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12月16日(月) 成瀬とまひろ。【後編】

2024年12月21日 08時02分07秒 | 2024年

 前編からの続き(前編はこちらから)。

 


 前編でも書きましたが、この日記には宮島未奈さんの小説『成瀬は天下を取りにいく』及び『成瀬は信じた道をいく』のネタバレが盛大に盛り込まれています。これから読まれる予定の方はご注意ください。個人的には、この日記のような事前情報は全く入れずに作品を読まれることをおすすめします。


 

 時刻は12時過ぎ。

 石山寺を出て、瀬田川沿いを琵琶湖に向かって歩く。

 瀬田川は琵琶湖の水が自然流出する唯一の川である。琵琶湖の南端から流れ出し、途中で宇治川、淀川に合流して最終的には大阪湾へ注ぐ。昨日のミシガンクルーズでミシガンパーサーさんから教えて頂いたばかりの知識である。

 瀬田唐橋(せたのからはし)が見えてきた。京都と東の国々を結ぶ交通の要所であり、軍事的にも「唐橋を制するものは天下を制す」と言われるほど都を守る要衝だった。そのため、敵軍の侵攻を阻むために何度も焼き落されている。「急がば回れ」の語源となった場所(「回れ」のほう)でもあるそうだ。

 また、夕日の美しさは有名で「瀬田の夕照」として近江八景にも選ばれている。

 橋の真ん中まで行ってみよう。

 私はてっきり橋の上から琵琶湖越しに見える夕日が美しいのだろうと思い込んでいたのだが、琵琶湖は真北にある。

 橋の上から見える夕日は比叡山に沈む。後から調べてみたら、夕日に照らされる瀬田川とこの橋が美しいということだった。

 橋のすぐ近くにある近江牛専門店「松喜屋」へ伺う。

 道を挟んだ両側に店舗があり、こちらは精肉店とハンバーグ専門店「ハンバーグステーキ松喜屋」。

 ここでスタンプラリーをコンプリートした。

 ハンバーグ専門店では『成瀬は信じた道をいく』とのコラボメニューが提供されている。

 私は反対側にある「れすとらん松喜屋本店」を予約している。篠原かれんが家族からびわ湖大津観光大使就任のお祝いをしてもらったお店である。

 ここにも宮島未奈さんのサインが飾られている。

 篠原一家と同じ「一番高い近江牛のコース」には手が届かないが、奮発して個室を押さえた。

 「紫式部近江牛御膳」を頂く。

 紫式部と平安貴族の生活様式や食文化をモチーフにした御膳である。

 飲み物は甲賀コーラ。味が濃くて美味しい。料理の世界観と合わないことは重々承知なのだが、コカ・コーラもペプシもボイコット中なのでクラフトコーラがあると飲みたくなってしまう。

 コースは十二単のサラダから始まる。先ほど石山寺の大河ドラマ館でまひろの衣装を見たばかりなのだが、どこが十二単なのかはわからない。ただ、味はとても美味しい。お肉は厚みもあって柔らかく、野菜も新鮮だ。

 イワシの南蛮漬け、養老豆腐氷見立て、近江牛の手毬寿司の3種盛り。紫式部はイワシが好物だったらしい。私もイワシは好きだし、年齢を重ねるに連れてこういう手の込んだ小鉢料理に喜びを感じるようになってきている。

 松喜屋風空也蒸し。お豆腐の入った茶碗蒸しである。私は普段あまり茶碗蒸しを好んで食べないのだが、これは驚くほど美味しかった。私の嫌いな椎茸が入っていないのと、そもそもの出汁が美味しいのだと思う。

 早々にコーラを飲み干し、2杯目からは料理とのバランスを考えてウーロン茶にする。

 焼魚はビワマスのバーニャカウダーソースがけ。ビワマスはその名の通り琵琶湖の固有種で、高級品らしい。

 脂がのっていてとても美味しい。お刺身でも食べられるそうなので、次回は是非食べてみたい。

 はなびらたけのお吸い物。ぷるぷるした食感のはなびらたけとお出汁がよく合うし、すだちの酸味がいいアクセントになっている。先ほどの茶碗蒸し然り、ここのお出汁は本当に美味しい。

 いよいよメインの近江牛ステーキである。味付けはガーリックチップ、醤油を練り込んだ西洋わさび、泡塩(昆布だしと塩を泡立ててゼラチンでメレンゲ状に固めたもの)、玉ねぎとりんごの自家製ソースの4種類。

 お肉は最上位ランクの「極上サーロイン」(150g)にした。

 自分で焼くスタイルである。

 脂のじゅーっという音と良い香りがしてくる。

 自分で選んでおきながらサーロインだと脂が多すぎるのではないかと不安だったのだが、赤身とサシのバランスが良く、様々な味付けのおかげもあって最後まで新鮮な感動と共に食べることが出来た。特に泡塩と西洋わさびを合わせて食べると最高である。

 デザートは自家製チーズケーキ、シャーベット、フルーツ。チーズケーキがしっとり濃厚で珈琲とよく合う。

 期待以上に美味しいランチだった。奮発して良かった。

 唐橋前駅から京阪線に乗る。ホームには観光大使募集のポスターが貼られている。成瀬と篠原の同期はどんな方になるのだろう。

 京阪膳所駅を下りたところで成瀬ラッピング車両と遭遇する。

 ときめき坂のセブンイレブンでガリガリ君ソーダ味を購入。

 M-1グランプリの予選から帰って来た成瀬と島崎を真似し、馬場公園で食べる。成瀬はガリガリ君、島崎はチョコミントバーを食べていたが、チョコミントバーは売っていなかった。

 馬場公園はゼゼカラの漫才の練習場所でもあった。公園内のどこでという記述はないのだが、何となくこの場所のような気がする。ベンチに荷物を置き、木と木の間に立って漫才をしている2人の後ろ姿が目に浮かんでくる。

 オーミー(Oh! Me 大津テラス)に入っているフレンドマートのサービスカウンターへ行き、スタンプラリーの景品を頂く。成瀬の栞である。嬉しい。

 京阪線沿いに10分ほど歩き、島の関のロイヤルホスト(浜大津店)へ。「観光大使-1グランプリ」の一次予選を突破した成瀬と篠原が、二次の近畿ブロック予選に向けて作戦会議をしたお店である。

 成瀬たちと同じ京阪線が見える窓際の席に座ると、ちょうど成瀬ラッピング車両が通った。

 篠原かれんは鉄道写真を撮るのが趣味だが、そのことは成瀬以外の誰にも話しておらず、Instagramの裏アカで密かに撮影した写真をアップしている。祖母、母から続く三世代観光大使という夢を託され生きてきたが、いざなってしまうとこの先何を目標に生きていけばいいのかわからない。そんな篠原に成瀬は「趣味の鉄道写真を極めるのはどうだ」「それは十分に生きる目的だと思うのだが」と問いかける。この時はまだ「鉄道はあくまで裏だから」とやり過ごした篠原だったが、近畿ブロック予選ではその鉄道知識でピンチをくぐり抜け、本選出場はならなかったものの審査員特別賞を受賞する。彼女はこの時初めて心から「観光大使になってよかった」と思った。この章(「コンビーフはうまい」『成瀬は信じた道をいく』第4章)は彼女の「成瀬、あんた最高に映えてるよ。」という言葉で締めくくられるが、読者からしたら篠原も成瀬に負けないくらい映えていた。そして、次章で登場する彼女は堂々と「ごっつめのカメラ」を構えて京阪線のラッピング車両を撮影している。

 ヨーグルトジャーマニーを食べる。今日は既に30,000歩以上歩いてるので、糖分補給は大切である。

 オーミーへ戻り、2階の一帯を占めている大きな「TSUTAYA」で成瀬グッズを購入。発売直後のびわ湖マラソンとのコラボTシャツやクリアファイルなどを買う。

 におの浜地区最寄りの神社だと思われる「石坐神社」を参拝する。奇想天外な大晦日を終え、2026年の元旦に成瀬と島崎は近くの馬場神社へ初詣に行く。それがこの石坐神社であるという確信はないが、可能性は高いと思う。

 2人はおみくじを引き、島崎は吉、成瀬は大吉だった。成瀬はなぜか毎年大吉を引くらしい。さすが。

 島崎は成瀬が何を祈るのか気になるが、知りたくないような気もして聞けない。逆に聞かれても、本当の願い事は成瀬には言いづらい。私はもうすぐ終わる旅の無事と家族の健康を祈った。近江神宮の時と同じだ。

 参拝を終え、琵琶湖を目指して歩く。におの浜地区のマンションはどれも成瀬が住んでいそうに見える。

 今回の旅で琵琶湖を訪れるのもいよいよこれが最後である。

 2026年の初詣を終えた2人は湖岸を歩く。

 「島崎、今年もよろしく頼む」。琵琶湖に目を向けたまま言う成瀬に、島崎は「もちろん」と答える。そして、先ほど神社で祈ったことを、琵琶湖に向かってもう一度祈る。

 「これからもずっと、成瀬を見ていられますように。」

 それは私を含む多くの読者も同じ気持ちだろう。

 琵琶湖に別れを告げ、「びっくりドンキー」(大津店)で夕食。高校3年生の8月、翌週に迫ったときめき夏祭りの全体打ち合わせを終えた2人が食事に訪れ、成瀬が島崎から引越しを知らされる。

 成瀬が毎回必ず食べているというチーズバーグディッシュを注文。びっくりドンキーのハンバーグを食べるのはかなり久しぶりだが、やはり美味しい。

 デザートはミニソフト(イチゴソース)。これも成瀬の定番である。島崎の引越しを聞かされた時、成瀬はこのミニソフトの白玉を食べていた。しかし、今はもうデザートメニューに白玉は入らなくなったようである。そういえば、昔のびっくりドンキーには「メリーゴーランド」という理想的なパフェがあり、それに入っていた白玉は本当に美味しかった。

 食事を終え、におの浜地区を後にする。ときめき坂を歩くのもこれが最後である。成瀬の月曜日のパトロールコースなので、どこかですれ違ったかもしれない。

 電車の時間まで少し余裕があったので、朝食がとても美味しかった「ベルエキップ」(Belle Equipe)を再訪。

 珈琲を飲みながら膳所駅前の様子を眺める。店主さんと常連客の会話が心地良い。

 膳所駅から琵琶湖線に乗る。今回予定していた場所は全て訪問することが出来たが、成瀬シリーズはこれからも続くようなので、今後また新たに行きたい場所が増えていくだろう。成瀬、島崎、またね。

 京都駅19:10発のこだま752号に乗り、新横浜へ帰る。帰りも「ぷらっとこだま」である。最新のN700S系グリーン車に乗れて嬉しい。

 売店で白湯が売っていることに驚いたが、よく考えてみれば水が売られているのだからそれほどおかしなことではないか。

 なぜ私はこんなにも成瀬シリーズにハマったのだろう。本屋大賞を受賞するくらいだから作品そのものが素晴らしいというのはもちろんだが、それ以外にも私の趣向とぴったり合う何かがあるような気がする。ひとつわかっているのは、私は女性同士の友情を描いた作品に惹かれる傾向がある。角田光代さんの『対岸の彼女』がきっかけだったと思うが、男性同士のそれとは明らかに何かが違い、私自身は経験することの出来ない女性同士の友情、影響の与え方、与えられ方といったものに興味(「憧れ」という表現のほうが適切かもしれない)がある。

 元々私は、何かを見たり聞いたりすると現地へ行って実物を体感してみたいと思うタイプではある。しかし、小説を読んでその聖地巡礼をするというのはこれが初めてだ。しかも今回はかなり強い衝動に突き動かされ、一度インフルエンザで中止になってもそのまま諦めるという発想は全くなく、すぐに再チャレンジの計画を立てた。訪問先のリストを作るために作品を何度も読み返し、エクセルシートに場所とエピソードをまとめて整理するほど気合いが入っていた。楽しみ過ぎて前日の夜になかなか寝付けないということも、かなり久しぶりに体験した。そうしていざ巡ってみて思うのは、「聖地巡礼めちゃくちゃいいじゃん」ということである。今後読めるであろう成瀬の続編はもちろん、他の作品・コンテンツでもこういう楽しみ方をするという選択肢が得られたことは大きい。

 そんな風に今回の旅を振り返っていると、3時間20分もあっという間である。

 23時前に帰宅。

 入浴を済ませて洗濯機を回し、お土産を整理する。妻には地ビール、娘にはクッキーを買ってきた。

 自分用には成瀬グッズ。びわ湖マラソンとのコラボTシャツと、

 クリアファイルを3種類。

 クリアファイルは2枚ずつ買った。大人買いである。

 洗濯が終わるまで時間で写真の整理をしつつ、足をマッサージする。2日間で6万歩以上歩いたので、足がパンパンだし足首も痛む。

 1時過ぎに就寝。楽しい2日間だった。