日本の政党で安定しているのは自民党だけで、それ以外は国民の一部の支持を得ているだけである。それは立党の理念が明確でないからだろう。さらに、保守とリベラルが混在していて色分けがはっきりしないことも国民に混乱を与えている。伊藤隆の『昭和期の政治』を踏まえて、見取り図をつくる必要性があるのではないだろうか。伊藤によると、昭和初期には、革新派には共産主義者やそれに近い自由主義者の「進歩ー革新派」と、より日本的な変革を志向する「復古ー革新派」があった。政府の圧迫で「進歩ー革新派」は昭和10年までに一部を除いてほぼ壊滅し、その多くが「復古ー革新」派に移行する。そして、危機的な状況下で復古的な革新論者が権力の中枢を握ることになり、そこで革新色が強い部分と復古的な部分との対立が顕在化した。前者が革新右翼であり、後者が精神右翼である。大東亜戦争を指導したのは革新右翼であった。米英との和平運動の中心になったのは現状維持派(親英米派)と精神右翼であった。それが敗戦後には現状維持派が反共国体護持を掲げて保守党を結成し、それがまとまったのが自民党であった。広い意味での革新派から共産主義の革命を目指す政党もいくつかできたが、それは批判勢力にとどまった。昭和の初めからの歴史を辿ってみると、精神右翼と現状維持派が戦争に対しては否定的であったことがわかる。中国を植民地化した敵愾心を抱いた北一輝ですら、アメリカとの戦争を望まなかったのである。精神右翼の流れをくむ人たちが、平和安全関連法案に賛成するのはある種のバランス感覚からであり、「戦争をやりたがっている」と批判するのは間違いなのである。反米を旗印にした者たちがアメリカとの戦争を引き起こしたのだから。
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