Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

ダリアの花、73

2017-03-07 19:48:49 | 日記

「お前がそう思っているならそれでいいさ。」

そう言って源兄さんは立ち上がり消えようとします。ここで消えられては大変です。

「おい、待てよ。」

先ほどの源さんの言葉の真実を聞こうとして蛍さんの父は源さんのズボンの裾を掴みました。

 「さっき言った事は本当なのか?」

兄さん如何なんだいと、弟に詰め寄られて、源さんはやや真顔になると、

「冗談さ。」

と、吐き捨てるように言いました。お前の事を揶揄っただけだよ。お前があんまり俺の腹の立つ事ばっかり言ったから、

ちょっとお前を揶揄ってみただけさ。そう言って源さんは

「俺一寸、澄にも話があるから、お前もいい加減に帰れよ、ここに長居しない方がいいぞ。」

変な奴らもいるしな、俺達だってお前たちの事、此処では何時まで庇ってやれるか知れないしな。

そう言って蛍さんの父に現世に早く戻るよう忠告するのでした。

そして、振り返って、2人の後ろで寝ていた蛍さんが居なくなっている事に気が付きました。

 「あれっ?」

あの子がいなくなっている。外に出てないよな、うーん。と考え込んで、慌てて蛍さんを探しに外に出て、

きょろきょろしている弟に言いました。

「あの子、お前より一足先に自分で帰ったんだよ。」

案外、お前よりずーっと確りしてるよな、あの子。ホーちゃんだっけ。

とやや馬鹿にしたような笑みを蛍さんの父に向けるのでした。

 蛍さんの父は、この源さんのような嗤いにあの子といるとよく出会うのでした。顔を赤らめてムッとします。

親の方が子供より確りしているに決まっているだろう。真剣な眼差しで兄に食って掛かるのでした。

源さんはこれはしまったと内心思うと、そうだな、お前の言う通りだよと素直に弟に謝ると、

兎に角早く帰れよと言うと、やっぱりもう少し送って行くよと岩場から出てくるのでした。

取り乱している弟の事が心配な源さんでした。

早めに現世に弟を送り返してしまい、澄とこれからの事を2人で相談しようと思うのでした。


ダリアの花、72

2017-03-07 12:58:04 | 日記

 「あんちゃん、又そんないい加減なこと言って、その手は食わんぞ。」

蛍さんの父は兄とがっぷり四つに取り組む気配です。

「あんちゃん達だってな、あんな何時も自分勝手な事してたやつ、とうとう親に仇をなして最大不幸を施したな、

と言って馬鹿めとせせら笑ってたぞ。」とやり返します。

「もう一人のあんちゃんだってな、あんないつも嫌味で意地悪ばかりしてた乱暴な奴、

早く居なくなってせいせいしたな!、朝から3度の飯がうまいわい。」と、笑顔で元気に伸びをしてたぞ。

「おとっちゃんだってな、…」、とここ迄淀みなく勝ち誇ったように喋って来た弟は、はたと言葉に詰まりました。

 お父ちゃんだってな…、な…、泣いてたぞ。裏庭でしゃがみ込んで、…泣いていたんだ、酷くな。

おっかちゃんだって、おっかちゃんだって、…台所で、降り口に座り込んで、前掛けで目を拭っては、長い間、…泣いてたぞ。

弟はそう言いながら、段々声は小さくなってしまい、兄が亡くなった直後の家の様子が様々に思い浮んで来ると、

また当時の様に頻りに涙が溢れ出て来るのでした。

 しかし、遂に意を決したように、震える声を振り絞って

「この、あんちゃんのだらんま(馬鹿者)!親不孝者!」

と叫ぶのでした。後は馬鹿馬鹿馬鹿の繰り返しでした。そして涙がせき上げて来ます。

 この弟の様子に、兄の方はご満悦の体でした。

生前は父の自慢の息子、その1人として一世を風靡していた事を自らよく知っているのでした。

自分が死んで、泣かない家族がいる訳がありません。成績でも、家事仕事でも、

次兄に生まれた分兄を凌ぐ勢いで頑張っていたのですから。

盛んにしゃくり上げて泣く弟を労わりながら、彼の傍らで満足気に黙って微笑んで座っていました。

 「俺あんちゃんなんて大嫌いだ、嫌な事ばっかり言って、昔からそうだろ。」

そう言って蛍さんの父は恨めしそうに源さんを見るのでした。俺だってな、源兄ちゃんが居なくなってせいせいしたさ。

そう言って蛍さんの父は強がってみせるのでした。

 源さんの方はそよとも動じません。宿題や家の事、お前がする分までしてやったのは誰だっけ?

そう言って満面に笑みを浮かべるのでした。

蛍さんの父はややしんみりすると、そうだけど、と同意した物の、家の事はどうあれ、

宿題の方は俺にとってはマイナスだったろ、返って俺の為にならなかったって、後から上のあんちゃんに言われたし、

俺も今から思うとそう思う。あの宿題、源ちゃんの方の為になってたんだろう。と、源さんに取って痛い所を突くのでした。

 事実、自分にとって過去の問題をする事は、源さんの学業に非常なプラスになっていたのでした。

苦笑いを浮かべながら、源さんはそろそろ退散しようと思います。


ダリアの花、71

2017-03-07 11:07:42 | 日記

 蛍さんが意識を回復して、お寺の奥様に看護を受けている頃、

如何いう訳かまだ父はあの世界で亡くなった兄と話し込んでいました。

「だがなぁ、あんちゃん。(兄さん)」

一休みした所が釜倉のような岩場の洞窟でしたから、傍に誰もいないと思うと誰気兼ね無く普段口調になる兄弟です。

「おわ(俺)だって一生懸命やってるよ。おとっちゃん(お父さん)も言って来るしな。」

座り込んで一休みすると、今までの疲れも加わり顎が出てしまいます。源さんはそんな弟に諭すように言います。

「何も一生っていう訳じゃないよ、女の子なんだから今だけのようなものさ。」

将来は嫁に行くし、少し大きくなれば母親の方が面倒を見るし、また、見ない訳にはいかなくなるだろう、

男親のお前に大きくなった女の子の面倒が見れるわけないし。澄の事を考えろよ、少し大きくなったらおっかちゃん(お母さん)が見てたじゃないか。

あの、物臭のおっかちゃんでも喜んで世話を焼いてたんだぜ、今はまだ無理でも、

お前の奥さんがその内ちゃんと世話を焼いてくれるようになるから、それまでの辛抱だよ。

いわば、短期集中型だな、これに徹しろよ、いいな。そう言うと源さんは弟の背をボンと叩くのでした。

よっしゃよっしゃ。大きくにこやかに弟に笑って見せます。

 蛍さんの父はブツブツと、他人事だと思って、子供って大変なんだ、とこぼしていましたが、急に思いついたように大きな声で、

「兄ちゃんには子供が無かったからな、結婚もしてなかったし、父親や夫の気持ちが分からないんだよな。」

と決めつけるのでした。そして、ふん如何だいと言わんばかりに胸を張って見せました。

源さんは内心ムカッとしました。頭を小槌で殴られたような衝撃です。しかも、図に乗った弟はこう続けます。

「俺なんてな、結婚してちゃんと子供まで儲けたんだ、男として一人前の人生を歩んでいるんだからな。」

兄ちゃんみたいな人生半ばで早世した半人前とは違うんだからな。

しかも、親より先に旅だった親不孝者とは違って、俺はまだ生きているんだ、親孝行者なんだぞ。

と言ってしまったからには仕様がありませんでした。怒り心頭に発した源さんは、

「そんなら言うけど、あの子はお前の子じゃないからな。」

澄は黙っていろと言っていたけど、俺腹が立ったから言ってやる、そう言って内心の怒りを抑えながらふふんと、

不敵な笑いを浮かべて皮肉たっぷりに暴露するのでした。

さて、真実や如何に。紙芝居なら、これにて第71巻の終わりでございます、次きは次回を御覧じろ。と続くところです。