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ぽかぽか春庭「ビーズ展 in 東京科学博物館」

2019-06-04 00:00:01 | エッセイ、コラム


20190604
ぽかぽか春庭アート散歩>薫風アート(5)ビーズ自然をつなぐ世界をつなぐ展 in 東京科学博物館

 上野にくると、東博、科博、東京都美術館、藝大美術館、黒田記念館、こども図書館のうちのどれかふたつをセットにして昼の部と夜の部でふたつ回ります。ふたつ回るとだいたい1万歩。絵や彫刻みて歩けば心に響いて体にきく。

 5月25日のセットは、昼の科博と夜の東博。
 科博常設展の特設展示は、「ビーズ展」。副題は、自然をつなぐ世界をつなぐ。東京の科博と大阪の国立民族博物館とのコラボによって企画された展覧会です。自然担当科博、世界担当民博ですかね。

 民博の紹介パネル


 私は、単純にビーズと聞けばガラス玉を並べたものを思い浮かべましたが、この展示での「ビーズ」の定義は、「小さい粒をつなげて制作し、身の回りを飾るもの」
 算盤玉も玉をつなげているけれど、こちらは計算のための道具であり、飾り物ではないので、ビーズとは呼ばない。

 ビーズの材料ごとに世界各地のビーズが展示してありました。
 材料の面では植物ビーズ(数珠玉、木など)、動物ビーズ(骨や歯、貝など)、鉱物ビーズ(鉄やガラス)など、世界には多彩なビーズ材料があります。

 私はケニアのマサイ族の家に泊まった時など、女性たちがこまごまとビーズ細工をしているのを目にしてきました。根気のいる仕事です。なんでもつなぎ合わせます。フィルムの空き容器をつなげているのを見たこともありました。
 今回、現代の材料をつなげたものとして、注射針の針キャップをつなげた首飾りを見て、フィルム空容器を思い出しました。

 ケニア・マサイ族のビーズを身に着けた男女のいでたち
 

  ケニア・サンブル族の女性の写真も展示されていました。私も1979-1980のケニア滞在中に、トゥルカナ地方でこのような女性たちに出会いました。なつかしい。


 入り口には世界の民族のビーズ衣装


 ビーズをつなぎあわせる糸として使われたオリックスの足の腱を割いたもの


<植物をつかったビーズ>
 タイの数珠玉製女性衣装
 

 台湾タイヤル族の「首狩りにおもむく戦士の護符」カミヤツデの茎を円盤状に切ってつないでいる。


<動物のビーズ>
 ブラジル(パラカナ)イルカの歯をつないだ首飾り。


 エクアドルの上衣(羽などをつないでいる)


 タカラ貝ビーズ製の大きな仮面


<鉱物のビーズ>
 ガラスビーズの仮面(象)カメルーン


 昔からビーズ材料は貴重であり、交易の商品にもなってきました。産地が限られたトルコ石などは、世界中で交易されました。

 トルコ石の頭飾り


 伝統的な王の像も、現代の工芸品として作られるときは、中国製のガラスビーズをつないでいます。

 ナイジェリア(ヨルバ族)の玉座の王の姿(ガラスビーズ)


 ビーズ作業中のヨルバ人工芸家。

 ミャンマーの珪化木(ジービーズ)

 インド・グジャラート州 ビーズの原材料石メノウ、カーネリアンなど


 ラピスラズリの原石とネックレス。ほしい!


 日本の古代ビーズ 東博考古室の展示品

 水晶、メノウ、碧玉の勾玉


 チンバンジーなど類人猿と、人間の遺伝子は98%が同じ。2%しか違わない。しかし、ビーズの穴に糸を通す作業ができるのは人間だけなのだそうです。棒を白蟻の巣に差し入れて道具をつかった「シロアリ釣り」ができるチンパンジーも、ビーズつなぎはできません。

 人が作ったビーズ製品は、2万年も前の遺跡から発掘されています。身を飾る、という文化を持ったこと。食べ物をいかに手にいれるか、という生き死にかかわることではなく、身を飾るために、なんと多くの知恵が集まり、世界中が交易をしてきたことでしょう。
 ビーズのちいさな一粒一粒に壮大な人類史を感じました。

<つづく>
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ぽかぽか春庭「横浜美術館所蔵名品展」

2019-06-02 00:00:01 | エッセイ、コラム

 横浜美術館ミートザコレクション展

20190602
ぽかぽか春庭アート散歩>薫風アート(5)横浜美術館所蔵名品展

 5月24日金曜日。横浜美術館の「Meet the Collectionアートと人と」を観覧。
 たいていの美術館は金曜の夜か土曜の夜は8時までオープンしているのがありがたい。(横浜は、金土両日が8時まで)。

 自館の所蔵品展だから、常設展料金500円で入れるのかと思ったら、しっかり1000円とられました。横浜市在住の65歳以上なら無料になるみたい。

 「当館の1万2千点を超えるバラエティ豊かなコレクションのなかから、絵画、彫刻、版画、写真、映像、工芸など400点を超える作品を展示します」というので、1点は2.5円ナリ、、、つうか、そういうみみっちい計算をする人は、絵なんぞ見ていないで、うちに帰ってカップ麺でも食べて寝てなさい。(24日は、カップヌードル記念館を見たあとに横浜美術館に入館しました)

 横浜美術館は、1989年に開館してからちょうど30周年。平成のはじめにオープンして、私も、キャパ展、国芳展、下村観山展など、たびたび足を運びました。

 淺井祐介「いのちの木」は、もとの絵を淺井が描き、それを市民ボランティアが壁画に仕上げていくという共同作品です。ボランティアによる制作過程のメイキング映像もありました。


 いのちの木の展示室内には、壁画と響き合うものとして淺井さんが選んだ作品が展示されていました。

 そのひとつ、アルプの「成長」。単独で見るときと、こうして壁画の前に置かれているのを見るのでは、ずいぶん印象がかわるように感じました。

 アルプ「成長」1938(1983鋳造)

 「いのちの木」の前の「成長」


 第2展示「まなざしの交差」の部屋にはピカソやセザンヌの肖像画、キャパの写真など、肖像画の目に注目した作品が並んでいました。

 ピカソ「ひじかけ椅子で眠る女」1927


 セザンヌ「縞模様の服を着たセザンヌ夫人」1883-1885


 第2展示室で私にとって貴重だったのはルイス・ブニュエルとダリの共作『アンダルシアの犬』がデジタルビデオで放映されていたこと。
 シュールレアリズム映画の嚆矢とされている有名な映画ですが、これまで見たことなかった。現在ではyoutubeでも公開されているのに、冒頭の「かみそりで目玉を切り裂く」というシーンの説明を聞いただけで見る気を失ってしまう「こわいもの見たくない」ビビりなので。これまでは静止画の何枚かとその画面説明を見て、映画を見た気にしていました。

 今回は、絵を見ている部屋での壁のモニターに映るのですから、どうやっても目に入る。ならばと、椅子にかけて見ました。1928年の映画、公開90年目の鑑賞です。

 目玉切り裂きも掌の蟻ぞわぞわも、みんなシュールです。ホラー映画に慣れた現代人にはどうということもないシーンなのかもしれないけれど、28年に詩人コクトーはじめ、シュルレアリズムの画家たちが大拍手でこの映画を迎え入れたというのもわかります。


 また、シュルレアリスト宣言ともいえる「解剖台の上のミシンとこうもり傘の出会い」を視覚化したマン・レイの写真も「おお、ミシンとこうもり傘!」と思いました。


 ロートレアモン伯爵の『マルドロールの歌』(1869)に登場する「そしてなによりも、ミシンとコウモリ傘との、解剖台のうえでの偶然の出会いのように、彼は美しい!」という詩の一節は、シュルレアリストたちにとって、もっとも大きな技法「ディペイズマン(depaysement)」を表したことばです。

 depaysementは、動詞depayseに、mentをつけて名詞化。depaysは「de:分離・剥奪」と「pays:国、故郷」。よって、ディペイズマンは、「ある場所から引き離してよその土地へ追放すること」という意味を持ち、シュルレアリストたちは「本来の環境から別のところへ移すこと、置き換えること。本来あるべき場所にないものを出会わせて違和・驚きを生じさせること」という彼らの芸術技法の基本にしました。

 おそらくは、開館当時の学芸員たちの中にシュルレアリズムの専門家がいたと思います。横浜美術館は、日本でも有数のシュルレアリズム絵画や写真、彫刻を収集し所蔵しています。マックス・エルンスト展を所蔵作品だけで仕立て上げた展覧会もありました。

 今回の所蔵品展も、充実した作品が並んでいました。

 マックス・エルンスト「青春のいずみ」1957-58


 ルネ・マルグリット「王様の美術館」1966


 2013年に埼玉県立近代美術館で見たデルヴォー(Paul Delvaux1897-1994)。でも、この「階段」が展示されていたかどうか記憶にない。


 階段もマネキンも具象として描かれているのに、どうして見るものは、この世とはことなる世界に感じるのだろうと感じます。なにかしら不安定にも思える。しかし、素人は、それ以上に見方が及ばない。
 専門家は「遠近法の消失点がふたつある」と、教えてくれました。なるほど。



 消失点がひとつなら、私たちが現実に見ている世界と同じです。でも、わざわざミシンとこうもり傘を出会わせて、マネキンの横と階段上の女性の横のふたつの消失点を作る。このため画面の世界はこの世ならぬものになっていく。むろん、胸を出した女性も半身だけ布を巻いたマネキンも現実にはいないのでしょうけれど。

 胸が見えているワンピースを着ている階段の上に立つ女性は、デルヴォーのビーナス、タムでしょう。デルヴォーが描く女性は全員同じ顔。全部妻のタム。結婚前も結婚後も。

 マザコンだったデルヴォー。母に反対されて泣く泣く恋人タムと分かれます。(おいおい、母が反対したら、母を捨てろよ!と突っ込むのは現代人ゆえ)
 母の死後、1937年に40歳でシュザンヌと結婚。しかし、別れてから18年後にタムと偶然再会すると、たちまち情熱よみがえり、シュザンヌと離婚して55歳でタムと再婚。以後91歳までともに暮らし、タムが亡くなると目が不自由になっていたこともあり、絵筆を捨て、タムの死から5年後、1994年に96歳で亡くなりました。

 イブ・タンギー「風のアルファベット」1900-1955 完成までに55年もかかったのね。


 サルバトール・ダリ「ヘレナ・ルビンシュタインのための小食壁画 幻想的風景」1942


 シュルレアリストが影響を受けたモローもここに。「岩の上の女神」1890頃


 モローも最愛の人は母であり、恋人とも結婚しなかった。ダリも生涯最愛の妻ガラと添い遂げましたし、シュールレアリストって、そういう人多いのか。一方、キュビズムのピカソ。絵のモデルとして描いた愛人が7人もいて、恋を続けた。

 絵を見て、「これはいくらか」と「女性関係はどうだったか」ということのほかに思い及ばず、高度な芸術技法などには縁遠い春庭ですが、絵を見るのは楽しいから好き。無料だともっとうれしい。

<つづく>
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ぽかぽか春庭「美を紡ぐ-日本美術の名品展 in 東京国立博物館」

2019-06-01 00:00:01 | エッセイ、コラム

 東博本館「美を紡ぐ」

20190601
ぽかぽか春庭アート散歩>薫風アート(4)美を紡ぐ-日本美術の名品展 in 東京国立博物館

 5月18日博物館の日。東京国立博物館は常設展無料です。
 上島珈琲でコーヒー休憩するのをカットしたので、しばしの休憩のためにまずは東洋館3階テラスへ。持参の缶コーヒーとおやつのクッキーをテラスのテーブルに出して、通常の土曜日よりにぎわっている本館前の人々を見渡します。この休憩テラスは、展示がごった返す混みようでも、いつも静かです。ここが休憩テラスになっていること、ほとんどの人が気づかないのです。東洋館の奥のほうにひっそりと入場口があります。

 東洋館テラスから表慶館を見る。


 東洋館では、まず、夾紵大鑑(きょうちょたいかん)にご挨拶。大倉集古館は2019年の秋まで改修工事が行われています。改修がおわるまでの間、夾紵大鑑は東洋館に「お預かり」の身となっていました。この秋には東洋館から返還されるのでしょう。
 大倉集古館でも見たことがありましたが、館内薄暗い感じだったし、背が低い私には器の中がどんな感じかまったく見えませんでした。改修したら明るくなるのかもしれませんが、今のうちに明るい東洋館で、間近にながめておきましょう。

 伝中国河南省輝県出土 戦国時代・前5~前3世紀 東京・大倉集古館蔵の夾紵大鑑、直径138cm、高さ50cm。漆器。世界中にこれほど大きな漆器はないだろうというお宝。


 館内の展示品、ほとんどは撮影OKですが、夾紵大鑑は他館からの寄託品であるため、ほんとは撮影不許可。所蔵権は大倉集古館にありますが、フラッシュ使わない、他の人が映り込まないようにする、という私ルールで撮影しました。

 東洋館の展示、時間があるときはゆっくり回り、そうでないときは駆け足でまわって見たいところだけ集中して見ます。今回目にとまったのは、古裂帖。
 古裂帖とは、江戸時代の茶人たちの価値観によって蒐集され、元から明にかけて中国から日本に舶載された古裂を帖に張り、その名称を記した「名物裂」のアルバムのこと。茶人たちは「唐物」と呼んで珍重し、棗入れなどを作った切れ端を張り合わせ、大切にしてきました。
 唐物を作っていた中国では、戦乱や王朝交代のときに布地などは失われてしまったため、日本にしか布地資料が残っていないという貴重なものも含まれています。

 茶人たちの美意識、私には「わからん」ところが多いのですが、この古裂帖は、織物資料染色資料として「よくぞ残してくれました」と思いました。

 唐物の布地で棗入れなどを仕立てた残りの切れ端は、丁寧に張り合わせてあります。


 貼り合わせの唐物の形の組み合わせ方がとてもいいセンス。現代アートのひとつのようです。

 博物館の日、無料入館。毎回、本館を見るたびに、一番先に本館の国宝を見ます。展示は毎月変わり、5月の国宝は「千手観音像」。観音様へのお祈りのことばは、毎度同じ、「家内安全国家安泰世界平和宇宙長久それにつけても金の欲しさよ」。



 1階2階通常展示をひとまわり。
 平成館で開催されている「国宝 東寺―空海と仏像曼荼羅」に合わせて本館で「密教彫刻の世界」展が併催されていました。東寺の立体曼陀羅は、昨年の京都旅行の最終日に拝観しました。お寺でのほとけさまとして見るのと、美術館での展示とではまた違う雰囲気でしょうから、見にいこうかどうしようかと迷っていた折り、東館が所蔵する密教仏像を観覧できるなら、ありがたい。




 特別展「美を紡ぐ 日本美術の名品 ―雪舟、永徳から光琳、北斎まで―」を見るかどうか、しばし考える。せっかく無料の日なのに、1100円払うの、どうするか。
 悩むほどのことか、えいやっと特別室に入場。特別5室・特別4室・特別2室・特別1室
 会期:2019年5月3日(金)~2019年6月2日(日


 東博所蔵品だけでなく、「皇室の至宝・国宝プロジェクト」と銘打たれた、東博が修理保全を手掛けた三の丸尚蔵館所蔵品や宮内庁所蔵品が特別展示されています。

 かって国宝室で見たことのある長谷川等伯「秋冬山水図」や 久隅守景 「納涼図」は、いつかはまた東博国宝室に出てくることもあるでしょうが、宮内庁や文化庁の所蔵品となると、つぎにいつ見ることができるか、わかりませんから、千円惜しんでいてはいけません。

 特別展第1室には、永徳の唐獅子図と檜図。ど~んと大きい。
 (唐獅子図は、ぽかぽか春庭20190101に掲載しました)

 狩野永徳 檜図1590 


 藤原定家筆 更級日記13世紀
 

 野々村仁清 17世紀


 今回ならではの展示。濤川惣助「七宝富嶽図額」。東博所蔵。
 濤川惣助七宝作品は、ほとんどが海外に輸出されてしまい、赤坂迎賓館に飾られている七宝の花鳥図以外に国内で見ることは難しい。この富嶽図は、七宝ですが、1893年にシカゴ万博博覧に出品されたときは、絵画として展示されたのだそうです。現在は東博所蔵。私ははじめて見ました。



 葛飾北斎の「西瓜図」も初めて。北斎80歳の肉筆画。1839年の作。丸尚蔵館所蔵。
 半分に切った西瓜に和紙が載せられ、その上に包丁。上に渡された縄には、桂剥きされたスイカの皮がぶら下がっています。


 さまざまな研究者が、それぞれの解釈を提出している、ということですが、そのひとつは、「七夕」の縁起物として飾られたのではないか、と。この先、なぞ解きを楽しめるかも。
 
 老い先短いこれからの日々。この先、いつみられるかわからないお宝、見ることができてよかったです。5月18日土曜日に見にいき、5月25日にもう一度見ました。

 5月18日閉館時間が迫ったころの表慶館ライトアップ



<つづく>
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