澄さんと蛍さんがそうやってかくれんぼをしていると、お寺の奥様の声が段々遠ざかって行きました。
「ふう、これで一安心。」
澄さんが一息吐きました。少しのんびりしましょうと蛍さんに言います。蛍さんの方は、
不思議な事に何となくこのお姉さんに親しみを感じるのです。何だか寛いだ気分になりました。
2人でうふふと仲良くお喋りを始めました。すると、明朗な雰囲気の若い男性がこちらへやって来るのが見えます。
髪も明るい栗色をしています。目はエメラルドのような色で落ち着いた印象を与えます。
彼は澄さんと蛍さんに気付くとにっこりと笑い、陽気に挨拶をしました。
「こんにちは、ご機嫌いかがですか?」
「こんにちはご機嫌いいですよ。」
男の人の言葉に澄さんが答えます。
如何やら2人は知り合いのようです。蛍さんはこの2人の事情が分からないので、不思議そうな顔をして男の人の顔を眺めていました。
この後、若い男女はにこやかに会話し始めました。聞いていると話は長引きそうです。
傍らにいた蛍さんは話に入ることも出来ないので少々退屈してきました。
それで、2人から少し離れると好みの絵を描き始めました。
今回は動植物ではなく、へのへのもへじ、家や雲や太陽等でした。風景画といえば、そういった物でしょうか。
蛍さんに、特に前回のこの世界の記憶があった訳ではありませんが、何となく前とは違うパターンの絵を描いてしまったのには、やはり何かしらの前回の影響があったのかもしれません。
蛍さんは絵を描くだけでは退屈になって仕舞いました。ふんふんと歌を歌ったり、
足元の細かな土を手で寄せて山を作ってみたり、その山を崩してみたりと様々に一人遊びしていました。
「……」
自分に掛けられた言葉に気が付くと、澄さんと話をしていた若い男性が、蛍さんの傍らに来て彼女の絵を眺め、
身振り手振りを交えて蛍さんに何やら意思の疎通を図っているのでした。
にこやかに蛍さんに何かを話掛けてきますが、彼女には彼が何を言っているのかさっぱり分かりませんでした。
それで蛍さんは目を大きく見開いて、注意して彼の様子を眺めていました。