サラリーマンと靴磨き職人の二足の草鞋を履く吉田剛さん
むかし、英国・ロンドンのシティ(金融街)というところで路上靴磨きをしている人を見たことがある。当時はまだシティ界隈には山高帽をかぶり手にステッキをもつ英国紳士をたまに見かけることがあった。もちろんスーツにネクタイ(蝶タイ含)にピカピカに磨かれた革靴がお決まりのスタイル。そんな街では靴磨きが絶好の場所となっていた。
日本でも昔はそういう光景は随所にあったようだ。高度成長期では街のシンボル的な光景に見えた。お客は椅子に座り、磨き台に足を上げ新聞や雑誌を手に、また職人を相手にお喋りしている靴磨きの光景が印象深く残っている。
その靴磨きがニュービジネスとして注目されてきている。だが、ビジネスとして展開できる需要があるかといえば、時代に少々逆行しているようにも思える。サラリーマンの靴といえば足元は当然ながら革靴というのが定番だが、いまやカジュアル的で歩きやすく軽いそして安価の靴が主流になっている。マーケットの中心層であるサラリーマンは靴磨き対象層としては考えにくくなっている。
そんな中で、新しいマーケット層として生まれてきているのが、スタイルステイタスの備品として腕時計や靴などに価値を求める20代から40代の若手起業家たち。自らのこだわりを大切にするニューリーダーたちが大切な客層になりつつある。
それらの人たちに応えられる靴磨き職人に必須なアイテムが求められている。それは「プロフェッショナル」という技能が求められている。いま日本の靴磨き職人は30代、40代が中心で日本人独特の工夫と心こもる丁寧さが大きな武器になり、靴磨きの世界大会で優勝するほどの実力がある。職人たちの切磋琢磨が新しいビジネスチャンスを生もうとしている。
その一人に先日会ってきた。西宮在住の吉田剛さん、40歳。平日はサラリーマン、週末は靴磨き職人の二足の草鞋で頑張っているひとりである。イベントなどに参加し学んだ技能を実践で磨きをかけている。
「おしゃれは足元から・・・って言いますよね。でも靴ってすごく気にする人とそうでもない人に分かれると思います。私は、平日はサラリーマンで営業職なのですが、新入社員の頃にはどうせよく歩くから靴なんて履き潰せばいい!と思っていました」
そんな吉田さんが、靴が気になるようになったのは、友人の結婚式のために購入した一足の革靴がきっかけだった。
「頑丈なつくりとサイズ感が合う革靴を履いた時、こんなに歩き易いのだ、と驚きました。それで、営業にも履くようになって! 履いてみると、気持ちが引き締まると同時に足も疲れにくくなり、仕事に良い影響が出ることを実感するようになりました」と。
良いモノを身に着けると、しぜんに大事にしたくなることを体感し、靴のケアや保管方法の大切さに気づき靴磨きを独学で勉強したという。
靴磨きへの思いが強くなった吉田さんは、自らも靴磨きを通して多くの人に感動を与えたいと思うようになり、プロの職人のセミナーを受けながら独自でスキルを向上させていった。
地元西宮に目を向けるようになると、西宮の素敵な店や人にも出会う。「win-winになれるお店や、人との出会いが嬉しくて!」。こうして、平日はサラリーマン、週末は靴磨き活動という吉田さんのスタイルが生まれた。
「私たちもお肌のケアをしますよね。靴のケアもほぼそれと同じなのです。好きな革靴にもたまにはクリームを塗ってあげてください。靴用のクリームがなければ、お使いのハンドクリームでも構いませんから・・・・。」
お客様が喜ぶ顔が力になるようである。その前に自分が喜んで楽しく靴磨きをすることを何よりも心掛けている。そんな中から素晴らしい表情が生まれてくる。これが新しいビジネスを創り出す原動力になると実感した。
リポート&写真/ 渡邉雄二
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