映画「英国総督 最後の家」を観た。
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19世紀以来のヨーロッパの帝国主義は世界各地を破壊し、大量の人間を虐殺することで繁栄を得ようとするものであった。インドからインドネシアにかけてはイギリスが他国に先んじて武力制圧し、一時的にイギリスは世界最大の帝国となった。その強欲さとプライドの高さには華僑もお代官様も顔負けで、取れるものはなんでも根こそぎいただこうとするブルドーザー強盗に等しい。スペインと戦争をしたマーガレット・サッチャーの残忍な顔には、イギリス人のそういった負の特徴が色濃く表れていた。
さて本作品の登場人物はかつての帝国主義者たちほど強欲ではなく、むしろ帝国主義者たちが残した負の遺産の処理に頭を痛めている。イギリスの最後の総督は人柄も思想も素晴らしいが、複雑怪奇なインドの情勢にたいしてはすべてが丸く収まるような施策はなく、人々が受ける犠牲に心を傷めるしかない。
宗教的対立と経済的産業的な損得関係という国内的な問題に加えて、イギリス本国のインドの資源に対する既得権益を持ち続けようとする確執もあって、政治的、経済的、社会的な解決は到底難しい状況ではあるが、それでも解決に向かって人々が様々な話し合いを続ける。議論はなかなか合致を見ず、その間にも民衆は対立のための抗争や、あるいは貧困や病気で死んでいく。
そんな政治的な極限状況と並行して、ロミオとジュリエットを想起させるような恋物語が進むのだから、観客は片時も目を離せない。チャーチルにもガンディーにもネールにもジンナーにも肩入れしないニュートラルな立ち位置の映画で、これを監督したのがインドの分離独立時の民衆のひとりの孫のインド人であるというところが素晴らしい。そしてこれはイギリス映画だ。イギリスの映画人の矜持が垣間見られる傑作である。