築地市場が豊洲に移転する問題がニュースにならない日はない。いったいなんで?とわたしなどは不思議に思う。都知事の人気取り(&元知事への意趣返し)に利用されているに違いないし、“たかが”魚市場の話じゃないか。まあ、確かに規模は他の市場に比べれば圧倒的なんだろうけれども。
……不明を恥じます。他と比べて圧倒的な魚が集まってくるということは、それだけ情報も集積がすすみ、独自の文化といえるものが出現するということだったのだ。
この映画で主に描かれるのは、仲卸(なかおろし)と呼ばれる、卸と小売りを取り持つ業者の特異さだ。目利きである以上に、消費者の動向を常に考えた商売をしている。長期間にわたったロケのなかで、彼らの使命感のようなものが伝わってくる。和食を、魚文化を守るのは築地だと。
カメラが回っていないときは、ひょっとしたら怒鳴り声の応酬があるのかもしれないが、築地の人たちが知的で意識的なのに驚く。おまけにきれいな東京弁。さすが中央区(笑)。
そんな海千山千の連中が、こと学校給食に関しては、ガキどもにこそ本物を食べさせたいとみんな一斉に協力的になるあたり、ありがたくて涙が出る。
日本橋の河岸から築地に移って80年。その市場の終焉を前につくられたドキュメンタリー。そして賛同者がクラウドで出資する。おかげで空撮やドローンなどを使い、すきやばし次郎の小野さんをはじめとした高名な職人が数多く出演するなど、まことにぜいたくなつくり。カット数はジェイソン・ボーンのシリーズより多いんじゃないか。とにかく面白い。
「男子厨房に入るべからず」とか「黙って食え」とされる日本。でも食について語ること、食に意識的になることがいかにだいじなことかも教えてくれる。
移転問題のせいで築地への注目度が増し、ヒットしているという状況はこの作品にとって幸せなんだかどうだか。とりあえずわたしはこの映画を見てお腹がすいてすいて……帰りにマックに寄ってしまいましたとさ。
きっとマクドナルドにはマクドナルドの矜持があるはず。ハンバーガーにぱくつきながら、しみじみとした夜。