2016年12月号「真珠湾経由靖国」はこちら。
「みなさんがチェンジそのものだ」
「Yes, we did.」
オバマ最後の演説。彼を“前”大統領としなければならない時代になった。彼の8年間について、さまざまな評価はあるだろう。たとえば読売は社説でこう論評している。
「高邁な理想と清廉さは秀でていたが、米社会の分断と世界秩序の動揺を招いた責任は免れまい」
「国民皆保険を目指す医療保険改革(オバマケア)は賛否が真っ二つに割れ、国民の分裂をもたらした」
……そう来るか。逆にわたしは、賛否が真っ二つに割れるオバマケアを最初に持ってきた戦略はみごとだと思う。就任当時は、もっと穏やかな政策からとりかかればいいのにと思っていたけれど、支持率の高いうちにもっとも困難なことをやり遂げたかったのだと今なら理解できる。同じことを旧民主党の鳩山党首は米軍基地問題でやってしまい、ご存知のとおり木端微塵になってしまったのだが。
その、歴史に残るかに思われた政策を、新大統領は反故にしようとしている。彼については次号にゆずるとして、オバマの治世には安心感のようなものがあった。先ほどの読売の社説を翻訳すれば
「きれいごとばかり並べやがって」
ということだろうが、きれいごとを並べるにふさわしい品格というものは感じられたではないか。考えてもみてほしい。オバマについて、黒人大統領だと(善くも悪しくも)意識しなくなったのってすごい。そういうことを云々するレベルではなかったということだ。
なにより、演説の巧みさは群を抜いていた。これは誰も否定できないはずだ。よき家庭人であり(少なくともそう見せる知恵があった)、理想的な大統領の資質をもっていた彼に計算違いがあったとすれば、国民が上品な健康食品に飽きて、ジャンクフードを食べたくなる欲求をかきたててしまったことだろうか。
そのジャンクフードの登場によって、先進国の首脳で信頼できるのはメルケルひとりになってしまった……。
PART2「FAKE」につづく。