三無主義

 ~ディスパレートな日々~   耶馬英彦

シス・カンパニー公演「出口なし」

2018年08月30日 | 映画・舞台・コンサート

 新国立劇場小劇場のシス・カンパニー公演「出口なし」を観てきた。
 http://www.siscompany.com/deguchi/gai.htm

 大竹しのぶ、多部未華子、段田安則のほぼ3人芝居である。脚本はノーベル賞を拒否したことで有名な実存主義の哲学者ジャン・ポール・サルトルだ。
 フランス文学科だったから「存在と無」の原書を仏和辞典と首っ引きで読んだことがある。残念ながら内容は全く憶えていない。翻訳で読んだ「嘔吐」や「悪魔と神」「分別ざかり」のイメージの方がはるかに鮮明だ。
 サルトルは小説も戯曲も彼の実存主義の思考実験のような作品が多く、かといって難解かというとそうでもなく、意外と洒落ていて面白い。
 本は淡々と読んでしまうが、芝居になるとひとつひとつの台詞が情感たっぷりに読まれ、さらに役者の身体全体からもエネルギーが伝播されるので、台詞が力を持つ。力を持つということはベクトルを持つということだから、思ってもいなかった方向に台詞のエネルギーが向かうことになり、場合によっては芝居が盛り上がるし、場合によってはすれ違って勢いをなくすこともある。
 今回の芝居は、三人三様に温度差があり、それぞれの交差が立体的でとても面白く鑑賞できた。サルトルをこんな風に演出するのかという驚きもあった。久々に本棚の隅に眠っているサルトルを取り出す気になった。