三無主義

 ~ディスパレートな日々~   耶馬英彦

芝居「私たちは何も知らない」

2019年12月01日 | 映画・舞台・コンサート

 池袋の東京芸術劇場シアターウェストで芝居「私たちは何も知らない」を観劇。
 http://nitosha.net/nitosha43/

 平塚らいてうを演じた朝倉あきの透明感のある美貌と嫌味のない演技、癒やしてくれるような声が最高。主人公の、女の独立と平等を主張する一方で、恋をし、女の性欲を語り、人を思いやるニュートラルで深い精神性が素晴らしい。本物の平塚らいてうが本当はどういう女性だったのかは不明だが、この芝居のらいてうは世界一の女性である。


映画「テルアビブ・オン・ファイア」

2019年12月01日 | 映画・舞台・コンサート

 映画「テルアビブ・オン・ファイア」を観た。
 http://www.at-e.co.jp/film/telavivonfire/

 劇中劇であるテレビドラマのタイトルがそのまま映画のタイトルになっている。この構造自体はとてもわかりやすい。これは喜劇にとって重要な点で、わかりにくい映画には誰も笑えない。
 しかし主人公サラームの立ち位置は複雑だ。エルサレムに住むパレスチナ人だが、ヘブライ語が話せることを買われて、テレビドラマの脚本の補助係としてパレスチナ自治区にある撮影所に通うことになる。当然ながら途中にあるイスラエル軍の検問所を通らねばならない。
 テレビドラマは作成と同時進行で放映中で、イスラエル人にもパレスチナ人にも人気である。タイトルからはテルアビブが様々な対立で火がついているのか、それとも他の意味で盛り上がっているのか、あるいはその両方だと思われる。場所柄、人種と民族と国家間の火種が常にくすぶっている一方で、人間と文化の交流もあり、ドラマ性には事欠かない。
 物語は割と日常的に落ち着いて推移し、ド素人のサラームが脚本を書く羽目になると、検問所の責任者アッシが脚本に関与してきて、しかもそれが意外に才能があって、サラームのチャンスを増大する。
 放映中のドラマの脚本を製作者の都合でどんどん変えるなんてないと思っていたが、そういえば日本のドラマ「黒い十人の女」でも、劇中劇のドラマの筋書きをどんどん変えていた。撮影しながら変更することは結構あることなのかもしれない。
 本作品では、人々がそれぞれの勝手な思惑を主張して、撮影の現場でなんとか形にしていくが、そのドタバタぶりが面白い。ドラマを取り巻く条件が複雑すぎて、声を上げて笑うというほどではないが、映画全体が滑稽でおかしみに満ちている。人間は占領下にいても、自由を制限されていても、人間は力強く面白く生きていくものだ。民族の対立をそんな世界観で笑い飛ばすような豪快な作品である。ケッサクだ。