイレットペーパー。愛人=中国語では正式なパートナー。日本語では、正式な結婚相手以外の恋人。特に経済援助をともなう不倫相手。工作=中国語では「仕事」という意味。日本語では道具などをつかって、いろいろなものを作ること。
などの、初級でも学ぶ日本語と中国語の意味の違いは定着していますが、それ以外にも、中国語母語話者が陥りやすい「漢字熟語はだいたいが中国語と日本語の意味は共通」という思い込みに注意させなければなりません。
日本語能力試験3級レベル2級レベルの語でも、中国語簡体字と日本新字の違いさえ押さえておけば、「開店」「国籍」「応対」「昼夜」「学歴」「提供」「服装」「発言」「環境汚染」「風力発電」などなど、語彙表に出ている熟語の半分以上は、中国語と共通の意味ですから、漢字の読み方さえ覚えれば、非漢字圏の学生に比べて、語彙理解は早いです。それだけに、日本語と中国語の意味が異なる場合に要注意。
私は、本に書かれていることしかわかっていません。
若者の使う最近の中国語について最新情報を得ておきたいので、ときどき学生に確認をします。私が若者に教えてもらう時間を設けました。先生におしえてやれるのは、学生にとって得意満面になる時間、日本語で説明する「日本語で意見を述べる時間」でもあります。
今回、学生に聞いて確認できたのは、「花嫁」ということば。
日本式のブライダル産業が中国にも進出して、これまでの「新婦」ということばのほかに、「花嫁」という「結婚する女性を表すことば」が中国に進出した、と、雑誌に書いてありました。ほんとうに、花嫁が「新婦」と同じ語として広まっているのか、学生に確認しました。
学生に「新婦」と「花嫁」は同じ意味ですか。日本語では花嫁は「今日結婚式をあげる女性のことです」と聞いてみました。
学生は、「花嫁は、結婚式をあげる女性」じゃありません、「結婚式」という意味です、と、訂正してくれました。
伝統的な結婚式ではなく、白いウエディングドレスをまとう新しいスタイルの結婚式を「花嫁」という、と学生の説明を受けました。中国の伝統的な結婚衣装は赤いドレス。赤は、中国のお祝いのめでたい色ですが、白いドレスは従来は「お葬式の服」だったのに、「花嫁」の結婚式では、西洋式の白いドレスもOK。
中国の新郎新婦の伝統的結婚衣装

中国語で「新婦シンプー」は、たった今結婚式に臨んでいる女性。この熟語は日本語も中国語も同じ。もうひとつ中国語では「新娘シンニャン」という「新婦」と同じ意味の語があります。しかし、日本語の「娘」と中国語の「娘」は意味が異なります、日本語では母親が生んだ女の子供を意味しますが、中国語では子供から見た「母親」を意味します。結婚式に臨む女性を「新娘」と呼びますが、これは、「新しく母親になるであろう女性」という意味なのです。
そのほか、日中の意味違い。
日本語で「清楚な女性」というと「派手ではないさわやかで美しい女性」のイメージが浮かびます。が、中国語では「清楚=清晰・明晰」という意味になり「はっきりしている」「クリアな」という意味になります。「このコピーのプリントは、はっきりしている=此副本印刷清楚」
「清楚な女性」は、「顔だちも物言いもくっきりはっきりしていて明晰な女性」のこと。
顔色。日本語では人の顔の状態。青い顔色=あまり血色のよくない顔つき。でも中国語で「顔色」は、「すべてのものの表面の色」なので、日本語「このパソコンの色はとてもいいね」中国語「这台电脑颜色不错」と、パソコンにも顔色を使います。「この机の顔色、いいねと君が言ったから、3月10日は最後の授業記念日」字余り。
「馬鹿」
日本語では愚かな人、知識のない人。中国語では「馬のような鹿」「茶色の毛色の馬のような鹿=あかシカ」
コンタクさんは、中国の故事成語を日本語で解説してくれました。
「『史記』の秦始皇本紀(秦の始皇帝の記録)の故事に「鹿をさして馬となす」ということばがあります。秦の丞相(最高権力の臣下)趙高が二世皇帝に、鹿を「馬である」と言って献じた。群臣は趙高の権勢を恐れて「これは立派な馬です」と答え丞相におもねった。見たまま「これは馬じゃない、鹿です」と答えた者は処刑された。このことより、自分の権勢をよいことに矛盾したことを押し通す意味として『指鹿為馬・鹿を指して馬となす』という熟語ができた」。
うん、この語源由来を私も読んだことがあるけれど、もし、中国語の「指鹿為馬」が「馬鹿」の語源なら、現代中国語の発音は「マールー」日本語の音読みでは「ばろく」となるはず。
バカとは、サンスクリット語で「無知」や「迷妄」を意味する「baka」「moha」の音写「莫迦(ばくか)」「募何(ぼか)」というほうが、信憑性がありそうですが、日本語でいっしょうけんめい故事成語を解説してくれたコンタクさんの説を「ことばの意味がよくわかりました」とひとつの説であることでよしとしました。
「迷惑」の日本語中国語の意味の違いを確認しました。
日本語の「迷惑」は、中国語では「混乱」という意味。中国語「我现在很迷惑」=日本語「私は今、混乱している」
そのほか、「呉越同舟」という四字熟語について聞いてみたら「現在では呉国も越の国もないので、「同舟共済」という四字熟語を使う、なども聞くことができました。
日本語教師は日本語については学生に教える材料をたくさんもっているけれど、学生から教わる言語文化、私にとっては楽しい「新しい学び」です。
ストレスの多いオンライン授業ですが、学生から学ぶことも楽しみにして、春休みまで授業を続けました。
3月19日から、在校生は春休み。中国在住の来日予定学生のオンライン授業も3月23日で終了。
学生の春休み中、コロナ対策もあり、3月いっぱいは在宅勤務。教職員は2021年度のまとめと2020年度の準備。4月からの新学期に備えます。
<つづく>