天皇陛下がお受けになられた心臓の手術が無事に終わったというのを聞いて、私もほっと胸をなでおろした。ご容態が安定されるまでは、集中治療室でお過ごしになられるわけだが、心ある国民は、一日の早く陛下がお元気なお顔をお見せになれることを、お祈り申し上げているのである。陛下はお若いときに日本の敗戦をご経験されており、それだけにご苦労も多かったとご推察される。しかし、ご即位にあたって「大行天皇のご威徳に深く思いをいたし」というお言葉をお述べになられ、祭りごとをお重んじられ、自らも稲刈りをなさっておられる。江藤淳は昭和60年の園遊会のおり、先帝陛下がすぐ近くまでお越しになられて、「江藤かい、いまでも漱石やっているの」との一言に、「私は陛下のお息を感じたのです」(大原康男との対談・「Voice」平成元年3月号)と述べている。それと同じく陛下の息を、今回東北の人たちも感じたのではなかろうか。大原は「息(し)は霊(ち)と同意通義ですから、すなわち霊ですね」と解説していたが、東日本大震災でかけがえのない家族を失った者たちを前にして、一緒にお泣きになり、苦しみを共有しようとされるお心遣いに対して、東北人は深く感動したのだった。そして、もったいなくも、陛下の霊に触れることができたのである。来週の月曜日午後には、ICUからお出になられると思うが、今は私も、ただただお祈り申し上げるだけである。
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