サツマシジミの開翅を7年目にしてようやく撮影することができた。
サツマシジミ Udara albocaerulea albocaerulea (Moore, 1879) は、シジミチョウ科(Family Lycaenidae)/タッパンルリシジミ属(Genus Udara)のチョウ。南方系で、薩摩の国(現在の鹿児島県)で最初に見つかったので、サツマという和名が付いているが、実際は本州(三重、和歌山、広島、山口の沿岸部)、四国と九州の沿岸部等に分布している。近年では、温暖化の影響により、大阪府や愛知県、静岡県の一部にも分布を広げ、海岸付近の樹林帯、山間の渓谷地帯・人家付近の草地等で見られる。
サツマシジミの成虫は、3月中旬から11月頃まで年4~6回ほど発生し蛹で越冬する。幼虫は、サンゴジュ、クロキ、ハクサンボク、ガマズミ、イヌツゲ、バクチノキ等の花や蕾を食べるが、食樹の開花期に合わせて生息地が移動すると言われ、生息地であっても季節によっては全く目撃すらできないことも少なくない。東京から通った、これまでの遠征記録をまとめてみると以下のようになる。
以上のように、昨年に翅表が少しだけ見られる程度の写真を撮影できたが、何としてでも、今年は開翅写真を撮りたいと思い、和歌山県まで遠征した。
今回は、過去の撮影地とは違う場所にポイントを絞り、早朝から日当たりの良い石垣に群生するヒメツルソバや渓流の河原で待機した。しかし、飛んでくるのは、ヤマトシジミとウラナミシジミばかり。半ば諦めていると、地元の方が声を掛けてくれた。昨年は、とても少なく、今年は1頭も飛んでこないと言う。生態系がおかしくなっているんじゃないかと仰っていた。それならばと急いでいつもの撮影場所に車を走らせた。
そこは、小さな草地。日の当たる場所では、多くの小さなシジミチョウが舞っている。ヤマトシジミにヤクシマルリシジミ・・・1頭1頭逆向で翅を透かして見てみると、前翅の中央の白斑が透けて見え、翅裏の弦月状斑もない。サツマシジミである。しかも数がかなり多い。ただし、小さい個体が多く、ヤクシマルリシジミと同じ大きさである。おそらく低温期型で今年最後の発生なのだろう。春型の個体は大きく見応えがあるが、この時期の個体は大きさにばらつきがあるようである。
日の当たっている草地では、翅裏の白さが際立っている大きめのメスがイヌタデやミゾソバで吸密していた。朝の気温は14℃であったが、日当たりの良い場所は22℃。この個体は盛んに花から花へ移動しており、一向に翅を開かない。しばらくすると、森の林冠へ飛び去ってしまった。
まだ日の当たっていない草地では19℃。あちこちで咲いているセンダングサの花で吸蜜している個体も多いが、葉上に止まっている個体も数頭いる。この気温ならば翅を開いてくれるに違いないと思い、その中からターゲットを絞って1頭の個体にカメラを向ける。20分ほどすると翅をすりすりし始め、開いてくれた。全開翅ではないが、十分に翅表の色彩を確認できる。「美しいものを 一番美しい時に 美しく撮る」という理念のもと、ようやく、念願が叶った瞬間であった。また、翅が少し痛んで擦れていたがメスの半開翅も撮影することもできた。尚、掲載写真は同所に多くいたヤクシマルリシジミも掲載した。
サツマシジミの開翅を撮るまでに7年を費やし、今年撮影したヒロオビミドリシジミとヒサマツミドリシジミのオスの開翅も同じく7年かかっている。撮影には、チョウの生態や習性を学ぶことがまず重要だが、いずれも遠い生息地。運の良さに感謝したい。
しかしながら、これまでの経緯と結果で生態や習性に関する知見が深まっても、写真は単なる記録であり、どれだけ苦労して撮っても自己満足の範疇である。保全に対しては何ら役立つこともない。こうしたインターネットでの公開が、生息地や発生時期等の情報を広めてしまうこともある。
サツマシジミは、環境省の絶滅危惧種のカテゴリーにはなく、自治体のRDBにも記載はない普通種の扱いであるが、この日、撮影者私一人に対して、網を持った採集者が4人。大阪ナンバーの方は、私の傍らで網を振り回し飛んでいる個体を片っ端から採集していた。趣味の標本コレクションであろうと研究という名目であろうと、一人が1頭しか採らなくても100人が採れば100頭いなくなる。採集は駆除に等しい。
過去にギフチョウとルーミスシジミの記事において「採集だけで絶滅するほど生物は弱くない」だとか、「生息環境が山深い原生林であることから、大量に採集できるような条件の良いときであっても、全体の発生数からすれば微々たるもの。」等という安易な想像だけでコメントを下さった方もいたが、採集するならば、その地域全体の正確な生息分布と生息数の調査を行い、個体群動態解析及び存続可能性分析を行った上で、採集者全員でその年の採集できる総数を決めて採るべきである。それら調査と分析を行わず戯言を述べながらの採集は許しがたい。
無責任な行為は、採集だけでなく撮影でも同じである。撮るためなら何をしても良い訳ではない。ホタルの撮影に関し「マナーを他人に押し付けるな」と私に言い放ったプロのカメラマンもいたが、サステナブルな社会の実現が叫ばれる昨今、私自身を含め、各々が自分の行為行動を見つめ直す必要があろう。
以下の掲載写真は、1920*1280 Pixels で投稿しています。写真をクリックしますと別窓で拡大表示されます。
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F6.3 1/250秒 ISO 320(撮影地:和歌山県 2021.10.29 10:35)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/320秒 ISO 1600 +1/3EV(撮影地:和歌山県 2021.10.29 9:49)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F6.3 1/320秒 ISO 1600 +1/3EV(撮影地:和歌山県 2021.10.29 9:55)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F6.3 1/320秒 ISO 1250 +1/3EV(撮影地:和歌山県 2021.10.29 9:55)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F6.3 1/320秒 ISO 1000 +1/3EV(撮影地:和歌山県 2021.10.29 9:55)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F6.3 1/320秒 ISO 1000 +1 1/3EV(撮影地:和歌山県 2021.10.29 10:14)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 250(撮影地:和歌山県 2021.10.29 10:15)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/320秒 ISO 160 +1/3EV(撮影地:和歌山県 2021.10.29 8:34)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 320 +1/3EV(撮影地:和歌山県 2021.10.29 8:36)
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車や電車などの交通機関を使っているようにも見えますが、それらの運行でも自然は十分破壊されてると思うんですが、その程度の科学認識で自然保護とはお笑いですね。
あ、あともちろんもちろん魚や肉なんて食べたことないんですよね。