Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

ダリアの花、87

2017-03-16 22:41:32 | 日記

 「あなた、私達も帰りましょう。」残っていた親戚の奥様が仰います。

ところが、この家のご主人の方は何だかにこやかです。いかにもの含み笑いから相好を崩しながら、

「いや、私は見て行くよ。」

と何だか朗らかに仰います。そして横にいる奥様にぼそぼそと、

「おまえ、ここのお寺さんの憑き物落としは有名なんだよ。」

会社でも聞いた事があるし、私も実際に前に1度見た事があるんだ。なぁ父さん。

そう言って前に座っている蛍さんの祖父に話しかけます。ああと、祖父は後ろも見ずに答えました。

「お前は見た事があるな。確かに憑き物落としにあったな、お前は。」と息子に答えます。

 「それに、面白いんだよ、可笑しいと言うか、まぁ、お前も1度見ておくといいよ。聞いておくかな。」

そう言って、うっくふふふ、ぷっと、堪え切れずに噴き出してしまい、酷く可笑しそうに笑われます。これを見て奥様も、

「なんだ、面白いんですか?そんなに。それは見ものだわ。」

と、目を細めて、でも内心はおっかなびっくり、それでも度胸を据えて興に乗る決意です。

 残された奥様は後ろの入り口を振り返って、先に出た親戚の奥様を伺います。

彼女はどうやら襖の陰でこちらの様子を窺っている気配です。

『ふん、私だけ夫に付き合って嫌な目に遭うのは癪だわ。』

と、この奥様はそーっと立ち上がると、一寸おトイレへと夫に小声で言うと、後ろの出口から出て行きます。

 果たして、先に立ったお家の奥様が襖の陰に寄り添って聞き耳を立てておられます。やはりねと今出てきた奥様は思います。

襖の陰から、奥様同士の軽い笑いを含んだ声音が聞こえてきます。

 「あら、もうお帰りかと思っていましたら。」

「まあ、まだタクシーが来ないので、如何なったかしらと蛍ちゃんが心配で、心配で。」

「おや、まぁ、まだ何も始まってませんよ。それより、奥様、何だか家の主人が申すには、ここのお寺さんの憑き物落としは大層面白いのだそうですよ。ほほほ、見ないで帰られるなんて、大層惜しい事をされますね。」

「え、そうなんですか?ちょっと主人に聞いて来ます。あなた。」

あなたと、ここで声は途切れて、居残り組のご家庭の奥様は本当に厠へ行かれた様子です。

 この間、住職さんは再び廊下に出て、自分の相方を務める奥様の様子をお尋ねになります。


ダリアの花、86

2017-03-16 16:48:03 | 日記

「帰ろう!」

機敏な者はそう言って帰る支度に取り掛かりました。蛍さんの祖父も例外ではありません。

が、事は孫娘の事、何かしら白黒の決着が付く迄は動く事も出来ません。

「物の怪ですか?」

真顔で恐る恐る蛍さんの祖父は住職さんに尋ねました。

 「左様、憑依されましたな。」

お宅の孫娘さんは、多分、動物というより誰か人の霊に取り憑かれたんです。

憑き物落とししないといけませんな。と仰います。

 「これから私が除霊をしようと思います。」

住職さんはそう前置きして、除霊には時間が掛かるので、お急ぎの方や、この場にいる事に気乗りのしない方は、

遠慮なくお帰りください。また、除霊中に何かありましても、当方では一切責任は負えませんので、

お残りの方はその旨ご了承の上でお残りください。と注意されます。

 さあ、機敏に帰り支度に掛かった何人かがさっと立ち上がり、行くよと、横にまだ座ったままの連れ連れを促します。

その何人かの内の1人の奥様が、面白そうだ、向学の為に見ておきたいと夫に言われます。

この奥様の方は何だか笑顔で興味津々、除霊は半ば冗談だと言う顔つきでした。が、

ご主人の方は全く血相を変えて、目など吊り上げて奥様に屈み込むと、ぼそぼそ耳打ちします。

 「おまえ、除霊された霊が次に誰に憑り付くと思うんだね、」

あっさり往生すればいいけれど、次はお前さんという事もあるんだよ。今のあの子の笑いを聞いただろう、浅ましい。

お前皆さんの前でああなりたいのかい?こう言われると奥様もさっと顔色が変わります。

ご主人と同じように恐怖で目を吊り上げると、今までの落ち着いた態度を豹変させて、傍らにいた子供を急き立てて立たせます。

「では、家の方は用事がございますので、申し訳の無い事ですがこれにて御免いたします。」

こうそつ無く言うと、そそくさと先に立つ夫の後に従い、家族連れだって座敷から出て行く様子です。

 「お前帰るの?」

あんたさんまで、そんな心細そうな祖父の声を残して、親戚は1人、2人と座敷から消えて行きます。


ダリアの花、85

2017-03-16 08:32:31 | 日記

  住職さんは座敷に戻って来ました。

「皆さん、1つ問題が発生しました。」

住職さんの言葉に、座敷の中は皆一様に何事かと騒めき、中には、問題ならもう既に1つありますよ、という者もありました。

「確かに、今までの問題は本家の孫娘さんが、跡継ぎの息子さんの実子かどうかでした。」

が、討議の最中に全く新しい問題が発生しました。住職さんの言葉に皆一様に驚き興味を抱きます。

 ホーっ、それはどんな問題ですか。早く聞かせてください。等々上がる声に、室内のざわつきを押し鎮めながら、

住職さんは厳かに言います。

「一寸話題のお孫さんの様子に注目してみてください。」

住職さんの言葉に、皆話すのをピタリと静めて、祖母に抱かれてその膝の上で寛ぐ蛍さんを注目します。

 室内の暫しの沈黙の後、さわさわと耳打ちしたり、ぼそぼそと小声で話す者も出て来るようになると、

皆の口々に思い思いの感想が上ってきます。

あれ?という者もあれば、別に普通じゃないか、という者もあり、変だという者もあれば、

この子は何時もこうだという者もいます。

しかし、段々と座敷の中の声は1つに纏められ、やはりこの子は普段と違って何か変だ、何だか妙だという事になりました。

 それで、「もし変だとしたらどうだと言うんです。」と誰かが住職さんに質問しました。

「皆さん、何故本家のお孫さんが変なのか理由の分かる方はおられますか?」

 住職さんは問いかけます。お分りの方はどうぞ、忌憚の無い意見をお聞かせください。

こう住職さんに言われて、ホーちゃん普段から変だから、と親戚の子が面白そうに言うと、

皆、はははは、くすくすと笑い声が漏れ、それまで何となく緊張していた場は一様に和むのでした。

住職さんも、これはこれはと笑いながら、普段からそんな事もおありなのかもしれませんが、

今は本当にこのお子さんは何かおかしくないですか?と仰います。妙でしょうと。

 そう言われてみればと、皆がもう1度蛍さんに注目します。ふっと静かになった座敷の中に、突如蛍さんの笑い声が響きます。

「けけけけけ、キャラキャラ…、ひひひひひ」と、如何にも異様な笑い声が響きました。