2010.2.17(水)
「鉄の生活史」(窪田蔵郎著)角川新書 昭和41年初版 270円(古書価格600円)を読了。鉄や金属の古典を沢山読んできたが、地名や神名、祭祀などの考察に関するものがほとんどで、技術的なものに関する本を探していた。タタラ製鉄の操業や技術などが網羅されている本書は最適であった。もちろん歴史的なことも書いてあるのだが、他の古典に見られなかったのは、鉄の生産についてその従事者からの視点で書いてあることだった。例えば次のような項目を見ると解ると思う。「悲しき捕虜工人」「古代国家建設と民衆の苦しみ」「庶民にはほどとうかった鉄」「タタラ場残酷物語と幕府・藩の鉄山干渉」などである。
古代においては鉄というものが権力に直結する重要なものであったにかかわらず、それを生産する者は身分的には虐げられていたこと、タタラ場のように専業化してきたとき、そこに従事するものは奴隷的な生活をおくっていたとかいうことである。こういった見方は今までの本に見られなかっただけに、もう少し窪田氏の著書を読んでみようと思う。
古代製鉄の地にその痕跡が残っていない理由のひとつとして、タタラ従事者が虐げられていたという事実があるのではないだろうか。地方によっては先祖がタタラ者であったことを非常に不名誉なこととしているところもある、と氏は書いている。
本書で気になった事柄を列記してみよう。
(1)石上神宮に残る刀剣類に彫られている銘に俘囚云々というのがある。金属製錬技術者が一般的に身分的に虐げられており、冷遇されていたことが解る。三韓遠征による捕虜として金属関係の技術者が使われていたのだろうか。あるいは蝦夷征伐の俘囚かもしれない。いずれにしても遠征や征伐という侵略が鉄やその技術者の争奪というのが目的であったのかもしれない。
(2)淘汰という言葉が盛んに使われている。
先日(2010.1.31参照)「黄金と百足」の雨読欄で淘汰という言葉が、タタラの場で使われていただろうかという疑問を提起していたが、本書の中に盛んに使われていて、意外な感がしている。淘汰という言葉が古文書などに出てきているというわけではないが、例えば「川砂鉄は、川の流れにより自然淘汰されて云々」「なるほど泥鰌掬いは、その身ぶりが土壌を淘汰する身ぶり云々」などと一般的な使い方で出てくるわけだが、淘汰という言葉が通常使われるような言葉ではないというわたしの意見は、間違っているのかもしれない。淘汰という言葉が、製鉄や金属生産の現場で、実は普通に使われていたのかもしれない。
(3)風呂の語源は?
浅原のこと(2)(2010.2.8参照)で風呂は鞴を意味し云々と書いた。ところが本書ではタタラ場や鞴についてかなり詳しく書いているものの、鞴=風呂というのは見あたらない。確認のため再度風呂塔(ふろんと・1402m)について調べてみる。風呂塔の中腹に「鍛冶屋の窪」という銅の柄実(からみ)遺跡があり、銅の精錬に使用した鞴のふろから来ているとある。風呂というのは本書に記載は無いが、鞴と炉を繋ぐ送風管を木呂(きろ)と呼んでおり、鞴のパーツとして風呂というのがあるかも知れないし、木呂のことを風呂と呼ぶところがあるのかも知れない。
(4)罔象女命(みずはめのみこと)は農耕神か?
「神社の変遷」(2010.1.8参照)や「浅原のこと(3)」(2010.2.9参照)で金属神丹生都姫が水の神、農耕の神罔象女命に取って代わられるという話を書いた。
本書ではタタラ場の詳しい内容が記述してあり、鉄池(かないけ・鉧の塊を水冷する池)には通常罔象女命が祀ってあるとのことである。となると、この神様は金属とは関係のない、水を司る農耕に関する神様というよりは、もともと金属生産加工の水を使用する部署の神様であったのが、金属生産加工が廃業となり農耕主体となったときに、農耕の水の神様という風に転換したと考えて良いのではないだろうか。
(5)こんなことが許されるのか。
講談社学術文庫として「鉄から読む日本の歴史」という本が出版されている。今回読了した「鉄の生活史」のサブタイトルは「鉄が語る日本歴史」である。著者はどちらも窪田氏だが、タイトルは違うものである。ところが内容はまるで同じで、使われている写真や序文まで同じである。通信販売で買っているわたしは、そんなことはつゆ知らず、どちらも買ってしまった。書店で選んでいたらこんなことは起きなかったのだが、致し方ない。それにしてもタイトルを異にして、同一内容の本を出版するとは、納得のいかないことである。内容が良かっただけに、余計残念に思う。
【作業日誌 2/17】
アスパラガス植え付け
ドッグランどゲート前コニファー植え付け
今日のじょん:猟期が終わった途端、イノシシ君が堤防を走り回っているようだ。うっすらと積もった雪に無数の足跡、掘った跡、オシッコの跡、臭ぎまわって散歩にならない。 帰ったら寝てますが、、、、、、、。