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ぽかぽか春庭「マイスモールランド」

2022-06-16 00:00:01 | エッセイ、コラム


20220616
ぽかぽか春庭シネマパラダイス>2022シネマ風薫る(7)マイスモールランド

 国際共同制作、川和田恵真監督作品「マイスモールランド」が2022年・第72回ベルリン国際映画祭ジェネレーション部門に出品され、アムネスティ国際映画賞スペシャルメンションを贈られました。
 114分の映画ですが、映画公開に先立って 2022年3月24日(木)にNHKで100分版ドラマとして放映されました。
BS1 (前編)よる8時~8時50分 (後編)よる9時~9時49分

【出演】
嵐莉菜:チョーラク・サーリャ  クルド人難民申請を却下されたため、ビザを失った川口市の高校に通う少女。大学行きの資金を貯めるため父に内緒でコンビニアルバイトを続けているが、、、
奥平大兼:崎山聡太 母の兄が経営するコンビニで働く東京の高校生。同じコンビニで働くようになったサーりゃと親しくなるが、、、、 
アラシ・カーフィザデー:チョーラク・マズルム サーリャの父。難民申請が却下され、働けなくなったも家族のために働いていたため入管に収監されてしまう。
リリ・カーフィザデー:チョーラク‣アーリン サーリャの妹。育った日本に残って普通の高校生として生きたい。クルド語を話せるようになろうとはしていないが、クルドの信仰には父の教えに従っている。
・カーフィザデー:サーリャの弟。小学生だが、学校になじめない。
韓英恵:サーシャの弟の小学校担任。
サヘル・ローズ;埼玉県に暮らすクルド人社会のひとりとしてサーリャたちと助け合う 
平泉成:クルド人社会の問題にかかわる弁護士。誠実ではあるが、あまり力はない。
藤井隆:崎山聡太のおじ。コンビニ経営。
池脇千鶴:聡太の母。シングルマザーとして息子の将来を案じる。

 ある国が国際的に国家として認められるには、「国民・国土・統治する政治共同体 」の3つが必要とされています。クルド人は民族として固有の言語や文がを持つ5000万人ちかい人口の「領土を持たない世界最大の民族」です。民族は存在するけれど、住むための領土も統治する政府もありません。
 クルド人が生活していた領土。ある時期、かってに国境線が引かれ、クルド人はイランイラクトルコシリアに分断されました。

 以来、クルド人は民族統合と領土回復を求めて、ある人々は過激派として武力闘争を始め、ある人々は国家への反逆者とみなされて国を追われ、世界中に散らばっていきました。
 政治的理由で亡命せざるを得なかったと認めて難民として認定してくれる国もある中、日本はクルド人に対してほとんど難民申請を受け付けていないのです。さまざまな理由はあるのですが、命からがら身一つで逃げて日本に来たクルド人に対して「政治的な理由で亡命せざるを得なかったという公文書を出せ」と求めたのです。クルド人をテロリストとして迫害しているトルコなどの「親日政権」との関係を悪化させないため、という理由がある、と言われています。

 埼玉県には2000人ほどのクルド人コミュニティが 存在します。みな難民に認定される日を待っていますが、クルド人が難民認定された例はこれまでないに等しかった。
 映画の中の弁護士(平泉成)もなんとも無力で、手のうちようがないように見えます。

 埼玉県の高校に通うサーリャは懸命に勉強し、大学の推薦内定を受けるところまでがんばりました。しかし、父親が難民認定を却下され入管に収監されたことから、推薦内定も取り消されます。サーリャは入管の規定で埼玉から東京に来てはならず、就労もできないので、コンビニ店長は「不法就労になるから」と、解雇を言い渡します。
 サーリャといっしょにコンビニで働いていた聡太は、よき理解者になろうとしますが、母子家庭の聡太にできることは少なく、サーリャを助ける手立ても思いつかない。

 川和田恵真監督の画面は、少女サーリャの清新な表情をよくとらえ、荒川河川敷の映像もみずみずしい。クルド人コミュニティがある埼玉現側と、サーリャが働くコンビニ(たぶん赤羽あたりの)の間に流れる荒川。電車の大きな鉄橋もかかり、車が行きかう荒川大橋もあるのに、サーリャが埼玉と東京を行き来することは禁じられています。日本と出身地の間を行き来できないクルド人の境涯を象徴しているように思います。

 2022年・第72回ベルリン国際映画祭ジェネレーション部門に出品され、アムネスティ国際映画賞スペシャルメンションを贈られた、というニュースは入りましたが、この先、クルド人問題に注意を払う人々はどれほど増えるでしょうか。ウクライナからの避難者のためには自治体も協力的なのに、クルド人の境涯には自治体も市民もほとんど無関心。クルド人を助けても、自治体になんの見返りもないからです。
 ウクライナ人を助けることは、ウクライナを支援し武器供与を続けるUSAという後ろ盾があるのに対して、クルド人には、国はないから当然輸入できる資源もなく、クルドからの見返りは何もない。

 サーリャたちが日本に残る可能性はただひとつ。出身地に戻れば逮捕拷問されるか最悪死刑になることも覚悟で父マズルムが強制送還に応じること。「日本で育った日本語ができる子供に在留許可を与える」という新しいビザの交付条件が出たため、父は子供たちのために、死を覚悟で出身地に戻ることを決めたのです。たとえ自分の身が反逆者として死刑になろうとも、子供が日本で生きていける方法はほかにないのです。

 難民認定をめぐって、日本政府が新たな動きを見せるというニュースは届いていません。
 入管収容中に不審死したバングラディシュ女性の裁判も、いつまでかかることやら。日本に新天地を求めてやってくる人々に「冷たいくに」であることに心痛みます。

 国家の発給した正式な「留学ビザ」を持ち、週28時間までの就労も認められている留学生たちには、日本がこのような「冷たい国」であることは意識されていないと思いますが、機会があれば、クラスで「難民」について考える時間を作りたいです。

 監督の川和田恵真は、日英のダブルブラッド。10代にはアイデンティティをめぐって居場所のない気持ちを抱えていたといいます。
 是枝裕和監督率いる映像制作者集団「分福」で助監督などのスタッフとして働き、今作が長編映画第1作。次回作も見たい女性監督のひとりです。どうか、スタッフをぶんなぐったりしませんように。

 クルド語によるポスター my small landのクルド語のポスターも作られていました。


 Google翻訳でクルド語を検索すると、Erdê min ê biçûkと、でてきます。
 「Welatê min ê biçûk」との違いがなんなのかもわからない、クルド文化に遠い春庭ですが、ニュースやドキュメンタリーなどで見てきたクルド人難民問題がもっと、人々の関心を集めるためには、「ウクライナの人々を助けるのと同じくらい関心を持ってクルドの人々を助けよう」と思う人が出てきますように。

<つづく>
コメント (2)
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