「相手がどこだろうが常に勝算はある。ベルギーも評価は高いけど、歴史のある国ではないし、そういう意味ではいい勝負。オランダとは背負っているものが違う。彼らもどうやって大会(ワールドカップ)を勝っていくかというのは未知数の世界でしょうし、立場は日本と一緒です」
16日のオランダ戦(ゲンク)翌日のこの発言で、またも日本中の注目を集めた本田圭佑(CSKAモスクワ)。彼にしてみれば、マルアン・フェライニ(マンチェスター・U)やエデン・アザール(チェルシー)ら豪華タレントを揃えるベルギー相手でも、日本のサッカーをすれば十分戦えるはず、という強い気持ちから、こうした大胆不敵な言い回しになったのだろう。
迎えた19日のベルギー戦(ブリュッセル)。本田は有言実行の傑出したパフォーマンスを見せつける。前半15分のケヴィン・ミララス(エヴァートン)の得点シーンこそ、本田が厳しいチェックを受けて相手に転がったボールを展開され、先制点につげられるという悔しい形を強いられたが、そこからの巻き返しは見事だった。右サイドを駆け上がった酒井宏樹(ハノーファー)への自らの巧みなパス出しから前半37分の柿谷曜一朗(セレッソ大阪)の同点弾をお膳立てし、53分には遠藤保仁(ガンバ大阪)の横パスを受けてドリブルで持ち込み右足ゴール。2013年日本代表戦6得点目をマークし、苦境に陥ったチームを救い、逆転勝利へと導いたのだ。
63分の岡崎慎司(マインツ)の3点目には直接絡まなかったものの、体を張って前線でタメを作って遠藤や両サイドバックの上がりを引き出したり、前線からの献身的な守備でチームに貢献。セットプレーの守備の場面では、本田が周りに声をかけて壁の作り方やポジションの取り方を指示するほど、日本代表全体に大きな影響力をもたらしていた。その存在感の大きさは誰が見ても明らかだった。
実際、本田の目覚ましい働きを目の当たりにしたベルギー人記者たちも「今日の日本は本田が突出していた」「彼にやられた」とみな口を揃えた。彼がベルギーのアザール、後半から出てきたフェライニを上回る運動量とゴール前の鋭さを見せたのは間違いない。
そんな本田にアルベルト・ザッケローニ監督も絶大な信頼を寄せた。この日の本田は67分、相手に対してバックチャージに行き、1枚イエローカードをもらっていいた。退場のリスクがある選手は早めに下げるのが、ザック監督のこれまでの基本的な采配なのだが、ベルギーから金星を得るために、指揮官はあくまで本田の起用に強くこだわった。攻撃陣を大がかりに入れ替えた今回の11月2連戦で、180分間ピッチに立ち続けたアタッカーは本田ただ1人。彼が「日本代表アタッカー陣の中で絶対に代えがきかない選手」であることを、欧州強豪2カ国に改めて強烈に印象付けたのである。
当の本田はこうした周囲の反応に全く無関心な様子。3-2でFIFAランク5位のベルギーに逆転勝利したことも特別には喜ばず、ボードワン国王スタジアムのミックスゾーンを淡々と素通りした。その直前のテレビインタビューには「結果はうれしいですけど、いい部分も出ましたが課題も出た。何がよくて何が悪かったのかは冷静に分析したいと思います」と短くコメントしたというが、試合日にこうやって口数が少なくなるのは、彼自身の中で納得いかない部分が多かった証拠。おそらく香川真司(マンチェスター・U)が「2試合通して前半のミスからの失点をなくすことと、攻撃においてもう1点2点突き放させる強さを持つこと」と語ったような課題と同じようなことを考えたに違いない。
今回のベルギー戦は2点を取られたが、3点を取って勝てた。10月のセルビア・ベラルーシ2連戦で沈黙した攻撃陣に勢いと迫力、連動性が戻ってきたことはポジティブに捉えていい。しかし、毎回同じような勝ち方ができるとは限らない。この日も終盤には1点差に詰め寄られ、森重真人(FC東京)が相手にミスパスを出して、ドリブルで持ち込んだミララスに彼がアッサリとかわされる決定機を作られていた。守備面でもっと緻密さを持たないと、ブラジル・ワールドカップの本当の戦いでは勝てないだろう。
そのためにも、チーム全員が個の力を高める努力をしなければならない。本田の口からも「結局は個」という言葉が11月遠征でも頻繁に出ていた。本田自身は4シーズンを過ごしたCSKAからビッグクラブ移籍が有力視される。新天地になるクラブでは、ベルギー戦示した存在感以上の際立った活躍を求めたい。
文●元川悦子
16日のオランダ戦(ゲンク)翌日のこの発言で、またも日本中の注目を集めた本田圭佑(CSKAモスクワ)。彼にしてみれば、マルアン・フェライニ(マンチェスター・U)やエデン・アザール(チェルシー)ら豪華タレントを揃えるベルギー相手でも、日本のサッカーをすれば十分戦えるはず、という強い気持ちから、こうした大胆不敵な言い回しになったのだろう。
迎えた19日のベルギー戦(ブリュッセル)。本田は有言実行の傑出したパフォーマンスを見せつける。前半15分のケヴィン・ミララス(エヴァートン)の得点シーンこそ、本田が厳しいチェックを受けて相手に転がったボールを展開され、先制点につげられるという悔しい形を強いられたが、そこからの巻き返しは見事だった。右サイドを駆け上がった酒井宏樹(ハノーファー)への自らの巧みなパス出しから前半37分の柿谷曜一朗(セレッソ大阪)の同点弾をお膳立てし、53分には遠藤保仁(ガンバ大阪)の横パスを受けてドリブルで持ち込み右足ゴール。2013年日本代表戦6得点目をマークし、苦境に陥ったチームを救い、逆転勝利へと導いたのだ。
63分の岡崎慎司(マインツ)の3点目には直接絡まなかったものの、体を張って前線でタメを作って遠藤や両サイドバックの上がりを引き出したり、前線からの献身的な守備でチームに貢献。セットプレーの守備の場面では、本田が周りに声をかけて壁の作り方やポジションの取り方を指示するほど、日本代表全体に大きな影響力をもたらしていた。その存在感の大きさは誰が見ても明らかだった。
実際、本田の目覚ましい働きを目の当たりにしたベルギー人記者たちも「今日の日本は本田が突出していた」「彼にやられた」とみな口を揃えた。彼がベルギーのアザール、後半から出てきたフェライニを上回る運動量とゴール前の鋭さを見せたのは間違いない。
そんな本田にアルベルト・ザッケローニ監督も絶大な信頼を寄せた。この日の本田は67分、相手に対してバックチャージに行き、1枚イエローカードをもらっていいた。退場のリスクがある選手は早めに下げるのが、ザック監督のこれまでの基本的な采配なのだが、ベルギーから金星を得るために、指揮官はあくまで本田の起用に強くこだわった。攻撃陣を大がかりに入れ替えた今回の11月2連戦で、180分間ピッチに立ち続けたアタッカーは本田ただ1人。彼が「日本代表アタッカー陣の中で絶対に代えがきかない選手」であることを、欧州強豪2カ国に改めて強烈に印象付けたのである。
当の本田はこうした周囲の反応に全く無関心な様子。3-2でFIFAランク5位のベルギーに逆転勝利したことも特別には喜ばず、ボードワン国王スタジアムのミックスゾーンを淡々と素通りした。その直前のテレビインタビューには「結果はうれしいですけど、いい部分も出ましたが課題も出た。何がよくて何が悪かったのかは冷静に分析したいと思います」と短くコメントしたというが、試合日にこうやって口数が少なくなるのは、彼自身の中で納得いかない部分が多かった証拠。おそらく香川真司(マンチェスター・U)が「2試合通して前半のミスからの失点をなくすことと、攻撃においてもう1点2点突き放させる強さを持つこと」と語ったような課題と同じようなことを考えたに違いない。
今回のベルギー戦は2点を取られたが、3点を取って勝てた。10月のセルビア・ベラルーシ2連戦で沈黙した攻撃陣に勢いと迫力、連動性が戻ってきたことはポジティブに捉えていい。しかし、毎回同じような勝ち方ができるとは限らない。この日も終盤には1点差に詰め寄られ、森重真人(FC東京)が相手にミスパスを出して、ドリブルで持ち込んだミララスに彼がアッサリとかわされる決定機を作られていた。守備面でもっと緻密さを持たないと、ブラジル・ワールドカップの本当の戦いでは勝てないだろう。
そのためにも、チーム全員が個の力を高める努力をしなければならない。本田の口からも「結局は個」という言葉が11月遠征でも頻繁に出ていた。本田自身は4シーズンを過ごしたCSKAからビッグクラブ移籍が有力視される。新天地になるクラブでは、ベルギー戦示した存在感以上の際立った活躍を求めたい。
文●元川悦子