三無主義

 ~ディスパレートな日々~   耶馬英彦

映画「ユリゴコロ」

2017年10月03日 | 映画・舞台・コンサート

 映画「ユリゴコロ」を観た。
 http://yurigokoro-movie.jp/

 三つ子の魂百までというのは本当だと、この頃つくづく感じる。子どものころに感じた恐怖心は死ぬまで消えない。子供のころに受けた愛情も死ぬまで忘れない。そして子供のころに受けなかった愛情は、死ぬまで持つことはない。
 吉高由里子の演技が秀逸。心に闇を抱える美しい顔が怪しく微笑むシーンはゾクッとする。松坂桃李はややオーバーアクション気味で、周りの演技から少し浮いていた。もしかしたらそれが狙いなのかもしれない。木村多江は熟練の職人の域。この人の演技は間違いがない。
 作品は子供の頃からの心の闇を抱えた女が、その闇を埋めようとするかのように人を殺し、罪悪感よりも充足感が上回って、罪の意識を感じないままに人生を送る話だ。心の闇は最後まで消え去ることはないが、自分には得られなかった拠りどころを、他人の拠りどころになることによって魂の救済を図ろうとする。その試みはうまくいったのだろうか。
 人が生きていくというのはどういうことなのか、命とは何なのか、命にどんな意味があるのかを突きつめる物語だ。そのテーマは、ドストエフスキーの「罪と罰」に通じるものがある。深い作品である。


映画「三度目の殺人」

2017年10月03日 | 映画・舞台・コンサート

 映画「三度目の殺人」を観た。
 http://gaga.ne.jp/sandome/

 まず広瀬すずの女優としての成長を評価したい。これまでの、好き嫌いや嬉しい悲しい淋しいなどの単一の感情を表現するだけだった演技が、悲しくて辛くて怖いという複雑な情緒に加えて、年代なりの人生観や世界観も合わせて表現できるようになった。
 作品のテーマはひとつではない。裁判という制度そのものに呈する疑問、司法関係者たちによって構成される、所謂司法ムラ社会の実情、真実よりも司法関係者の利害が優先される裁判の進め方など、人が人を裁くという行為がいかに様々な問題を抱えることになったかを炙り出すのがひとつ。
 もうひとつは事件を通じて登場人物がそれぞれの葛藤をそれなりに乗り越えていくことで成熟していくことだ。つまり社会性と人間性の両輪がこの映画を前に進めている。その象徴的な役柄を演じたのが広瀬すずだ。役所広司や斉藤由貴の達者な演技に引っ張り上げられたような、これまでとは見違える演技で、テーマの集中する難解な役柄を見事にこなしていた。
 ひとつひとつの台詞や場面を言葉で分析しようとするのは難しい。それぞれの相関に必ずしも整合性があるわけではないからだ。その整合性のなさをこの世界の混沌としてそのまま理解するのがこの作品の正しい見方だろう。