第4話「殺しのファックス」はこちら。
毎回ビッグスターを迎えることで、日本の芸能界を俯瞰すらできる「古畑任三郎」だけれど、さまざまな職業人を犯罪者に仕立てることで『業界もの』としても楽しむことができる。これはコロンボもいっしょでしたね。「汚れた王将」はそのきわめつけ。棋士のお話である。ポイントは
・昔ながらの棋士は和服を着る
・若手はパソコンを使うので練習量が多く、そして変わったヤツが多い
・対局を中断するときは『封じ手』として、再開するときの一手を紙に書き、厳封するシステムになっている
・終了後には、『感想戦』が行われ、一手ごとに解説しあうことになっている
・投了する際に発する言葉は「まいりました」ではなく「ありません」
……勉強になりますね。そしてこれら“業界の約束事”がすべて犯罪にからんでくる。坂東八十助(現三津五郎)演ずる米沢八段は、タイトル戦でなにも記入しない白紙を封じ手とする。その場面を目撃されて……
封筒の上からなかの紙に書きこむトリックはマジックの世界では古典的なもの。そして翌日の対戦でなぜ米沢八段は「飛車」を「竜」に成らせなかったかが鍵になる。このあたりはミステリとしてちょっと弱い。
対局が行われるホテルで古畑が読んでいるのは「死者からの伝言」に登場した少女マンガ「カリマンタンの城」だし、静粛がもとめられる対局会場で“ゴミ箱をひっくり返して狼狽する”ドリフもびっくりのコント芝居を田村正和は見せてくれる。芸風はドリフでいえば志村ですね。
ちなみに、古畑をとがめる立会人役は石田太郎。コロンボの吹替をやっている人。このあたりの遊び心もうれしい。徹底して合理的であろうとする米沢八段は、朝食会場で古畑にこう説教する。
「古畑さん、納豆は醤油を入れる前にかきまぜた方が……。水気が少ない方が粘り気が出ます。」
しかしもちろん古畑はそんなことは気にしないのである。合理的人間の敗北。象徴しているのがラストのセリフだ。
「(感想戦で)合理的な説明ができないくらいなら、自首した方がマシだ」
犯人がみんなこうなら古畑も楽だろうが。
第6話「ピアノ・レッスン」につづく。