「未来と芸術展」 森美術館

森美術館
「未来と芸術展:AI、ロボット、都市、生命――人は明日どう生きるのか」
2019/11/19~2020/3/29



AIやバイオ技術、ロボット工学、ARなどの最先端の科学により、社会や人間の生活が目まぐるしく変化する現代において、未来へ向けて「どう生きるのか」を問いを、アートやデザイン、建築を通して考察する「未来と芸術展」が、森美術館にて開催されています。


ポメロイ・スタジオ「ポット・オフグリッド」 2016年

はじまりは未来を切り開くべく、世界各地で進む都市計画や様々なアイデアでした。シンガポールのポメロイ・スタジオは「ポット・オフグリッド」において、海に浮かぶエネルギーに頼らない都市のプロトタイプを提案していて、シンガポールやヴェニスの地に適応したプロジェクトが構想されました。


XTUアーキテクツ「Xクラウド・シティ」 2019年

パリを拠点にしたXTUアーキテクツの大胆な発想も面白いかもしれません。「Xクラウド・シティ」では近未来、人類は温暖化などにより地表に住めなくなったと仮定し、雲の上の大気圏内に居住空間を作ることを提案していて、まさに宙の上には住居のモジュールが浮かんでいました。


「2025年大阪・関西万博誘致計画案」 2019年

2025年に開催が予定される「大阪・関西万博誘致計画案」にも目を引かれました。ここでは計画案に組み込まれた様々な特徴などを、未来都市のあり方として再構成されていて、デジタルのインスタレーションとして表現されていました。

こうした未来の都市に続くのは、環境の変化などに対応することが求められる建築で、新素材や工法の研究事例や成果を紹介していました。


ビャルケ・インゲルス & ヤコブ・ランゲ「球体」 2018年

そのうち異彩を放っていたのがビャルケ・インゲルス&ヤコブ・ランゲの「球体」で、2018年にアメリカのネバダ州の荒地で発表された、大きな球体の模型を展示していました。同地でのフェスティバルのために用意された作品、多くの人々の参加によって組み上げられました。それこそ地球を照らす巨大なミラーボールと言えるのかもしれません。


ミハエル・ハンスマイヤー「ムカルナスの変異」 2019年

1つのインスタレーションとして目立っていたのが、ドイツのミハエル・ハンスマイヤーによる「ムカルナスの変異」で、筒型のパイプや紐のようなものが円を描くように吊り下がっていました。


ミハエル・ハンスマイヤー「ムカルナスの変異」 2019年

これらはイスラム建築で見られる装飾をモチーフとしていて、ハンスマイヤーはコンピューターを用いたシュミレーションにより、独自のデザインを築き上げました。中に入ると、氷柱のように突起物が連なっていて、人工的な洞窟の中へ潜り込んだような錯覚を覚えるかもしれません。


エコ・ロジック・スタジオ「H.O.R.T.U.S. XL アスタキサンチン g」 2019年

チラシ表紙を飾ったのが、ロンドンのエコ・ロジック・スタジオによる「H.O.R.T.U.S. XL アスタキサンチン g」なる彫刻でした。これはバイオ技術を使い、サンゴの形をコンピューターでシュミレーションし、3Dとして出力されたもので、ブロック内には微細藻類が埋められていました。そして太陽光によって光合成しては、造形物の内部にて生物コロニーが形成されていて、曲線を帯びた独特なフォルムは、あたかも未知の生命体のようでもありました。


GROOVE X「LOVOT(らぼっと)」 2019年

ライフスタイルに関する展示で圧倒的な人気を集めていたのがロボットでした。「LOVOT(らぼっと)」は、東京のGROOVE X社が3年かけて開発した愛玩ロボットで、人の手の動きなどに反応しつつ、大きな目を見開きながら、終始、忙しなく動いていました。なおLOVOTにはセンサーが内蔵され、人間とのスキンシップの状況を理解するように作られていました。


ヴァンサン・フルニエ「マン・マシン」シリーズ 2009-2010年

このロボットを素材に扱ったのが、パリのヴァンサン・フルニエの「マン・マシン」シリーズでした。一連の写真では、ロボットが日常的な場面に溶け込むように存在していて、子どもとバスケットボールを楽しむなど、特に何かの仕事をしているわけではありませんでした。


ヴァンサン・フルニエ「マン・マシン」シリーズ 2009-2010年

現在、一般的なロボットは何らかの役割を与えられていますが、「マン・マシン」で表現されたロボットは、人間同様に仕事に従事していない瞬間のある存在で、それこそ意思を持つかのようでした。果たしてロボットが人間と同様の知能を持つ時代がやってくるのでしょうか。


ディムート・シュトレーベ「シュガーベイブ」2014年-

バイオ技術を集めた「バイオ・アトリエ」も目立っていたかもしれません。特に驚いたのがアメリカのディムート・シュトレーベの「シュガーベイブ」で、ゴッホの切り落とした左耳をタンパク質で再現しようとした彫刻でした。ここにはゴッホの子孫のDNAも導入されていて、話しかけると神経インパルスを模した音がリアルタイムで生成される仕組みをもっていました。あまりにも生々しいゆえに、ここから実際にゴッホが再生されていく光景を想像するほどでした。


パトリシア・ピッチニーニ「親族」 2018年

メルボルン在住のパトリシア・ピッチニーニの「親族」も、科学と生命に関する問題をテーマとした作品でした。オランウータンと人間の架空の交配種をもとに、母子が手を取りながら抱き合う姿を表現していて、「いびつ」(解説より)な造形に目を奪われるともに、確かな親子の愛情をも汲み取ることが出来ました。


ダン・K・チェン「末期医療ロボット」 2018年

ラストは「変容する社会と人間」と題した展示で、科学の発展に伴う新たな人間像や社会像などが示されていました。そのうち、一見、目立たないものの、重い主題を扱っていたのが、台湾生まれのダン・K・チェンで、1つの無機的なベットを展示していました。一体、何を意味するのでしょうか。


ダン・K・チェン「末期医療ロボット」 2018年

これは人間の死をロボットが看取るためのベットで、患者がロボットに腕をさすられながら、「快適な死を迎えください」と他界する様子も映像で表現していました。何とも滑稽ながらも、ロボットはいわば真摯に人間にも向き合っていて、必ずしも絵空事には見えませんでした。果たして実用化されることはあるのでしょうか。


アウチ「データモノリス」 2018年

インタンブールを拠点に活動するアウチの「データモノリス」も迫力十分でした。高さ5メートルもの直方体には、スピーディーに変化する様々なパターンが映し出されていて、それこそ宇宙の果てを覗き込んでいるかのような、SF的なイメージも感じられました。


アウチ「データモノリス」 2018年

とは言え、図像そのものは、トルコの紀元前9000年頃にまで遡る古い遺跡に刻まれたもので、それをAIで解析し、抽象的なパターンに変えて映していました。古代のイメージを未来へと転換して見せる面も面白いかもしれません。


MADアーキテクツ「山水都市リサーチ」 2009年

これまでにも森美術館では「医学と芸術展」(2009年~2010年)、「宇宙と芸術展」(2016年~2017年)と開催してきましたが、今回はよりジャンルの広い「未来」がテーマゆえに、なかなか焦点が絞り込めない面はあったかもしれません。それでも時にアートを超えた様々な作品はなかなか刺激的で、未来への表現の新たな可能性を感じられる展示ではありました。


会期中は無休です。年末年始のお休みもありません。2020年3月29日まで開催されています。

「未来と芸術展:AI、ロボット、都市、生命――人は明日どう生きるのか」 森美術館@mori_art_museum
会期:2019年11月19日(木)~2020年3月29日(日)
休館:会期中無休。
時間:10:00~22:00
 *火曜日は17時で閉館。但し11月19日(火)、12月31日(火)、2月11日(火・祝)は22時まで開館。
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1800円、学生(高校・大学生)1200円、子供(4歳~中校生)600円、65歳以上1500円。
住所:港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー53階
交通:東京メトロ日比谷線六本木駅より地下コンコースにて直結。都営大江戸線六本木駅より徒歩10分。都営地下鉄大江戸線麻布十番駅より徒歩10分。

注)写真はいずれも「クリエイティブ・コモンズ表示 - 非営利 - 改変禁止 4.0 国際」ライセンスでライセンスされています。
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