相手を決めつけて批判するやり方は、右であれ左であれ許されることではない。お互いがレッテルを貼って罵倒し合っているところからは、民主主義は生まれない。ハンナ・アレントは未だに大きな影響力をもつ政治思想家である。彼女のすごいところは、ヤスパースの弟子らしく討論や共通感覚を重視し、イデオロギーから自由である点だ。マーガレット・カノヴァンが『ハンナ・アレントの政治思想』(寺島俊穂訳)で、その辺を分かりやすく解説している。カノヴァンは、アレントがカントの『判断力批判』をベースにしていることを重視する。カントが言わんとしたのは「誰かほかの人の立場に立って考える」能力である。私的な能力ではない。だからこそ、判断力を政治的な能力とアレントは位置づけたのだという。その主張をカノヴァンは「判断力が(現実にであれ、想像上であれ)他人がいるところでの思考を含み、自分自身の見解同様、他者の見解を考慮し、自分の判断が他人に受け入れられることを求めているからである。判断力はこのように本質的にほかの人びと、私たちが共有する世界、その共通世界の一部である共通感覚に関連があるという点で哲学的思考とは異なっている」と要約している。この世には多様な意見が存在するのであり、それを踏まえながら自らの判断力を駆使すべきなのである。保守派の内部でも最近は罵倒し合う人たちがいるが、それは判断力と相反することなのである。
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