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ぽかぽか春庭「再録・霾る曀曀虺虺」

2023-12-03 00:00:01 | エッセイ、コラム
20231203
ぽかぽか春庭ことばのYa!ちまた>>ことばで遊ぶ(2)再録・霾る曀曀虺虺

 ブログ友達Yokoちゃんは、退職後の日々もきちっとした日常生活をおくり、日課としてお絵かきや漢字書き取りを続けています。
 Yokoちゃんの記事から「先祖と祖先のちがい」など、ことばについての気づきの文を読むと、とてもうれしく、「ことばについて知ること」を楽しめます。

 「ちがくて」を春庭ブログから検索してひっぱりだしたついでに、漢字について「わからないこと」を書いていてそのままにしているコラムを見つけました。「つちふる」という語についての文を再録し、つづきを知ろうと検索を続けます。
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2008/05/19
ぽかぽか春庭ことばのYa!ちまた>検索は虹を渡る(2)つちふる

 最近のお楽しみのひとつ。わからないことがあったら、徹底的に検索ケンサク。
 たいていのことは調べがつきます。

 3月31日の新聞、読めない漢字がありました。「霾」
 ドット数節約で、ネットでは省略文字しか出ませんが、雨冠の下左は、「豹ひょう」や「貂てん」の左側と同じムジナヘンの「豸」で、下右側は「里」です。

 朝日新聞朝刊「俳壇」のコーナーにあった漢字です。
 音読みはすぐわかりました。「霾天(ばいてん)のアルプス晩景なせりけり(平出和衛)」
 こちらの句には、ひらがながふってある。私も、歳時記で見たことがある。

 しかし、中国在住の人の句「霾や店主イスラム教と云ふ(中村昭義)」にはふりがながありません。
 文字数からいったら、上5句ですから、「○○○○や」で、ひらがな四文字のはず。さて、なんと読むのだろう。
 俳人なら、ふりがななしでも読める字なのでしょうが、たまに季語を引く程度の私には読めませんでした。

 漢和辞典の「バイ」から「霾」をさがし、訓読みがわかりました。訓読みは「つちふる」でした。
 「つちふる」も音読みの「霾天ばいてん」も、私の持っている旧版広辞苑にはない言葉。
 大修館現代漢和には「つちふる。砂埃。突風が土砂を巻き上げて降らせる。また、そのために空が曇る」と説明があります。

 雨冠の下は埋と書く異体字もありました。
 「霾」とは、中国大陸で、地上のものが埋まるほど、土が雨のように降る気象現象を指しました。
 中国大陸に降る土砂が、上昇気流にのって日本まで来たものを、「黄砂」と呼びます。
 黄砂でくもった空が「霾天」で、春の季語。

「霾天や小さく古き一城市(遠藤梧逸)」
「霾天に面を包みうつくしき(田村了咲)」
「霾の中礫のごとき雨交り(林周平)」

 私が持っている角川歳時記に、ちゃんと「霾つちふる」と、読み方が書いてありました。
 これまで「春塵」という季語ばかり使ってきて、漢語っぽい「霾天」を使ったことがなかったので、「霾つちふる」がまったく目に入っていませんでした。

 辞書では、ここまでわかりました。これ以後は、ネット検索です。

 「霾天」「霾つちふる」は、江戸俳諧の季語にはありませんでした。
 明治以後、森鴎外や夏目漱石など、漢詩に造詣の深い人々が、俳句の作者でもあったことから、春塵、春埃と同じ意味で、「霾風」「霾天」が用いられるようになりました。
 大正末年の歳時記から春の季語として採用されています。

 「霾天」という語、どんな用例があるのか、ネットで検索したら、中国最古の詩歌集「詩経」(詩經 国風 邶風)に出ている、とわかりました。

 「終風」と題した詩の二句めに「終風且霾」と書かれている。

終風且暴 顧我則笑 謔浪笑敖 中心是悼
終風且霾 惠然肯來 莫往莫來 悠悠我思
終風且曀 不日有曀 寤言不寐 願言則嚏
曀曀其陰 虺虺其雷 寤言不寐 願言則懷

 この詩の解説は以下のとおり。
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「終風且霾<與理同>、惠然肯來。莫往莫來、悠悠我思。比也。霾、雨土蒙霧也。惠、順也。悠悠、思之長也。
○終風且霾、以比莊公之狂惑也。雖云狂惑、然亦或惠然而肯來。但又有莫往莫來之時、則使我悠悠而思之。望其君子之深、厚之至也。
【読み】
○終風且つ霾[つちふ]<理と同じ>る、惠然として來り肯ず。往くも莫く來るも莫く、悠悠として我れ思う。比なり。霾は、土を雨[ふ]らして蒙霧なり。惠は、順うなり。悠悠は、思うことの長きなり。
○終風且つ霾るとは、以て莊公の狂惑に比すなり。狂惑と云うと雖も、然れども亦或は惠然として肯えて來る。但又往くも莫く來るも莫きの時有れば、則ち我をして悠悠として之を思わしむ。其の君子を望むことの深き、厚きの至りなり。
============
 ハァ、解説を読んでもますますわからないのだけれど、一日中、強い土ぼこりが降る日の情景なのだろうなあと思って読めない字面を眺めました。
 「曀曀其陰 虺虺其雷 寤言不寐 願言則懷」の、「曀曀」って何?どう読むの?「虺虺」ってなんのこっちゃ。
 
 検索をしたために、ますますわからないことが増えてしまいました。
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 解答をみつけました。
 15年前には、疑問に思っても解答が見つからないので、ほったらかしにしていたことがきちんと解説されていました。2023年まで15年の間に、答えがUPされていたこと、怠け者なので、チェックしていませんでした。
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終風(顧みられぬ妻の悲哀)(結婚 妻→夫 見限り 衛荘公)

終風且暴 しゅうふうしょぼう 
顧我則笑 こがそくしょう
謔浪笑敖 ぎゃくろうしょうごう
中心是悼 ちゅうしんぜしょう 
 日夜吹き荒れる風。
 あの男は私を笑う。
 嘲り、虐めの笑い。
 わが心はいたむ。

終風且霾 しゅうふうしょえい 
惠然肯來 けいぜんこうらい
莫往莫來 ばくおうばくらい 
悠悠我思 ゆうゆうがし
 風は土ぼこりを上げる。
 あの男はときに優しく
 我がもとに至るが、
 またぱったりと来なくなる。
 私はまちぼうけ。

終風且曀 しゅうふうしょえい 
不日有曀 ふじつゆうえい
寤言不寐 ごげんふしょう 
願言則嚏 がんげんそくてい
 外は大風、空はどんより。
 晴れ間などわずかなもの。
 眠れぬまま横になる。
 咳をしても、ひとり。
 
曀曀其陰 えいえいきいん 
虺虺其靁 きききらい
寤言不寐     ごげんふしん
願言則懷 がんげんそくかい
 どんよりとした曇り空、
 雷がごろごろ。
 眠れぬまま横になる。
 それでも、あなたを思ってしまう。
https://kakuyomu.jp/works/1177354054918856069/episodes/1177354054921607568
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 崔浩先生、解説をありがとうございました。曀曀の読みはエイエイ意味はどんより暗い。虺虺の読みはキキ意味は「ゴロゴロ(雷の擬音)」とわかりました。
 漢詩の全体の意味は、家に寄り付かない夫をそれでも待ち続ける、顧みられぬ妻の嘆き節。15年前に意味が解明できていたら、「悲哀」身にしむ詩でした。40年間の「かえりみられぬ妻」は、もうあきらめついていますから、顧みられなくても悲哀は遠い。涙はいらない、同情するなら金をくれ!です。

難波田龍起「哲学の杜A」1982


<つづく>
コメント
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