「お前がそう思っているならそれでいいさ。」
そう言って源兄さんは立ち上がり消えようとします。ここで消えられては大変です。
「おい、待てよ。」
先ほどの源さんの言葉の真実を聞こうとして蛍さんの父は源さんのズボンの裾を掴みました。
「さっき言った事は本当なのか?」
兄さん如何なんだいと、弟に詰め寄られて、源さんはやや真顔になると、
「冗談さ。」
と、吐き捨てるように言いました。お前の事を揶揄っただけだよ。お前があんまり俺の腹の立つ事ばっかり言ったから、
ちょっとお前を揶揄ってみただけさ。そう言って源さんは
「俺一寸、澄にも話があるから、お前もいい加減に帰れよ、ここに長居しない方がいいぞ。」
変な奴らもいるしな、俺達だってお前たちの事、此処では何時まで庇ってやれるか知れないしな。
そう言って蛍さんの父に現世に早く戻るよう忠告するのでした。
そして、振り返って、2人の後ろで寝ていた蛍さんが居なくなっている事に気が付きました。
「あれっ?」
あの子がいなくなっている。外に出てないよな、うーん。と考え込んで、慌てて蛍さんを探しに外に出て、
きょろきょろしている弟に言いました。
「あの子、お前より一足先に自分で帰ったんだよ。」
案外、お前よりずーっと確りしてるよな、あの子。ホーちゃんだっけ。
とやや馬鹿にしたような笑みを蛍さんの父に向けるのでした。
蛍さんの父は、この源さんのような嗤いにあの子といるとよく出会うのでした。顔を赤らめてムッとします。
親の方が子供より確りしているに決まっているだろう。真剣な眼差しで兄に食って掛かるのでした。
源さんはこれはしまったと内心思うと、そうだな、お前の言う通りだよと素直に弟に謝ると、
兎に角早く帰れよと言うと、やっぱりもう少し送って行くよと岩場から出てくるのでした。
取り乱している弟の事が心配な源さんでした。
早めに現世に弟を送り返してしまい、澄とこれからの事を2人で相談しようと思うのでした。