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ぽかぽか春庭「動詞の活用形分類」

2022-06-04 00:00:01 | エッセイ、コラム
20222604
ぽかぽか春庭ニッポニアニッポン語教師日誌>2022教室だより梅雨まぢか(2)動詞の活用形分類

 日本語動詞の分け方、いろいろあります。
 たとえば、自動詞と他動詞に分ける。これ、日本語学習者にとって、難問です。これにひっかかって、いつまでたっても「トイレの水、ながしません。どうしましょう」とか、「カバンに本をはいりました」などと言うことになる。

 中国語でも英語でも自動詞と他動詞の動詞を分けることはありません、openは、I open the door.でもThe door open.でも、同じopenを使います。中国語でも「開」は自動詞にも他動詞にも用いる。私はドアを開ける。我打开门 ドアが開く 门打开。
 自動詞と他動詞、日本語能力試験1級合格者も間違えます。

 ほかに、意味による分類も大事。助詞が変わるからです。助詞も中国語にはありませんから、覚えるのがたいへんです。
 学習者は、壁にポスターを貼る。なのか、壁をポスターに貼る。なのか、迷うのです。

 動詞は必ず助詞といっしょに覚えさせます。友達を会う、ではなく「友達に会うだよ」、と。
 「あるものに動作者が力を加え変化を起こす」という内容を含む「変化動詞」の助詞はほとんどが「を」格をとります。パンを焼く、リンゴを切る。など、物事が変化する動詞の助詞は「を」。パンは生の小麦をこねた状態からこげ茶色に焼き色がついて膨らんだ状態に変化しています。

 壁に貼る、椅子に座る、など、対象に向かってくっついていくという内容の動詞の助詞は「に」です。「くっつき動詞」と覚えます。友に寄り添う、ブローチを胸につける、など。

 「移動」の意味を含む動詞の方向を表す助詞は「へ」ですから、学校の方向へ移動するときは「学校へ行く」。目的地を表す助詞は「に」ですから、学校がゴールのときは「学校に行く」

 日本語学習者は、「起きます」「寝ます」などの「習慣的動作行動」から動詞文の学習を開始します。「毎朝6時に起きます」「毎晩11時に寝ます」など。マス、マセン、マシタ、マセンでした。の形を覚えます。

 学習者の最初の関門が「動詞の活用」です。日本語教育では「テ形の壁」と呼びます。英語には時制の活用がありますが、中国語のように動詞の形はいついかなる用法でも変わらない、という言語で育った学習者には、「書きます」を依頼の形にして「かいてください」と表現するとき、「かきてください」ではなくて「かいてください」というイ音便にするのを覚えなければなりません。否定の形「ナイ」をつけるには、「かきナイ」ではなく「かかナイ」と形が変わります。最初に動詞の活用形「テ形」を習うときにしっかり覚え込まないと、いつまでたっても「私はきのう、学校、きないから、しゅくだい、わかりない」と言うのです。

 さて、この最初の活用形を習う時、必要なことは、日本語の動詞は活用形により3種類に分類できることを覚えることです。
 日本語母語話者には自然に身についている「五段動詞」「一段動詞」「か変さ変動詞」の分類です。日本語教育では1グループ動詞2グループ動詞3グループ動詞と呼んで分けています。

 日本語を母語として育った人は、何も考えなくても、「考える」の否定形は「かんがえない」で、「読む」の否定形は「よまない」と、頭の中に浮かびます。しかし、学習者は「よみます」というマス形から動詞を習いますから、「よみない」と言いがちです。五段動詞1グループ動詞のナイ形は「ア段」に音が変化する、という法則がきちんと覚えられない学習者もいるのです。

 活用変化の暗記のなかで、難しいのは音が変化する(音便)1グループです。2グループの動詞は、「食べます」マスを取ってテをつければテ形になりますから、たべテください、とすぐに言えます。ナイ形はマスをとって「たべナイ」にすればよい。しかし、2グループの動詞は、1グループに比べて数が少ない。

 それ以前に、学習者にとって、どれが1グループでどれが2グループなのか、分類がわかりません。
 春庭35年の日本語指導のなかで、学習者に便利な暗記法を伝授しています。

 マス形から動詞文を習う日本語学習者。
 「よみます かきます あそびます みます たべます おしえます べんきょうします」
 どれが1グループでどれが2グループでしょうか。
 まず、スル動詞とクル動詞は3グループです。国文法でいうところのカ変サ変動詞ですね。

 次に、マスの前の発音を長く伸ばして前の音が「エ」になるのは、2グループ動詞(国文法の下一段動詞)です。伸ばして発音してみましょう。
 おしえーエーマス たべ―エーマス 
 マスの前の音が「エ」になる動詞は全部2グループ動詞

 マスの前の音が「イ」になる動詞はほとんどが1グループ動詞(五段)
 よみーイーマス かきーイーマス あそび―イーマス
 しかし、マスの前の発音が「イ段」になるのに、1グループではない動詞が存在します。見ます、起きます、着ます、など。

 学習者には、これを「暗記すべき2グループ動詞」として提示します。
 初級の前半教科書の中、例をあげると。『みんなの日本語Ⅰ』の中にでてくるマスの前が「イ」になる動詞はわずか7つです。まるごと暗記させます。

「わたしの一日」 ♪歌 セリフ「 」
♪朝、起きます。♪服を着ます。♪鏡を見ます
「バスで学校へ」♪バスを降ります「あ、バス代がない!」♪友達に借ります
♪学校にいます「4時半、家へ帰ります」♪家でシャワーを浴びます (寝ます)

 学生にはイラストつきで提示。
(朝)起きます  (服を)着ます   (鏡を)見ます

「バスで学校へ」(バスを)降ります「あ、お金がない」(友達に)借ります
      

(学校に)います 「4時半に帰ります」(シャワーを)浴びます (寝ます)     
       

 トトロの「散歩」のメロディに合わせて歌ってみてください。
 これ以外の「マスの前がイは全部1グループです。

 初級後半になると、巻末の語彙表にⅠ、Ⅱ、Ⅲの分類が表示されますので、新しい動詞が出てきたら、ひとつひとつ確認させます。

 以上、初級前半で「私の一日」の動詞を覚えれば、活用の分類に迷うことがなく、学習者は安心して活用変化に取り組めます。

 1グループ動詞の活用は「テ形」から。
・いちり→ッテ マスの前が「い、ち、り」の動詞のテ形 は「ッテ」
  会います→あッテ 立ちマス→たッテ 勝ちマス→かッテ 散りマス→ちッテ

・みびに→ンデ マスの前が「み、び、に」の動詞のテ形 は「ンデ」 
  読みマス→よンデ  遊びマス→あそンデ 死にマス→しンデ

・き→いて ぎ→いて 聞きマス→きイテ 泳ぎマス→およイデ

・話しマス→はなしテ ・貸しマス→かしテ 

・行きマス(例外)いって

 学習者に歌つきで覚えさせます。トトロの「散歩」のメロディや「雪山参加(Oh my darling)」や、「カントリーロード」など、学習者の好みの歌を選んで、曲にのせて、「♪いちりって、みびにんで~」と何度もとなえさせ、身につけさせます。

 初音ミクが歌うカントリーロード版

 覚えてしまえば、新しい動詞が出てきて「悔やみます」さあ、テ形は?となっても、マスの前が「み」ですから「みびにンデ」なので「くやンデ」になると、すぐにわかります。「渡ります」「いちりッテ」ですから、→「わたッテ」
 どの動詞が新出しても、OKです。

 この、「いちりっての歌」を効果的に教えることができるかどうかが、一人前の日本語教師として教壇に立てるかどうかの登竜門です。
 しかし、日本語教師養成講座に来ていた日本語教師志望の学生たち、あまり乗り気で歌っていなかったなあ。日本語学習者にはとても大切な歌なのに。
 この歌の重要度に気づくのは、留学生がテ形暗記に苦労してテストで間違い頻発という事態になってからかも。

 テ形の活用につまずかなければ、次に「ナイ形」
・1グループ動詞のマス形の前の「イ段」を「ア段」に変えてナイをつけてナイ形(否定形)が作れます。
・1グループのマス形の前を「イ段」から「エ段」に変えて、「バ」をつけると「バ形仮定形」
・1グループのマス形の前を「イ段」から「エ段」に変えて、言い切ると命令形です。
・「イ段」から「ウ段」に変えて言い切ると辞書形(基本形)(国文法の終止形です。古典語と異なり、現代語では終止形と連体形は形が同じなので、あえて終止形という文法用語を用いずに辞書に搭載されている形「辞書形」といいます)。

 これらの活用形、母語話者は子供のころから無意識に使い分けてきて、むずかしいことは何もないと思っています。だから、留学生が苦労していることに気づかない日本語教師養成コースの学生もいます。
 英語を覚えるとき、不規則動詞の過去形過去分詞をすぐ覚えてしまったような優秀な学生には、留学生の苦労がわからないのです。

 人に新しいことばを教えるには、簡単に語学を習得した人よりも、語学が苦手で苦労の連続だった人のほうが向いています。つまり、春庭のような語学苦手だった教師のほうが。
 語学苦手教師春庭は、中国語の四声が聞き分けられず、ミャンマー語のまるっこい文字の区別がむずかしかった。だから、「ツ」と「シ」の区別が難しい、「ン」と「ソ」の見分けができない、という学生の気持ちがわかります。

 アラビア語は母音を書き表さず子音だけで表記するから読めず、英語の「Sとth」や「RとL」の発音が区別つかないので、liteもrightも同じに聞こえるし、Thank you をSank youと発音してしまいます。

 「日本語の自動詞他動詞、どっちがどっちなのかを覚えられず、1グループ動詞の活用を覚えられない学習者」の気持ちがよくわかる教師なら、留学生に寄り添っていけると思います。

<つづく>
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