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出産させないシステムが完成した日本~破滅衝動=結婚をなぜ越えられないのか?

2013年11月09日 09時38分34秒 | ニュース
こんにちは。江端智一です。

 前々回、前回は、現在から将来のかけての人口減少の計算結果と、生涯未婚率の推移予測について記述しました。その中で、日本の人口が半分になるのは70年後、結婚を選択しない人が半分を超えるのは50年後、という結果を示しました。

 内閣府は「平成25年版少子化社会対策白書」(以下、少子化白書という)の中で少子化問題に対して、「我が国は、社会経済の根幹を揺るがしかねない『少子化危機』とも言うべき状況に直面している」との声明を出しております(「少子化危機突破のための緊急対策」)。

 私自身は、「社会基盤の根幹を揺るがす」などという認識では足りず、アガサクリスティの『そして誰もいなくなった』の国家レベルバージョン、日本史上最悪の国家存亡の危機、と考えています。

 内閣府の少子化対策の内容は、少子化白書に記載があります。まずは、その対策の方針だけを、大まかに図示したいと思います。
 まず、動機ですが、「日本経済がヤバイ」はまあいいとして、「国民の『幸せ』を叶えられない」という、上から目線の物言いがかんに障ります。しかし、内閣府にはこのような記載ができるだけの根拠があります。結婚に対する意識を調査した結果「第1-1-6図 調査別にみた、未婚者の生涯の結婚意思」(2010年)によれば、未婚者の男性、女性ともに、ほぼ9割が「いずれは結婚しようと考えている」からです。
 このデータを見れば、「生涯独身主義」とか、「孤独死上等」と叫んでいる人がいたとしても(実際、私の周りにもたくさんいますが)、それが少数派であることは明らかです。つまり、内閣府が「結婚→妊娠→出産」のパッケージメニューを、「『国民の幸せ』と称して何が悪い?」と、開き直れるだけの理由はあるのです。
●政府が掲げる少子化対策
 さて、次に少子化対策のアプローチ(進め方)なのですが、これは、いわゆる「3本の柱」なるもので説明されています。

 最も重点を置いているのは、出産後の育児支援体制です。まず法律で枠組みをつくり(「枠」)、設備(育児施設)をつくり(「箱」)、国民の意識の改革を目指す、という流れになっています。特に、「枠」と「箱」の話が多い。いや、むしろ「枠」と「箱」の話ばかりのように読めました。児童手当制度、教育・啓発普及、地域環境、妊産婦の経済的負担軽減、保育所待機児童の解消、小児医療の充実、ひとり親家庭への支援……。

 ここから導かれる内閣府の少子化方針の意図は明確です。つまり「出産後のアフターサービスは任せておけ」です。そして、「アフターサービスが完璧なら、子どもは増えるはずだ」という、少子化に対する間接的、二次的なアプローチなのです。

 しかし、少子化の問題とは、「アフターサービス」の話ではなく、「子どもが産まれてこないこと」そのものです。この少子化白書を読んでいて、私が一貫して気持ち悪かったことは、「アフターサービスが充実していれば、どんなに高価でも商品は売れる」と考える、古いタイプの家電店の店主のイメージから抜け出せなかったことです。
●少子化になってしまう原因とは?
 そもそも、少子化白書には、「なぜ少子化になってしまうのか」に関する分析があまりクリアではありません。書けない事情があったのかもしれません。そこで、今回、その「書けなかった内容」を、私なりに推測してみました。

(1)少子化は最適戦略だから

 かつての我が国や、多くの発展途上国において、現実に、子どもは定量化できる労働力としての経済的価値であり、子どもの数が多いということは、多くの財産を所有していることになりました。

 一方、子どもは、成人前に死に至ることの多い不安定な財産でもありましたので、女性は、「子どもを生産するマシン→財産を生成する装置」として、閉経まで、子どもを産み続けなければなりませんでした。

 20世紀初頭、人口の全死者数の40%を5歳以下の子どもが占め、さら、18世紀まで遡ると、死んだ子どもは麻袋に詰めて、地面に埋めるだけだったという記載が残っています<『デザイナー・ベビー』(原書房/ロジャー・ゴスデン)>。ほんの150年前までは、堕胎は違法行為ではありませんでした。子どもの死産、または子殺しは、ごく普通の日常だったのです。

 しかし、その後、議会や法律によって、労働力としての子どもが社会から外されていくようになりました。日本の場合、15歳以下の児童の労働が禁止されたのは、太平洋戦争終結の2年後、1947年です。法律によって、15歳以下の子どもでも労働させることができなくなり、ここに「財産」としての子どもの価値は消滅します。

 そして、逆に、子どもは「献身」するべき対象として、いわば「負債」に変化しました。


 親は、子どものために働き、金を費やし、生命保険に加入し、子どものために貯蓄までします。その時間を自分の為に使い、その金を老後に残しておいた方が、どう考えても合理的であるにもかかわらずです。

 そうまでして、なぜ私たちは子どもを欲しがるのでしょうか?

 これに対する合理的な説明の一つとして、「永遠に生き続けたい」という考え方があります。自分が死んだ後でも、自分の子孫の中でいつまでも生き続けるのだ、という考え方は、世界中のどんな宗教よりも、私たちを死の恐怖から遠ざけてくれます。また、遺伝子学的観点からは「利己的な遺伝子」という考え方もあります(今回は割愛します)。

 また、医療の発達により、子どもの死亡率は劇的に下がりました。5歳以下の子どもは、ほんの100年前には、1000人中およそ300人(推定値)が死んでいたのに、現在では3人ほどになりました。子どもが生き残るのであれば、人数の少ない方が経済的に楽に決まっています。

 そして、ここが重要なのですが、私たちが愛するのは、世界中の子どもでもなく、日本中の子どもでもなく、「自分の子ども」だけです。無制限の惜しみない愛は、自分の子どものみに発動します。他人の子どもがどうなろうが、ましてや、日本国の将来がどうなろうが、そんなことは知ったことではありません。「それは、私たち以外の誰か(内閣府とか)にお任せします」と、子育て世代の夫婦なら考えることでしょう。まとめますと、子育ての世代の夫婦にとっては、少子化こそが「最適戦略」なのです。
●独身は面倒なことをすべてスルーできる
(2)独身は最適戦略だから

 先ほど、「未婚者の9割が結婚を希望している」と言いましたが、ここにはデータには表れない条件が含まれていることを忘れてなりません。「結婚」とは、好きな人と、または自分の子どもたちと一緒に生きる、ということであり、それ以外の「余計なもの」は考慮されていません。配偶者の親(の同居や介護など)や、親戚などは考慮に入れません。

 テレビを見れば、「結婚すれば必ず不幸になる」ドラマしか放送されておらず、結婚活動(婚活)は金も時間もかかる上、うまくいかなった時は体裁が悪く精神的ダメージも大きい。また、赤の他人と残りの生涯を一緒に生活する、と考えるだけでストレスになりますし、一度結婚すると、法律等で、簡単に結婚生活をやめることができないようになっています。さらには、自分の伴侶や子どもに暴力を振るう人物も、一定数存在しているという事実があります。

 独身のままでいることは、上記の面倒くさい問題を全部スルーできる上に、自分の価値観だけで生きていけるという自由があります。もちろん、病気や老後の心配もありますが、子どもに投資する金額を考えれば、それを貯蓄に回すことで、十分担保できます。

 これらをはかりにかけて、なお「結婚を選択する」ことは、自虐的な破滅衝動といっても言い過ぎではないでしょう。まとめますと、独身のままでいることは、「最適戦略」なのです。
●出産は、いまだに極めて困難な社会
(3)私たちの社会は「子どもを産ませないシステム」として完成しているから

 過去においては、結婚して夫に寄り添い子どもを産むことが、典型的な女性の生き方であったのに対して、女性は仕事の道を進むことを――自己実現のためであれ、経済的な理由であれ――余儀なくされ、そして、仕事と子どもの両方を得ることが、絶望的に難しいという現実に直面します。
 仕事で実績を獲得するためには、長期間にわたり、仕事に専念することが強要されます。キャリアは女性に対して、結婚や出産の問題を「後から考えろ」と命じていながら、いざ子どもを産むことを考える時期には、女性の卵巣には、もう十分な数の元気な卵子が残っていないのです。
 女性の閉経期は、人類がマンモスを追いかけていた2万年前から変わっておらず、たった200年前、女性の平均寿命は44歳で、閉経の時期と女性の寿命は、おおむね妥当な関係にあったのです。さらに、これに追い討ちをかけるがごとく、年齢が上がるとともに卵子の染色体異常の発生率が高くなります。これによって、ダウン症等の子どもが産まれる確率が高くなります(20代から40代で、約40倍もアップ)。

 なぜこのようなことが起こるかというと、染色体が2つあるためです。卵子に入れる染色体は1つだけです(減数分裂)ので、染色体は「相手を蹴飛ばしても、自分が卵子に残りたい」と思いますが、まだ卵子が十分な個数残っている時は、染色体も焦りません。子どもはまだ何人か産まれる可能性があるからです。しかし閉経近くになってくると、2つの染色体は、争って卵子に残ろうとして、ここで染色体異常が発生してしまうのです。
 そして妊娠の可能性は、年齢が高まるとともに劇的に低下し、48~52歳くらいに閉経を迎え、完全に消滅します。
 仕事と出産の両立が絶望的に困難なのは、誰がどう考えたって明らかです。しかし、生きていくためには仕事をしなければならず、仕事を続けるのであれば出産は選択できない。本来、出産・育成支援システムである「結婚」は、昨今の不景気によって、その機能を十分に発揮できる状態にありません。つまり、現在の私たちの社会は「子どもを産ませないシステム」として、美しい閉じたループを描いて完成しているのです。
●先進国でも合計特殊出生率2.0を達成している国
 しかし、子どもに経済的価値がなく、負債として把握される先進国にあっても、人口減少が起こらない合計特殊出生率2.0を達成している国もあります。アメリカが2.1、フランスが2.0 なのに対し、日本は1.4で、192カ国中、下から3番目という悲惨な位置にいます(合計特殊出生率ランキング、国別順位 - WHO世界保健統計2012年版)。

 まず、アメリカのケースですが、アメリカ国内で産まれた子は、親の出生国に関係なく無条件でアメリカ国籍を取得できます、たとえその親が不法入国者であろうとも関係ありません。このように、出生率の実態は移民の増加の影響が大きいと考えられ、日本の場合と比較しにくいので、ここでは検討をしません。

 一方、フランスは、2011年に合計特殊出生率2.03という驚異的な数字を叩き出しています。内閣府の少子化白書の「アフターサービス戦略」は、おそらく、フランスをケーススタディとしていることは、ほぼ間違いないと思います。(「フランスとドイツの家庭生活調査」より)

 しかし、フランスの政策と日本の「少子化白書」の内容には、決定的に違うことが1つだけあります。

 「フランスでは、同棲による婚外子が一般的である」という点です。婚外子とは、法的に婚姻関係にない男女から産まれた子どものことをいいます。フランスで産まれてくる子どもの半分は婚外子ですが、日本での婚外子は出生全体の1.9%(2003年)にすぎません。(「先進諸国における婚外子増加の背景」より)

 フランスでは、1990年代に、婚外子の親権共同行使が原則化されて、子どもの養育のための経済的負担は婚姻内外、離婚の有無を問わず男女平等に求められ、支払わない者に対しては国が強制徴収を行うという徹底ぶりです。比して、我が国ではどうでしょうか?
●婚外子が受け入れられにくい日本
 内閣府の「少子化白書」の「3本の矢」の最後の矢は、「(3)結婚・妊娠・出産支援」でした。この項目から「結婚」は外されていません。そもそも、我が国は、婚外子を差別的に扱うことを法定してきたという歴史的経緯があり、ようやく最近になって、婚外子の遺産相続分を結婚した夫婦の子の半分とした民法の規定が違憲と認定されるに至ったという状況にあります。

 一方、お隣の国、韓国の事情を見てみますと、合計特殊出生率は1.3で、日本よりさらに悪いです(数値でワースト2位。ちなみに、最悪値は、ボスニア・ヘルツェゴビナの1.1)。この成績の悪さは、「婚外子」との関連があるのかもしれないと思い、調べてみたところ、内閣府のウェブサイト中、少子化対策に資料が出ていました。(「第6章 日本と各国との比較 1.日・韓比較」)

 簡単にまとめますと、「韓国・日本ともに、婚外子に抵抗がある人は8~9割いる」となります。婚外子に抵抗がある人が多数派である以上、我が国において、「結婚」を抜きにした「妊娠→出産」のプロセスは、選択しにくい状況にあることがわかります。

 そして、前述した通り、現在、この「結婚したいが、結婚したくない」という矛盾したロジックを有する非婚者は、今後も改善されることなく、さらに増加することが予想されています。(参照:「“結婚”未来予測~増え続ける生涯未婚率、今年生まれる子どもの半分は結婚を選択しない?」)

 結果として、我が国では「結婚」という最初のハードルを越えられず、その結果、「出産」に到達することができないようになっているのです。

 では、今回の内容をまとめます。

(1)内閣府の「少子化白書」によれば、少子化対策の趣旨は「日本経済の救済」と「国民の幸福」であり、そのアプローチのメインは、「出産後のアフターサービス」にある。

(2)現在、未婚者や子育て世代の夫婦にとって、独身でいることや子どもの数を少なく維持すること――つまり「少子化」こそが、最適戦略であり、また、現在の日本は「子どもを産ませないシステム」として完成している。

(3)一方、先進国であっても、結婚を前提としない出産に対して差別的な法律や制度がなく、国民の合意形成に至っている国(フランス、北欧等)の出生率は高い。

 さて、前回、エンジニア的観点から「子どもをつくる技術」(性交渉の意味ではない)の最新動向についてお話しすると申し上げていましたが、今回、これを記載すると紙面が倍になりそうだったので、次回(最終回)にさせていただきます。併せて、現在の生殖技術とその技術の導く恩恵と悲劇、そして今、私たちに求められているパラダイムシフトについても、お話しさせていただこうと思います。
(文=江端智一)

 なお、図、表、グラフを含んだ完全版は、こちらから(http://biz-journal.jp/2013/11/post_3295.html)、ご覧頂けます。

※本記事へのコメントは、筆者・江端氏HP上の専用コーナー(今回はhttp://www.kobore.net/kekkon.html)へお寄せください。

国の借金、過去最大の1011兆円 負債膨張止まらず

2013年11月09日 09時08分17秒 | 行政
 財務省は8日、国債や借入金、政府短期証券をあわせた「国の借金」の残高が9月末時点で1011兆1785億円だったと発表した。1000兆円を初めて超えた6月末からさらに2兆5505億円増え、過去最大を更新し続けている。

 残高の内訳は、国債が839兆6096億円、借入金が54兆6007億円、一時的な資金不足を補う政府短期証券が116兆9683億円だった。10月1日時点の総務省の人口推計(1億2730万人)をもとに単純計算すると、国民1人あたり約794万円の借金を抱えていることになる。

 2013年度予算で新規の国債発行額が42兆円を超え、毎年度の発行総額が償還を上回る状況は続く。国の借金の膨張に歯止めがかからず、総額は今年度末には1107兆円になる見通しだ。