映画「はたらく細胞」を観た。
鶴見辰吾が演じた担当医が「感謝するのは僕ではなく、頑張った自分の体に感謝してください」と言うシーンがある。本作品の世界観は、この言葉に集約されていると思う。
原作を読んだ人によると、マンガには阿部サダヲ、芦田愛菜ちゃんの親子は登場しないらしい。それどころか、体の主も誰かわからないままだそうだ。体の主たちの人間模様を描いたのは、映画のオリジナルのようだ。秀逸なアイデアである。構成が立体的になって、とても面白かった。
息子さんが急性骨髄性白血病になった知人の女性がいる。毎日泣いていて、ときどき慰めたりしていたのだが、残念ながら息子さんは亡くなってしまった。医療関係の知人は、若い人は治りやすいんだけどねと、嘆息していた。
そのときに、実は人体について医学でわかっていることは、厳密に言うと1パーセントくらいしかないんだ、とも言っていた。なるほどと思った。多種多様な生命の形態を見るにつけ、この生物はどうしてこんな形になったのだろうとか、進化の不思議を実感するが、人間が長い年月にわたって進化してきた膨大なプロセスの、ひとつひとつが解明されない限り、医学が人体を完全に理解することはできないのだろう。
公開から1週間経っても、映画館はとても賑わっていた。子供たちもたくさんいて、上映前のお喋りは騒音に近いものがあったが、上映が始まると作品に見入ったのか、大人しくなった。お行儀のいい子供たちだ。
本作品は、現時点の医学で判明していることを元にして、細胞と細胞の協力関係や分業関係を上手に描いてみせている。人間が進化の最終形とは言い切れないから、これからも人体は変化していくだろうし、医学は次から次へと新しい課題を抱えることになる。医師はそのときの医学で最善と思われる治療を行なうが、最後は本人の体が生きよう、治そうと頑張るのを期待するしかない。
それでいいと思う。遺伝子の段階にまで踏み込んでいくのは、大豆やとうもろこしの遺伝子操作に似ていて、医学のあり方としてちょっと違う気がする。また生命最優先で、植物状態にある患者をたくさんのパイプやら電極やらを繋いで生かしつづけるのも、ある意味、異常である。当方なら、人間としての尊厳まで蹂躙されて延命されるのは、真っ平ごめんだ。
俳優陣はいずれも楽しそうに演じていて、複雑で広大な人体ワールドの世界をわかりやすく、愉快に堪能できる作品だ。子供たちが観れば、いろいろ勉強になるだろう。大人でも、人体についての理解が深まるかもしれない。とにかく楽しかった。