石持の「月の扉」(光文社文庫)というミステリはすごかった。ハイジャックされた飛行機のなかで密室殺人事件が起こる。ハイジャック犯はその解決のために、乗客である善意の第三者に探偵役を命ずる。よくまあこんな設定を考えつくものだ。
その探偵に名はなく、座間味島のTシャツを着ていたので安直に“座間味くん”と呼ばれていた……その座間味くん再登場。うれしい。前作で誰からも愛されたとぼけたキャラは健在。「月の扉」事件で知り合った警視庁公安部の大迫警視と旧交を温めるうちに、数々の事件を切れ味鋭く読み解いていく。
特に、死体から左手が切り取られていたのはなぜか、という表題作は、誰もが思いつくネタでありながら、最後まで読者に気づかせないあたり、うまい。石持浅海という作家は要チェックですよ。「走れメロス」をモチーフにミステリを構築した「セリヌンティウスの舟」も必読。
07年12月14日付事務職員部報「For Your Eyes OnlyⅡ」より。