事務職員へのこの1冊

市町村立小中学校事務職員のたえまない日常~ちょっとは仕事しろ。

古畑任三郎を全部観るVol.5 「汚れた王将」

2008-12-14 | テレビ番組

Furuhata05 第4話「殺しのファックス」はこちら

毎回ビッグスターを迎えることで、日本の芸能界を俯瞰すらできる「古畑任三郎」だけれど、さまざまな職業人を犯罪者に仕立てることで『業界もの』としても楽しむことができる。これはコロンボもいっしょでしたね。「汚れた王将」はそのきわめつけ。棋士のお話である。ポイントは

・昔ながらの棋士は和服を着る

・若手はパソコンを使うので練習量が多く、そして変わったヤツが多い

・対局を中断するときは『封じ手』として、再開するときの一手を紙に書き、厳封するシステムになっている

・終了後には、『感想戦』が行われ、一手ごとに解説しあうことになっている

・投了する際に発する言葉は「まいりました」ではなく「ありません」

……勉強になりますね。そしてこれら“業界の約束事”がすべて犯罪にからんでくる。坂東八十助(現三津五郎)演ずる米沢八段は、タイトル戦でなにも記入しない白紙を封じ手とする。その場面を目撃されて……

封筒の上からなかの紙に書きこむトリックはマジックの世界では古典的なもの。そして翌日の対戦でなぜ米沢八段は「飛車」を「竜」に成らせなかったかが鍵になる。このあたりはミステリとしてちょっと弱い。

Mitsugoro01しかし見どころは満載だ。

対局が行われるホテルで古畑が読んでいるのは「死者からの伝言」に登場した少女マンガ「カリマンタンの城」だし、静粛がもとめられる対局会場で“ゴミ箱をひっくり返して狼狽する”ドリフもびっくりのコント芝居を田村正和は見せてくれる。芸風はドリフでいえば志村ですね。

ちなみに、古畑をとがめる立会人役は石田太郎。コロンボの吹替をやっている人。このあたりの遊び心もうれしい。徹底して合理的であろうとする米沢八段は、朝食会場で古畑にこう説教する。

「古畑さん、納豆は醤油を入れる前にかきまぜた方が……。水気が少ない方が粘り気が出ます。」

しかしもちろん古畑はそんなことは気にしないのである。合理的人間の敗北。象徴しているのがラストのセリフだ。

「(感想戦で)合理的な説明ができないくらいなら、自首した方がマシだ」

犯人がみんなこうなら古畑も楽だろうが。

第6話「ピアノ・レッスン」につづく

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古畑任三郎を全部観るVol.4 「殺しのファックス」

2008-12-14 | テレビ番組

Furuhata04_2 第3話「笑える死体」はこちら

時系列では古畑初登場になるはずだった回。田村正和に最初に持参した脚本は第2話「動く死体」だし、撮影の最初は第3話「笑える死体」。

初回の「死者からの伝言」は「殺しのファックス」よりもあとの事件なので、遅筆で有名な三谷幸喜も、かなりのストックを用意してオンエアにそなえたことがわかる。

今回の犯人は笑福亭鶴瓶演じる推理作家。妻の誘拐事件を自作自演する知能犯。タイトルが示すようにファックスが事件の鍵になっている。

放映された94年当時、メールで送稿する作家は少数だったろう。多くは自筆原稿を編集者が受け取る昔ながらのスタイルか、ワードプロセッサーでプリントアウトしてファックスで送るパターンだったはず(今でもけっこういるらしい)。三谷がこのトリックを思いついたのもそんな背景があったのだろう。

完全に見えた計画が破綻したのは、誘拐犯からのファックスが“行頭に句読点がこないようになっている”と古畑が喝破したことによる(笑)。

このあたり、三谷の『ミステリを書く作家の犯罪を書く』喜びが爆発しているかのようだ。当時のワープロの限界も思い出せて笑える。ファックスのピー音も重要なポイント。三谷はファックスオタクかよ。

さて、本来の古畑初登場のシーンは田村正和の千両役者ぶりがきわだっている。

犯人からのファックスに右往左往する峰岸徹(合掌)らを尻目に、ソファで悠然としている後ろ姿!あの後ろ髪だけで誰でも田村だと判別できるあたりがスターですわね。ま、誘拐事件の捜査に殺人課の警部補が最初からタッチするかは微妙でしょうが。

Tsurube01 鶴瓶は、ベストセラー作家の傲岸さと、計画が破綻してあせりまくる小心さが共存している感じがいい。むしろぶきっちょな役者だからこそ狂気を感じる。

東京タワーを背に芝公園で仁王立ちして、まるで事件を楽しんでいるかのような表情は絶妙。そしてラスト、西村雅彦のコスチュームプレイには爆笑させていただきました。そう来たかぁ……。

第5話「汚れた王将」につづく

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古畑任三郎を全部観るVol.3 「笑える死体」

2008-12-14 | テレビ番組

Furuhata03 第2話「動く死体」はこちら

今回は精神科医の犯罪。この職業を選んだだけで、いかにもアメリカっぽいドラマにしたいという作り手の作戦が見える。

演じるのは古手川祐子。どう考えてもミスキャストだし(見えないでしょ?精神科医には)、解決の決め手も弱いと思っていたけれど、久しぶりに観たらけっこうしっかりしたミステリになっていた。

無邪気でいたずら好きな恋人(羽場裕一)に、自分というものがありながら別に本命の女性がいることへの意趣返しに殺害。恋人のいたずらが結果的に彼女の命取りになる。

はじめて(というか撮影はこのエピソードが最初)古畑が自転車(セリーヌ!)に乗って現場にやってくる。巡査たちの態度から、古畑が警察内部で一定の尊敬を集めていることが感じとれる。

およそ刑事らしくない古畑が実在したら、あの警視庁で浮いているに違いないのだが、セレブたちの犯罪を文字どおり毎週のように解決するのだから警部補止まりな方が不思議かも。

Kotegawayuko01_2  殺される恋人の職業はシェフ。まったく料理をしない精神科医のオーブンにローストチキンが入っているあたりがヒントになっている。

古畑任三郎においては、料理が事件解決のキーになることがよくある。第一話の卵スープがそうだったし、のちに魚肉ソーセージ!のおかげで解決する事件もあるくらい。

相棒の今泉との会話は今回も絶好調。ベランダに脱いである靴を発見し……

古畑:ずいぶん消極的な泥棒だねぇ……どう思う?

今泉:クラリーノ。

古畑:脱いで入ったってことだよ。

今泉:礼儀正しいんじゃないですか。

古畑:消極的で礼儀正しい人が泥棒なんかするかね。

第4話「殺しのファックス」につづく

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古畑任三郎を全部観るVol.2 「動く死体」

2008-12-14 | テレビ番組

Furuhata02 第1話「死者からの伝言」はこちら

のっけから断定。古畑任三郎のファーストシーズン(正確にはこの全12話のタイトルは「警部補 古畑任三郎」)における最高傑作は第2話「動く死体」だ。

歌舞伎役者、六代目中村右近に扮した堺正章が、殺してしまった(というより過失致死だろう)マネージャーの死体をどう始末するかの物語。

舞台の上にいる人間→役者しか犯人ではありえないとする古畑の推理もみごとだけれど、それ以上に

『なぜ人を殺したあとにお茶漬けを食べたのか』

というひっかけが凄い。右近が途中でコンビニに寄るのは、レシートを使ったアリバイづくりなのかと思わせて……

フジテレビと共同テレビが今までにない推理ドラマをめざし、その主演を田村正和にお願いするときに持っていったのがこの「動く死体」の脚本。これだけのホンがあれば、と田村も承諾することになったわけだ。それほどの出来。

Sakaimasaaki01 小狡そうな歌舞伎役者を、堺正章が絶妙に演ずる。自らが舞台に置いた死体を見て

「いぃ死に顔だぁ。」

自分が犯人に目されていると感じとってからの古畑とのからみもうまい。

右近:あたし(が犯人だと)?

古畑:ふふふ。

右近:あたしなの?

古畑:それはおいといて。

右近:おいとけないよー。

……古畑の語る、信じてはいけない三つのことも爆笑。

①年寄りの自慢話

②通信販売の売り文句

③犯行現場における止まった腕時計

まったくだ。

第3話「笑える死体」につづく

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