銭湯のお話。とくればわたしの世代は森光子と船越英二の(というより堺正章と悠木千帆と浅田美代子の)松の湯がまず思い浮かぶ。あちらも(なにしろ向田邦子が書いていたりしたのだから)ほろりとさせてくれはしたけれど、こちらの「時間ですよ」はとにかく泣かせる。ひたすら泣かせる。
上映開始5分でとなりの妻は嗚咽をもらし、エンディング近くでは館内総泣き。「この世界の片隅に」がハンカチ3枚なら、こちらはタオル地のが5枚は必要だ。
夫が出奔してしまったために休業中の銭湯。妻と娘のふたり暮らし。高校できつい思いをしている娘に、自転車に乗った母親がふりむいて
「乗る?」
演じているのは宮沢りえ。んもうこのカットだけですっかり持ってかれてしまいました。
ストーリーの基本は、彼女が末期がんで、死ぬまでに思い残すことのないよう無理を重ねる難病ものだ。それはちょっと苦手、という人も多いと思う。ところがこの映画はその予想をくつがえし、あっと驚くエンディングまで一気呵成に突き進む。客を徹底的に泣かせながら。
登場人物みんなわけあり。その事情がうまくシンクロさせてあるなど、脚本もすばらしい。さすが、宮沢りえが惚れこんだだけのことはある。キャスティングもひねってあるのでこれは見てのお楽しみ。
ただ、オーディションで選ばれた夫の連れ子を演じた伊東蒼ちゃんは末恐ろしい。「おんな城主直虎」の子役は参考にするように!で、「深夜食堂」でも激しく魅力的だった篠原ゆき子がまた泣かせるんだ。
宮沢りえは、銭湯から二回クルマで出発する。最初は赤いミニバン、最後は霊柩車で。どちらも別れのクラクションを鳴らして、と見せかけて……な映画的趣向も満載。ラストシーンは黒澤明の「天国と地獄」ですかっ!
見終わって、妻もわたしもぜーぜー言ってる。「泣くのって、疲れるわねえ」体調のいいときにぜひ。大傑作!