東京都文京区の自宅で妻を殺害したとして、殺人容疑で逮捕された講談社の編集次長で韓国籍の朴鐘顕容疑者(41)は警視庁の調べに対し、「妻を手にかけるようなことはしていない」と容疑を否認した後、黙秘を続けている。同庁は、現場に残された証拠を積み重ね、どこまで殺害状況を特定できるかが今後の捜査の焦点となる。
2017年1月18日 読売新聞
……シンクロニシティとはあるものだとびっくり。この事件が報道されたとき、ほとんど展開がそっくりなミステリを読んでいたので。タイトルは「サンドリーヌ裁判」。著者は「緋色の記憶」など、地味だけれど心に沁みるミステリを書くトマス・H・クック。共通点は以下の通りだ。
・妻が死んだことを夫が自ら警察に連絡する。
・自殺であると主張。
・警察は、他殺であり、犯人は夫だという判断で逮捕
・物的証拠がなく、状況証拠の積み重ねによって起訴
現実の事件の方は、外部から侵入した形跡がなく、自宅にいたのは小学生と就学前の子どもだけで、首を絞める力があるのが朴容疑者だけだったということで逮捕に踏み切っている。これは無理筋に近いだろう。
「サンドリーヌ裁判」のほうも、有能なユダヤ人弁護士が夫につき、こんな逮捕はありえないとするが、数々の証言で夫は追いつめられていく。
被告である夫の一人称で語られる物語。夫も妻も大学教授。妻は誰からも愛される人だったが、夫は知識をひけらかすいけすかない人物。田舎の大学にくすぶっていることにいら立ち、陪審員を無教養な連中と見下していたのだが……
つくづく、裁判において被告にはなりたくないと痛感。自分だけでなく、家族や友人を次々に傷つけていく。
ラストで明かされる“犯人”の“動機”に驚愕。事件が真の意味で解決するとき、読者として満足させられる仕組みになっている。はたして、文京区の方の真相は……。