「津波から逃げる幽霊を見た」「某所の橋はマジで“出る”らしい」ーー。
被災地では、震災から4年になる今でもこうした幽霊の目撃談が後を絶たないという。さらに「東日本大震災ほど幽霊話が顕著だった震災はない」と指摘する研究者も。被災地に出る幽霊の正体を追った。
■沿岸の、とある道路に幽霊の行列!
3・11直後から被災地にはこんなウワサが流れている。震災で亡くなった人が幽霊となって出る――。例えば、こんな話だ。
「ある橋では、幽霊がタクシーを止めて乗り込んできて、運転手が行き先を聞くと決まって『あの、私、死んだんでしょうか?』と聞いてくる」
また、こんな話も。
「沿岸にある、とある道路では、夜になると震災で亡くなった人たちの霊が行列を作るほどたくさん歩いている。そこを通る車から『人をひいてしまった』と警察にたびたび通報があるが、実際、誰かがひかれた形跡はない」
他にも「ある町では、津波から逃げているのか何度も何度も同じ建物に駆け込む幽霊が出る」「大勢の人が亡くなった浜に青白い炎が見えたり、人の話し声が聞こえたりした」「ある道路が夜間通行止めになるのは、幽霊の目撃談があまりに多いから」などなど…。
実は震災から4年になる今でも、こうした幽霊の目撃談が後を絶たないのだという。
宮城県石巻(いしのまき)市の、ある飲み屋の店主はこう言う。
「被災した年の夏頃だったかな、そんな話がちらほら出てくるようになったのは。もうすぐ4年になるけど、この手の話はゴマンと聞いたよ。お客さんで実際に“見た”って人も結構いるしね。まぁ、オイ(俺)は見てねえから信じてないけど…。たくさんの人が亡くなったわけだから、出てもおかしくないんじゃね」
メディアではNHKが2013年に「津波の犠牲者と再会した」「声を聞いた」といった被災者の不思議な体験を特集したNHKスペシャル『シリーズ東日本大震災 亡き人との“再会”~被災地 三度目の夏に~』を放送し、大きな反響を呼んだ。またAFP通信などの海外メディアもこの事象を報じている。こうした幽霊話は被災地ではすっかり定着しているのだ。
「これまで様々な災害を調査してきましたが、幽霊に関する話がここまで顕著だった災害は近年、ありませんでした。しかも単なるウワサ話と異なるのは、4年という長期間にわたって語り継がれていることです」
そう指摘するのは、災害社会学や災害情報論を専門とする日本大学文理学部社会学科の中森広道教授だ。
震災直後から被災地を回っていた中森教授は、被災地の人々から幽霊の目撃談が広まっていることを聞き、13年12月に被災地に拡散した幽霊話を検証するアンケート調査を行なった。
すると被災3県から計345件もの回答(岩手55・宮城217・福島73)があった。「津波から逃げる幽霊」「タクシーに乗る死者の霊」など、記者が取材でたびたび聞いたのと同様の話も少なくなかった。
中森教授は次のように指摘する。
「まだ予備的な調査の段階なのではっきりしたことは言えませんが、これだけ広い範囲が被災したにもかかわらず、いくつか特定の場所で幽霊が目撃されていることが多い。もはや幽霊話が都市伝説化しているのではないか」
確かに、この調査に出てくる某所の橋や建物などは、記者が被災者から何度も耳にしたスポットだった。
その一方、本誌が取材を進めていく中で多く聞こえてきたのが、(1)「顔のある幽霊」、つまり実在した人間が登場する話(2)一般的な心霊話のように憑(つ)いたり祟(たた)ったりするのではなく、どこか温かみを感じさせる話、のふたつだ。
例えば、こんな話。夜、仙台市内で女がタクシーを止める。行き先は津波被害を受けて更地となった沿岸部の住宅地。「こんな時間に行っても何もないですよ」と言いながらも女を乗せて走り始めた運転手がしばらくして後部座席を見ると誰もいない。だが運転手は「きっと住み慣れた町に帰りたいんだろう」と、消えた女の気持ちをおもんぱかって目的地まで車を走らせた。
また、こんな話も。仮設住宅に知り合いのおばあちゃんが訪ねてくる。茶飲み話をして、そのおばあちゃんが立ち去ると座布団が濡れている。そこで初めて茶飲み仲間たちは「そういえば、あのばあちゃん、死んだんだっけな」と気づく。でも誰も怖がったりしない。「ばあちゃん、物忘れがひどかったから自分が死んだの忘れてんのかもな。まぁそのうち気がつくべ」
震災から4年たつのにいまだに語られる「震災怪談」は何を物語っているのだろうか。
(取材/山川 徹)
被災地では、震災から4年になる今でもこうした幽霊の目撃談が後を絶たないという。さらに「東日本大震災ほど幽霊話が顕著だった震災はない」と指摘する研究者も。被災地に出る幽霊の正体を追った。
■沿岸の、とある道路に幽霊の行列!
3・11直後から被災地にはこんなウワサが流れている。震災で亡くなった人が幽霊となって出る――。例えば、こんな話だ。
「ある橋では、幽霊がタクシーを止めて乗り込んできて、運転手が行き先を聞くと決まって『あの、私、死んだんでしょうか?』と聞いてくる」
また、こんな話も。
「沿岸にある、とある道路では、夜になると震災で亡くなった人たちの霊が行列を作るほどたくさん歩いている。そこを通る車から『人をひいてしまった』と警察にたびたび通報があるが、実際、誰かがひかれた形跡はない」
他にも「ある町では、津波から逃げているのか何度も何度も同じ建物に駆け込む幽霊が出る」「大勢の人が亡くなった浜に青白い炎が見えたり、人の話し声が聞こえたりした」「ある道路が夜間通行止めになるのは、幽霊の目撃談があまりに多いから」などなど…。
実は震災から4年になる今でも、こうした幽霊の目撃談が後を絶たないのだという。
宮城県石巻(いしのまき)市の、ある飲み屋の店主はこう言う。
「被災した年の夏頃だったかな、そんな話がちらほら出てくるようになったのは。もうすぐ4年になるけど、この手の話はゴマンと聞いたよ。お客さんで実際に“見た”って人も結構いるしね。まぁ、オイ(俺)は見てねえから信じてないけど…。たくさんの人が亡くなったわけだから、出てもおかしくないんじゃね」
メディアではNHKが2013年に「津波の犠牲者と再会した」「声を聞いた」といった被災者の不思議な体験を特集したNHKスペシャル『シリーズ東日本大震災 亡き人との“再会”~被災地 三度目の夏に~』を放送し、大きな反響を呼んだ。またAFP通信などの海外メディアもこの事象を報じている。こうした幽霊話は被災地ではすっかり定着しているのだ。
「これまで様々な災害を調査してきましたが、幽霊に関する話がここまで顕著だった災害は近年、ありませんでした。しかも単なるウワサ話と異なるのは、4年という長期間にわたって語り継がれていることです」
そう指摘するのは、災害社会学や災害情報論を専門とする日本大学文理学部社会学科の中森広道教授だ。
震災直後から被災地を回っていた中森教授は、被災地の人々から幽霊の目撃談が広まっていることを聞き、13年12月に被災地に拡散した幽霊話を検証するアンケート調査を行なった。
すると被災3県から計345件もの回答(岩手55・宮城217・福島73)があった。「津波から逃げる幽霊」「タクシーに乗る死者の霊」など、記者が取材でたびたび聞いたのと同様の話も少なくなかった。
中森教授は次のように指摘する。
「まだ予備的な調査の段階なのではっきりしたことは言えませんが、これだけ広い範囲が被災したにもかかわらず、いくつか特定の場所で幽霊が目撃されていることが多い。もはや幽霊話が都市伝説化しているのではないか」
確かに、この調査に出てくる某所の橋や建物などは、記者が被災者から何度も耳にしたスポットだった。
その一方、本誌が取材を進めていく中で多く聞こえてきたのが、(1)「顔のある幽霊」、つまり実在した人間が登場する話(2)一般的な心霊話のように憑(つ)いたり祟(たた)ったりするのではなく、どこか温かみを感じさせる話、のふたつだ。
例えば、こんな話。夜、仙台市内で女がタクシーを止める。行き先は津波被害を受けて更地となった沿岸部の住宅地。「こんな時間に行っても何もないですよ」と言いながらも女を乗せて走り始めた運転手がしばらくして後部座席を見ると誰もいない。だが運転手は「きっと住み慣れた町に帰りたいんだろう」と、消えた女の気持ちをおもんぱかって目的地まで車を走らせた。
また、こんな話も。仮設住宅に知り合いのおばあちゃんが訪ねてくる。茶飲み話をして、そのおばあちゃんが立ち去ると座布団が濡れている。そこで初めて茶飲み仲間たちは「そういえば、あのばあちゃん、死んだんだっけな」と気づく。でも誰も怖がったりしない。「ばあちゃん、物忘れがひどかったから自分が死んだの忘れてんのかもな。まぁそのうち気がつくべ」
震災から4年たつのにいまだに語られる「震災怪談」は何を物語っているのだろうか。
(取材/山川 徹)