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ぽかぽか春庭「本歌取り東下り by 杉本博司 in 松濤美術館」

2023-10-22 00:00:01 | エッセイ、コラム

20231022
ぽかぽか春庭アート散歩>2023アート散歩秋(7)本歌取り東下り by 杉本博司 in 松濤美術館

 2016年に杉本博司『ロストヒューマン』展を見て以来、「海景」の展示など、いくつかの美術館で見てきました。まとまった展示は、久しぶりです。今回の展示は、「本歌取り」がテーマ。
 人が生み出してきた「新しい文化も文明も」すべては先人の生み出したものをふまえて、それを本歌取りしてきたものだ、という杉本の考え方。和歌の本歌取りは万葉古今の昔からあるけれど、文化全体の本歌取りについて学んだのは、松岡正剛の著作を集中的に読んだころからだった。「文化情報を編集する」ということが新しい文化を生んでいく、という考え方だ。

 川柳詠み人知らず「本歌取りといえばききよいパクリかな」
と言ってしまえば身もふたもないが、「本歌取りは芸術です」。
 他者の作品を下敷きにして、面白おかしいパロディ作品をめざすのもありだし、パクリをオマージュと言い換えるのも可能。下敷きにした作品を超えて新しい表現を獲得していればアート!能の安宅のパクリ作品が歌舞伎の勧進帳だが、勧進帳をパクリと非難する人はいない。

 杉本博司は、ニューヨークを活動拠点のひとつにしてきましたが、2009年小田原文化財団を設立しました。2017年に開館した「江之浦測候所」を 拠点に日本での活動を続けています。

 小田原文化財団の設立主意
 伝統芸能の再考を試み、古典芸能から現代演劇までの企画、制作、公演を行い、また既成の価値観にとらわれずに収集かつ拾集された「杉本コレクション」の保存および公開展示を通して、日本文化を広い視野で次世代へ継承する活動を行います。

 今回の杉本博司の本歌取りは、写真や絵画における「継承」を中心に編集されています。当初は1年前の姫路市立美術館での「本歌取り」展の巡回展として企画されたようでしたが、2022-2023の1年間で、新作がどんと増えたので、姫路本歌取りの企画そのものをさらに本歌取りした展示になっており「本歌取り東下り」として展開されています。

 松濤美術館の口上 
 杉本博司(1948~)は、和歌の伝統技法「本歌取り」を日本文化の本質的営みと捉え自身の作品制作に援用し、2022年に姫路市立美術館でこのコンセプトのもとに「本歌取り」展として作品を集結させました。
 本歌取りとは、本来、和歌の作成技法のひとつで、有名な古歌(本歌)の一部を意識的に自作に取り入れ、そのうえに新たな時代精神やオリジナリティを加味して歌を作る手法のことです。作者は本歌と向き合い、理解を深めたうえで、本歌取りの決まりごとの中で本歌と比肩する、あるいはそれを超える歌を作ることが求められます。西国の姫路で始まった杉本の本歌取り展は、今回、東国である東京の地で新たな展開を迎えることから、「本歌取り 東下り」と題されました。本展を象徴する作品である《富士山図屏風》は、東国への旅中に、旅人が目にする雄大な富士山を描いた葛飾北斎の《冨嶽三十六景 凱風快晴》を本歌とした新作で、本展で初公開となります。またこの他にも、書における臨書を基に、写真暗室内で印画紙の上に現像液又は定着液に浸した筆で書いた《Brush Impression》シリーズなど、本展は新作を中心に構成される一方、中国宋時代の画家である牧谿の水墨画技法を本歌取りとした《カリフォルニア・コンドル》など、杉本の本歌取りの代表的作品も併せて展示します。さらに、室町時代に描かれたと考えられる《法師物語絵巻》より「死に薬」を狂言「附子」の本歌と捉え、その他の8つの物語と共に一挙公開致します。
 現代の作品が古典作品と同調と交錯を繰り返し、写真にとどまらず、書、工芸、建築、芸能をも包み込む杉本の世界とその進化の過程をご覧ください。

 伝 牧谿「叭々鳥図」

 杉本は、カルフォルニアコンドルの剥製を手にいれ、牧谿の本歌取り作品を制作。
 杉本博司「カルフォルニア・コンドル」


海景」シリーズの本人による本歌取り「宙景」


 「時間の矢」火炎宝珠形舎利容器残欠+「海景」杉本博司1987
 

 小田原文化財団が手に入れた出口なおの「お筆先」。これはなんの本歌取りなのかわからぬが、小田原文化財団のコレクションのひとつ

 これまで写真版で見たことがありましたが、本物のお筆先を見たのははじめてです。最初は文盲であったという出口なおが自動書記のようにしたためたお筆先、信者さんからは神仏のことばと思えるありがたい文字と思います。私は江戸以降の新宗教の教祖となった人のなかではいちばん出口なおが好ましい。文字の読み書きもできなかった貧困の中にあった女性が、書き綴った神仏のことば、今どきの若者にとって、出口なおはカリスマにもならぬであろうが、御筆さきの文字を見れば、若者用語でトートイ。

 911のためにアメリカに渡航できないでいたあいだに、ニューヨークに保管していた写真の印画紙が劣化して、写真には使えなくなった。その印画紙に現像液と定着液をインクにして筆で書き留めた作品。
 印画紙に現像液。


 印画紙に定着液
  

 小田原文化財団のコレクションに加わった室町時代の絵巻物「法師絵巻」。発見された巻物の展示がありました。
 

 この絵巻物の逸話の中から狂言の「附子」と共通する「和尚が「これを飲むと死ぬ」と小僧に言い含める「死に薬」を、「本歌取り」として上演することが紹介されていました。2階ロビーでは、杉本の監修による文楽や能の本歌取り公演がビデオ上映されていました。

 14時から15地まで学芸員西さんのギャラリートークをききました。北斎の赤富士の本歌取りとして描かれた杉本の「富士山図屏風」は、展覧会開始3日前にようやく完成し、松濤美術館に運び込まれた、などの裏話も楽しく解説されていました。

 何のパロディ?ほら、鏡よ鏡、世界で一番美しいのはだあれ、と問う、あのリンゴ持っていくおばあさん。


<つづく>
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