事務職員へのこの1冊

市町村立小中学校事務職員のたえまない日常~ちょっとは仕事しろ。

「この世界の片隅に」 (2016 東京テアトル)

2017-01-06 | アニメ・コミック・ゲーム

日本のアニメーションは世界一だと思う。

その大きな要因はもちろん漫画、劇画の隆盛だ。アニメの原作となることが多いあのメディアは、もう子ども向けである役目をとっくに終え、大人の微妙な心情を描くうえで小説と(は違うアプローチだけれど)ほぼ同じ地点に来た。

そんな、(漫画アクション連載の)こうの史代の原作に、練達の演出家がほれ込み、ちょっと信じられないくらいぴったりな声優(のん)が加わると、このように奇跡の作品ができあがる。

特にのんの演技は怖いくらいで、第一声からして広島弁で「ぼーっとしとるもんじゃけ」とかまされると、「あまちゃん」の三陸弁がついに帰ってきたかと。それほどに、主人公の「すず」と「のん」は一体化。

戦時中。すずは広島から呉、の見も知らぬ(わけではないことが後でわかる)男のもとへ嫁ぐ。当時の若妻がどれだけきつい労働をしていたかが淡々と描かれる。

しかし、すずは幸せそうだ。

好きな絵を描いて、舅姑、そりの合わない義姉や、彼女の娘と静かな暮らしを送る。牧歌的な毎日。しかし東洋一の軍港である呉に、戦争は色濃く忍びこんでくる……

爆弾は直撃だけが怖いのではないことや、原爆症の不気味さが、笑いのなかに挟みこまれてむしろ観客を圧倒する。すいかを食べたのは誰なのか、なぜ夫は祝言のときに仏頂面をしているのかなど、ドラマとしても重層的。

そして戦争は、すずの最も大切なもの(ラストはその「部分」が描かれます)を奪っていく。放心する彼女が、玉音放送を聴いたときの行動は痛い。

緩急自在の演出。リヤカーを押すときに、すずが下を向いて懸命であることを道路の絵だけで描くなど、唸る。小規模な公開だったのに口コミで大ヒット。

もちろん「君の名は。」を超えることはないけれども、どちらの作品も2016年に公開され、そして観客が受け入れた事実は大きい。やはり、日本のアニメーションは世界一だ。ご覧になるときはタオル地のハンカチが必携。できれば三枚ほど。

コメント (3)
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