20220616
ぽかぽか春庭シネマパラダイス>2022シネマ風薫る(6)ちょっと今から仕事やめてくる
2017年公開の映画「ちょっと今から仕事やめてくる」
北川恵海による小説をコミカライズしたコミックスは、70万部のヒット作というけれど、タイトルがいかにもラノベ風の軽いタッチだし、公開半年後とか1年後ぐらいにギンレイにかからないとみる機会がない。
6月17日BSプレミアムの放映で見ました。なんの情報もなく見たので、おもしろかった。以下、ネタバレ含む紹介
監督: 成島出
脚本 -多和田久美、成島出
出演
・福士蒼汰:ヤマモト(電車のホームに落ちそうになった青山を捕まえ受け止め押しかけ友人になる)
・工藤阿須加:青山隆(営業の成果は上がらずサービス残業の毎日。部長にパワハラを受け続け。電車に飛び込もうとしたブラック企業社員)
・黒木華:五十嵐美紀(青山の先輩社員。営業成績優秀だが、成績が落ちることへのストレスもある)
・吉田鋼太郎:山上守(小さな印刷会社の部長)
・森口瑤子:青山容子(青山隆母)
・ 池田成:青山晴彦(隆父。リストラされて山梨の実家に戻ったあと、隆とはあまり話していない)
・小池栄子:大場玲子(児童施設職員)
小説発表時に、すでに1991年に過労自殺した電通社員の事件があり、2015年にも電通の入社2年目女性社員が自殺している。電通は「ブラック企業大賞」と揶揄される企業となりましたが、多くの企業で、その体質は現在まで変わりなし。ただ、それを隠ぺいする方法は巧妙化していると言えます。「社員のひとりやふたり自殺したところで、大企業の問題点は変わりなし」の日本社会です。
映画「ちょっと今から仕儀とやめてくる」は、2017年公開の時「電通社員高橋まつり自死事件」など、現実のほうが先をいくブラック社会でした。
青山隆の勤務する中小企業の壁に「有給なんていらない」と「部長訓示」を貼っていること、社員のだれも文句を言わない。「これって、労働基準法違反ですが」なんて言おうものなら、パワハラ部長は「いやならやめろ」と宣告するだろう。

人間性まで否定されるパワハラを受け、「会社の屋上から飛び降りて死んでやる」と思い詰めていた青山隆が「同級生のヤマモト」と友達づきあいをするようになったことから、自分自身を見つめなおすことになる。
ヤマモトは、すでに死んでいる幽霊なのかもしれない、と青山にも観客にも思わせるミスリードが、児童施設職員小池栄子が出てくると外出る問題を一気に謎解きが進みます。謎を全部ときほぐす、という怒涛の展開が、私にはちょっと唐突に思えたので、素人がストーリーについていけるよう、ちょこっと伏線ほしかった。
隆が山上部長にパラハラを受けるシーン。部長がロッカーやスチール机を蹴飛ばしてガンガン音を立てたあと、青山がトイレの鏡に向かってゴミ箱を振り上げて鏡を割ろうとするシーンを入れる。青山の力では強化ガラスの鏡が割れない場面のすぐあとにヤマモトが葬儀場の鏡を割る場面をカットバック。ヤマモトにも鏡を割らずにいられなかったつらい出来事があったことを示唆しておく伏線。
ヤマモトが霊園直行バスに乗ったあとをつける青山。バス窓ガラスに、ビルから飛び降りて青空に羽ばたいていくヤマモト双子の天使姿を映す。
なんていうシーンが入っていたら、それほど「小池栄子が一気に謎解き」という気分ではなく「そうだよな、そんなこともあるかもって思ってたよ」という気分になれたのかも。
青山がヤマモトの友情に救われたと同時に、ヤマモトも青山によって救われたのだ、と小池栄子は語る。
人と人のコミュニケーションはいつも相互作用なのだ。
ひとつ気になったこと。青山とヤマモトにとってパラダイスのような澄んだ空と青い海のバヌアツ共和国。南太平洋に浮かぶ楽園です。
しかしながら、現在のような温暖化が進み海面上昇が続くなら、南太平洋の国土の大半は海の中に消えてしまう。もっとも深刻な影響を受けているツバルだけでなく、標高300メートルの火山を持つバヌアツだって、やがて海に沈む。太平洋の楽園、とのんびりしているだけでは国が亡ぶのだ。
この先、ヤマモトと青山隆は、楽園のために何ができるだろうか。パワハラブラック企業の地獄を抜け出したからといって、安心できる世界はない、という映画の教え?
希望をもってさえいれば、生きてさえいれば、というありがちラストは、わからんでもないが、バヌアツだって地獄になりうる。
HAL通勤時、今週も先週も「人身事故発生により電車遅延」、ときには「電車完全ストップにつき、他路線との振替運送を実施」ということも起こる。バスを乗り継いで帰宅」という仕儀に相成ったとき「どうして毎週、人は電車に飛び込むのか。みんな電車に飛び込むほどつらいなら、飛び込む前に会社やめようよ」と思うのですが、そう簡単にいかないゆえの「毎週の人身事故」なんですよね。
飛び込んで間一髪助けられた人の談話によると、別段重大決意を持って飛び込んだのではなく、鬱で頭朦朧としているとき、死ぬつもりなどなくても、ふらふらっと電車のほうによろめいて電車に吸い込まれてしまうのですって。
そんなものなのか。
みんな死ぬなよ。バヌアツまで出向かんでも、せめて常磐ハワイアンのフラダンス見物でもいいから、会社やめてちょっと人生変えてみよう。、、、、、無責任なことしか言えなくてすまぬ。
<つづく>