映画「バグダッド・カフェ 4Kレストア」を観た。
本作品は4Kデジタルリマスターだが、もともとは1987年製作のドイツ映画である。2024年のいまからすると、37年前だ。この間に世界で起きた最大の出来事は、もちろんインターネットの普及である。
インターネットが生活の中に密に入り込んできたのは、電話端末の発達で、時と場所を選ばずに大量の情報を得られるようになってからだろう。誰もがスマホを持って、世の中で何が起きているのかとか、今いる場所だとか、次の行動のためだとかいった情報をのべつ幕なしに収集し、同時に自分の情報を発信したりしている。お陰で人々が隠していたバイアスが世の中に広く明るみに出され、問題化したのが現代だ。
本作品では、バイアスを抱えた人々が互いに交流して、自分の中の偏見や無為なこだわりを解消していく様子を描く。人種や民族の違いで相手を拒否しようとするカフェオーナーのブレンダに対し、カフェの人々の純朴さを愛するドイツ人女性のヤスミン。オーナーのバイアスで拒否されてしまうヤスミンだが、持ち前のポジティブな精神性で異文化を受け入れ、みずからも提案し、積極的に関わっていく中で、関係性の改善を実現する。
まさに今の時代に求められる姿勢であり、行動力だ。差別や分断を解消するには、差別用語を使わないように気をつけるなどといった消極的な姿勢ではなく、積極的な関わりと寛容の姿勢が求められる。
共同体の指導者たちは、自分たちの立場を守るために人間をカテゴライズして、敵と味方に分け、敵を攻撃することで味方意識を増強させるというバカな政治を繰り返してきた。民主主義の時代になっても、有権者は指導者たちの本質を見抜けず、バカを選び続けている。本作品は人類の愚かな本質を砂漠のカフェを舞台に描いていると言っていい。
ドイツはフランスと並んで哲学の国だ。カントやショーペンハウエルのように、世界の本質を見抜くDNAを連綿と受け継いでいるに違いない。本作品は、極めて日常的な様子を描いているように見えるが、扱うテーマは実に哲学的だ。傑作である。